Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ソーハン
Sohan
小麦の粉を、油脂と糖で練る
砂糖菓子 / イラン・ゴム

ソーハン(Sohan)は、イランのゴムの名物として知られる、薄く脆い糖菓です。発芽小麦由来の粉、砂糖、油脂を合わせ、サフランやカルダモンで香りを付け、ピスタチオやアーモンドを添えます。乳白色で粘りのあるギャズに対し、こちらは褐色の薄片が割れる歯触りを持ちます。2つを同じ土産菓子の棚で見かけても、中心となる生地は異なります。
小麦の粉を、油脂と糖で練る

2007年にゴムの製菓室で撮られた攪拌機と釜。煮上げる菓子の背後にある設備が見える。
写真・図版:Mostafameraji/CC0/原図。原寸ではなくCommonsの1280px縮小配信。切り抜き・色調整なし。釜の中身や機械の駆動状態は写真だけでは確定しない。
ソーハンの特徴的な材料は、発芽小麦由来の粉です。古い製法の1つでは、小麦を発芽させて若芽を分け、天日で乾かして粉にし、通常の小麦粉と合わせます。現代のルセット(材料の配合と作り方)には小麦胚芽粉を使うものもあり、小麦粉との配合にも違いがあります。小麦の粉に油脂と糖を合わせ、加熱しながら水分を減らして生地を練ります。
古い作り方には、この2種類の粉を熱い湯に加え、十分に練ってから油脂を合わせ、糖液や葡萄のシロップで甘味を付けるものが伝わります。この系統には、ナッツと香辛料を加えた、ハルヴァのような柔らかい菓子の姿が見えます。今日の薄く割れるソーハンだけが、過去の同名・近縁の菓子の全体ではありません。
現在のゴムのソーハンには、卵黄を用いる製法もあります。乳脂肪を使うもの、植物油脂を使うもの、蜂蜜を合わせるものなど、原料には幅があります。ナッツの量や形、薄さも商品ごとに異なります。手仕事の一例では、煮上げた生地を小さな塊に分け、平らな面へ移して、手持ちの道具で押し広げます。小分けする工程、押して厚みを整える工程、ナッツを飾る工程が組み合わされています。ナッツも生地へ押し込み、冷まして形を定めてから箱に収めます。
薄片、ひと口、白い詰め物
薄く平らにしたソーハンは、表面にナッツの粒を載せ、丸い缶などへ収めて売られます。噛んだときは、厚い団子のように押し返すより、薄い生地が割れて崩れます。サフラン、カルダモン、油脂の香りが、糖の甘さとともに感じられる構成です。
ゴムには一口大のロクメイ、ギャズを組み合わせたガズィ、蜂蜜を使うアサリなど、さまざまな呼称の製品があります。ガズィでは脆い生地と白い糖菓が重なるため、ギャズとソーハンの違いを1つの菓子の中でも見ることができます。ソーハンという名は1枚の丸い薄片だけでなく、小さくまとめたり、別の菓子と組み合わせたりしたものへ広がっています。
土地とともに変わる、ソーハンの名
イスファハーンのソーハン・アサリは、蜂蜜とナッツを使う薄い糖菓としても知られます。ゴムの発芽小麦を使うものと、名前の似た蜂蜜を使うものでは、材料の中心が異なることがあります。
南アジアのソーハン・ハルワにも、似た名とナッツ入りの姿があります。パキスタンのムルターンでの2023年の職人取材では、乳と粉、砂糖、カルダモン、ギーを大鍋で数時間混ぜ、冷えて固まった塊を缶へ詰めています。ゴムの薄く押し広げる小麦の糖菓と比べると、乳を使う生地の厚みと、練ってから固める仕上げに違いがあります。ムルターンの菓子も国内外への贈り物になりますが、同じような名と缶入りの姿の内側に、別の材料と工程が収まっています。
ハルヴァ・コミから、町の土産へ

ゴムのファーティマ・マアスーメ廟を訪れる人の通り道にあるソーハン店。円盤状の菓子と容器が店先に並ぶ。
写真・図版:Oxlaey/CC BY 3.0/原図。CC BY映像の15秒位置からffmpegで静止画を抽出。撮影日未詳、公開ファイル記載日は2017年。
ソーハンの名の説明には、ゴムで食事をした王やその代理人が登場します。伝承では、ハルヴァ・コミという菓子を食べた人物が、それを「やすり」のように食事の重さを削る菓子にたとえ、その呼び名がソーハンになったとされます。ペルシャ語のソーハンには、やすりを指す意味があります。
1つの筋では、19世紀のゴムの聖廟の中庭落成式に、ナーセロッディーン・シャーの代理人が出席します。地元の人物が贈った甘いハルヴァを食事のあとに食べた代理人が、やすりのように食事の重さを削ると評し、王のもとへも持ち帰りたいと求めたとされます。別の筋では、ゴムを訪れたモザッファロッディーン・シャー本人がハルヴァを食べ、同じやすりのたとえを口にします。2つの筋には、祝いの席の代理人と、旅先の王本人という違いがあります。この逸話は菓子の名を説明する伝承として残り、特定の王の訪問日をそのまま発明日とすることはできません。
ゴムはファーテメ・マアスーメ廟を擁する巡礼地で、ソーハンはそこで広く作られる土産菓子になりました。町を訪れた人が持ち帰る菓子として知られ、多くの工房がそれぞれのソーハンを作っています。薄い糖の生地とナッツを収めた缶は、ゴムの菓子の商いと、町を訪れる人々の往来に結び付いています。
用語解説
- ソーハン・ハルワ
- パキスタンやインドなどで作る菓子。本文ではムルターンの職人が作る乳入りのものを、ゴムのソーハンと比較しています。
- ムルターン
- パキスタンの都市。ソーハン・ハルワの産地として知られます。
- ギー
- バターなどから水分と乳固形分を除いた乳由来の油脂。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- ゴム
- Qom。イランの都市。ソーハンの主要な生産地として知られます。
- ハルヴァ
- 粉やナッツなどを糖と油脂でまとめる菓子群。地域によって構造が大きく異なります。
- ハルヴァ・コミ
- ゴムのハルヴァという意味の呼称。ソーハンの命名伝承にも登場します。
- ロクメイ
- ひと口大の形に関わるソーハンの呼称。
- ガズィ
- ギャズを組み合わせるものに用いられる呼称。
- アサリ
- 蜂蜜に関わる語。ソーハンの種類の名にも現れます。
- ナーセロッディーン・シャー
- 19世紀のカージャール朝の王。ソーハンの命名伝承の一部に登場します。
- モザッファロッディーン・シャー
- 19世紀末から20世紀初めのカージャール朝の王。別筋の命名伝承に登場します。
- ファーテメ・マアスーメ廟
- ゴムにある、シーア派の信仰を集める聖廟。







