Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

チャクチャク
Chak-chak
小さな揚げ生地を、蜂蜜で大きな祝い菓子へ
砂糖菓子 / タタールスタン・カザン、バシコルトスタン、中央アジアにも広がる

チャクチャク(Chak-chak、タタール語でЧәкчәк)は、小さく切った生地を油で揚げ、蜂蜜を使った糖液でまとめる菓子である。タタールスタンやバシコルトスタンをはじめ、ヴォルガ地域から中央アジアまで広く食べられる。こんもり積み上げた形も一口大に切った形もあり、どちらにも小さな揚げ生地の粒が残る。

蜂蜜でまとめる前の、揚げたチャクチャクの生地。細長い粒の形がすでにできている。 写真:出典、Pannet、CC BY 4.0。画像の改変なし(配信元の縮小版)。
生地を切る大きさが、食感を変える
卵を加えた小麦粉の生地を細く切り、あるいは小さく丸め、熱い油へ入れる。無酵母の作り方が広く記録される一方、タタールスタンの文化資源センターが収録したルセット(材料の配合と作り方)には酵母を使う例もある。どちらも生地を小片にして揚げ、後から糖液でまとめる。
揚げた後に合わせる蜂蜜の糖液は、甘味を付けると同時に、ばらばらの粒をつなぐ。先に揚げて形を作り、後から接着する順序なので、全体を切り分けても粒の境目が残る。蜂蜜を含む外側の粘りと、その内側にある揚げ生地の軽い歯応えは、別の工程で作られている。
粒を丸くするものと、麺のように細長くするものでは、一片をかんだときの感触が変わる。タタールの祝い菓子としては、松の実やヘーゼルナッツほどの小さな粒にする作り方が記録される。一方、ブハラのカリャヴェ、カザフのシェクシェクには、麺状に切った生地を用いるものがある。小さく切るという共通の技法の中で、粒の形が地方差を作る。
婚礼では、誰が運んだ菓子かも意味を持つ
チャクチャクは、タタールの婚礼に欠かせない菓子として伝わる。花嫁が夫の家へ持参するものは「яшь килен чәкчәге」、花嫁の母が持ってくるものは「кодагый чәкчәге」と呼び分けられる。菓子の中身だけでなく、誰から誰へ差し出されたかが、祝いの中で区別されている。
婚礼のためには大きく成形し、色の付いた飴やドラジェなどで飾る。腕のある女性の作り手に製作を任せ、完成した菓子を布や薄い果実菓子で覆って宴席へ運ぶ習慣も記録される。覆いを取って「開く」人は新婚の2人に贈り物を約束し、シベリアのタタールでは、その人にもシャツを贈る例がある。大きな一山は、客の前へ運ばれ、開かれ、切り分けられることで婚礼の贈答品になる。
菓子を2切れ取ることや、2組の贈り物を運ぶことを、2人と両家の結び付きに重ねる習慣もある。カザン・タタールの婚礼記録では、花嫁の両親が運ぶ贈り物の列に、パン、チャクチャク、パイ、ガチョウが並ぶ。いずれの細部も各地の婚礼を一律に決める規則ではなく、菓子が両家を行き来する贈り物の一つだったことを示す。
カザンのチャクチャク博物館では、菓子を食べる場を、タタールの家庭の暮らしやもてなしを知る場としている。完成品を展示するだけでなく、茶と菓子を囲む経験にしている点にも、この菓子の位置が表れる。チャクチャクは土産品であると同時に、客へ甘いものを供する食卓の食品である。
蜂蜜でまとめる菓子の中で
ナッツを蜂蜜でまとめるジョージアのゴジナキと比べると、チャクチャクでは、粒そのものを粉と卵から作る。菓子の体積の多くを占めるのは、油で揚げた生地である。ナッツの歯応えを保つ菓子と、生地を揚げて作った粒を保つ菓子では、蜂蜜でまとめる点は同じでも、その前の工程が異なる。
同じタタールの甘味でも、糸状の糖をまとめるタルクシュ・カレヴェとは構造が違う。タタールスタン南東部のバウルサクにも揚げ生地を使うものがあるが、当地の文化資源センターが紹介するものはチャクチャクより一片が大きく、蜂蜜ではなく砂糖の衣で仕上げる。材料が似ていても、粒の大きさと、それらを結ぶ甘味の使い方が違う。
広い分布と、土地ごとの形
タタール語のほか、バシキール語やカザフ語などにも近い名がある。隣接する民族の食卓をまたいで広がり、地域と家庭ごとに粒の切り方、糖液の配合、飾り方を変えてきた。現在のカザンでは、箱入りの土産としてもよく知られる。
用語解説
- チャクチャク(Chak-chak/Чәкчәк)
- 小さな揚げ生地を蜂蜜を含む糖液でまとめる菓子。
- ヴォルガ地域
- ヴォルガ川流域。タタールスタンなど多様な民族の暮らす地域を含む。
- カリャヴェ
- 本文ではブハラに結び付く、麺状に切る近縁菓子を指す。
- シェクシェク
- カザフの近縁の呼び名。麺状の生地を使うものもある。
- ドラジェ
- 砂糖などで小さな芯を覆う菓子。婚礼用チャクチャクの飾りに使われる。
- ゴジナキ
- ジョージアの、主にクルミを蜂蜜でまとめる菓子。
- タルクシュ・カレヴェ
- タタールの繊維状の甘味。生地の粒を揚げて集めるチャクチャクとは製法が異なる。
- バウルサク
- タタールスタン南東部にも伝わる揚げ生地の菓子。本文ではチャクチャクより大きく、砂糖の衣をかける地域のものを指す。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- яшь килен чәкчәге
- 花嫁が夫の家へ持参する婚礼のチャクチャクの呼び名。
- кодагый чәкчәге
- 花嫁の母が持参する婚礼のチャクチャクの呼び名。







