Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

タヴク・ギョウスュ
Tavuk Göğsü
鶏胸肉を細い繊維にして加える、白い乳菓子
デザート / トルコ・イスタンブールなど

タヴク・ギョウスュ(Tavuk Göğsü)は、牛乳、砂糖、米粉などへ、細かくほぐした鶏胸肉を加えて煮るトルコの甘味だ。トルコ語の名は、そのまま「鶏の胸肉」を意味する。白くなめらかな乳菓子の中に、肉を大きな具として残すのではなく、細い繊維として混ぜ込む。乳と米のとろみに、肉の繊維が加わった、厚みのある口当たりが特徴だ。
肉をほぐし、洗い、乳へ混ぜる
タヴク・ギョウスュに使う胸肉は、まず茹で、骨や皮を除いて、細い繊維に分けたり、すりつぶしたりする。肉料理のように強く焼きつけた香りを生かす工程ではない。冷水へ通し、水を切ってから使う作り方も伝わっている。
乳の方には米粉を加えて加熱し、粒のないとろみへ整える。肉と砂糖を加えた後も混ぜ続け、繊維を均一に散らす。米のでんぷんが作るとろみと、胸肉からほぐした繊維とでは、働きが異なる。肉だけが全体をゼリーのように固めるのではなく、乳、米、肉を合わせて煮る構成だ。
香りにはバラ水やシナモンが使われる。仕上げは大きな型から抜くもの、平たい容器へ流して切り分けるものなどがある。肉を含む白い菓子であることと、容器から外せる濃さへ煮ることが結びついている。
19世紀の料理書に残る姿
メフメト・キャーミルが編んだ1844年刊のオスマン料理書『メルジェウット・タッバーヒーン』(Melceü’t-Tabbâhîn)には、先に煮てほぐした鶏肉を米と乳の粥へ加え、さらに火を入れる作り方が載る。19世紀半ばの印刷物に、この菓子の名と手順がともに残っている。
1864年にロンドンで出版された、トゥラビ・エフェンディ編の『Turkish Cookery Book』にも、胸肉入りの冷たい菓子が登場する。米粉、乳、砂糖、バラ水を合わせ、アーモンド油を塗った型へ入れて冷やし、シナモンを振って出す姿だ。現代の平たい容器へ流す仕上げと比べると、型抜きによる盛りつけがよく分かる。
この料理書の作り方には、ほぐした肉を冷水へ通さないと肉のにおいが残る、という注意もある。鶏肉を隠して使うのではなく、肉の存在を前提に、その香りを整えて甘い乳菓子へ仕立てる技法だった。

図版:トゥラビ・エフェンディ編『Turkish cookery book』(1864年)60頁、178番。乳と米粉、洗った胸肉、バラ水を煮て型で冷やす手順が読める。University of Leeds Library所蔵、Wellcome Collection経由。Public Domain Mark。所蔵記録/権利表示。横1600ピクセルで取得、トリミングなし。
ブランマンジェとの近さと、起源の議論
鶏肉、乳、米、甘みを組み合わせる料理は、タヴク・ギョウスュだけではない。中世ヨーロッパのブランマンジェ(blancmange)にも、胸肉を細くほぐし、乳やアーモンド乳、米などと煮た「白い料理」がある。肉を使わず冷やし固める今日の白いデザートとは、同じ名前でも構成が異なっていた。
両者を古代ローマの料理書『アピキウス』から一直線につなぐ説は、長く語られてきた。しかし食文化研究者ウトク・ジャン・トプチュは、2021年の論考で、現存する同書に該当する甘い鶏肉料理が見当たらず、後世の料理書の文章が取り違えられてきたと指摘している。
トプチュはアラブ料理との関係を検討し、ハリーサ(harisa)と呼ぶ肉と穀物を煮る料理を系譜の候補に挙げている。ただし、似た材料があることだけで伝播の道筋が決まるわけではなく、起源について合意が成立しているわけではない。現在の菓子の姿、19世紀の料理書に印刷されたルセット(材料の配合と作り方)、さらに古い類似料理は、それぞれ異なる時点の知識だ。
焦がした面を持つカザンディビ
カザンディビ(kazandibi)は、「鍋底」という名を持つ甘味だ。タヴク・ギョウスュの底面を意図的に焼きつけ、褐色の面をつける形式があり、白い乳菓子へ焦げた糖や乳の香りが加わる。切り分けた後、その焼き面が見えるように盛られる。
現在のイスタンブールの乳菓子店シュティシュ(Sütiş)には、牛乳と水牛乳、鶏肉、米を使うカザンディビがある。白い部分に胸肉を含ませ、焦がした層と組み合わせる形式が続いている。鶏肉を省いたタヴク・ギョウスュ風の菓子には、ヤランジュ(yalancı、「見立ての」)という言葉を添えることがある。肉を使った原型と、それに似せた白い乳菓子が並ぶことで、この菓子が胸肉の技法と乳菓子の両方の側から受け継がれていることが分かる。
用語解説
- ブランマンジェ(blancmange)
- 中世には肉、米、乳などを使う「白い料理」を含んだ名称。現代の同名デザートとは配合が異なる。
- カザンディビ(kazandibi)
- 底面を焼きつけた乳菓子。「鍋底」の意。
- ヤランジュ(yalancı)
- 「偽の」「見立ての」に当たるトルコ語。鶏肉を省いた形式にも使われる。
- ウトク・ジャン・トプチュ
- タヴク・ギョウスュとブランマンジェの起源を研究した論考の著者。
- ハリーサ(harisa)
- 肉と穀物を煮る料理群。トプチュが系譜を検討する際に取り上げた。
- メフメト・キャーミル
- 1844年刊の料理書『メルジェウット・タッバーヒーン』の著者。
- メルジェウット・タッバーヒーン(Melceü’t-Tabbâhîn)
- 1844年刊のオスマン料理書。本文の胸肉入り菓子の作り方を載せる。
- アピキウス
- 古代ローマの料理書の名。タヴク・ギョウスュとの直接の起源説は史料の取り違えが指摘される。
- トゥラビ・エフェンディ
- 1864年刊の英語のトルコ料理書を編んだ人物。
- シュティシュ(Sütiş)
- イスタンブールで乳菓子などを扱う店。本文では現在の鶏肉入りカザンディビの一例として挙げた。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。







