Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

バラ・ブリス
Bara brith
紅茶を含む干し果実が、褐色のパンに斑を作る
発酵菓子 / 英国・ウェールズ

薄い一切れに干し果実が散るバラ・ブリスは、ウェールズの「斑のあるパン」です。茶に添えてバターを塗る食べ方は同じでも、酵母でこね上げるパンと、茶で戻した果実を膨張剤入りの粉でつなぐローフでは組織が違います。果実と香辛料を含む祝いのパンには、土地と家庭ごとの豊かさの幅がありました。
こねるパン、乳と糖蜜を使うパン
グウィネズのバラに伝わる型では、普通の小麦粉にバターをすり込み、砂糖、三種類の干しぶどう、砂糖漬けの皮、香辛料を合わせます。温かい乳で溶いた酵母と卵を加えてこね、少量の湯で溶いた黒い糖蜜で硬さを整えます。一時間半ほど発酵させ、型に分けて焼くパンです。
一方、ケレディギオンのリド・ルイスに伝わるルセット(材料の配合と作り方)は、全粒粉、カラント、酵母、塩、乳と水という簡素な構成です。卵やバターを加える豊かな生地だけが、酵母型の姿ではありません。よくこねて一時間ほど発酵させ、形を整えて焼きます。紅茶型との間には膨らませ方の違いがあり、酵母型の中にも粉や油脂、果実の量による幅があります。
紅茶を捨てずに生地へ
紅茶を使う型では、まず濃くいれた熱い茶に干し果実と褐色の砂糖を入れ、六時間以上、または一晩置きます。果実が水分を含んでふくらみ、砂糖が溶けたところへ、粉、ミックススパイス、卵を混ぜます。浸した茶は捨てず、生地の水分として取り込みます。紅茶、褐色の砂糖、果実の色が重なり、内側は深い茶色になります。酵母型で使う黒い糖蜜も、別の濃い香りと色を加えます。
果実四〇〇グラムに対し、膨張剤入りの粉二五〇グラム、紅茶三〇〇ミリリットル、卵一個という、果実の方が粉より多い配合もあります。バターを練り込まず、たくさんの具を生地でつなぐ密なローフになります。焼いてすぐより、密閉して一日か二日置いてから切る食べ方もあり、有塩バターの脂肪と塩味が、果実の甘さを支えます。薄切りを軽く焼き、冷たいバターを載せることもできます。
余り生地の物語と、配合の変わり方
パン作りの余り生地へ果実、砂糖、香辛料を加えて特別な日の一品にした、という始まりの話がウェールズで伝わります。最初の配合や年代は不明ですが、家庭のやりくりから甘いパンを生んだ物語です。国立博物館ウェールズが収集したグウィネズのバラ、ケレディギオンのリド・ルイスのルセットも、こねて発酵させる酵母型でした。
言葉の古い用例も複数あります。一八八八年に辞典が採った果実入りパンの用例より前に、一八五七年の『Seren Cymru』に、バラで学校試験前に食べたという記事が見つかっています。名の記録は料理書だけでなく、学校と食卓の場面にも残りました。
一九四六年の『Farmhouse Fare』には、モンゴメリーシャーのA・M・デイヴィスによる膨張剤入りの型が載ります。配給期の粉末卵を使いますが、果実を茶へ浸す工程は記されていません。一九四六年のこの型では、酵母を使わない生地と茶への浸漬は一組ではありませんでした。
祝いの薄切りと、チュブ州の茶の卓
リド・ルイスの家庭に伝わる酵母型は、クリスマス、新年、収穫祝いの夕食に焼かれました。労働の後に人が集まる食卓を支えたパンは、現在はカフェや家庭の間食でも親しまれ、三月一日の聖デイヴィッドの日にも並びます。
一八六五年からアルゼンチンのチュブ州へ移住したウェールズ人たちは、礼拝や集会の後に家庭のパンや菓子を礼拝堂へ持ち寄り、茶を囲みました。現地の食材を取り込んだ卓では、黒い果実菓子トルタ・ネグラが中心になっていきます。ウェールズのローフと全く同じ配合を保つのでなく、果実菓子を茶とともに分ける習慣が、新しい土地で続いた姿です。
用語解説
- カラント
- 製菓用の小粒の干しぶどう。
- 黒い糖蜜
- 英国のブラック・トリークル。濃色で強い風味をもつ製糖シロップ。
- ミックススパイス
- シナモンやナツメグなどを合わせた甘い菓子向けの混合香辛料。
- ローフ
- 一台を薄切りにして食べるパンやケーキ。
- 聖デイヴィッド
- ウェールズの守護聖人。三月一日が記念日。
- セレン・カムリ
- 1857年の記事にバラ・ブリスを食べた記述があると報告されるウェールズ語の刊行物。
- A・M・デイヴィス
- 1946年の『Farmhouse Fare』に膨張剤入りのルセットを寄せたと料理研究者が報告する人物。







