Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ブラウニー
Brownie
天板から切り分ける、米国のチョコレート菓子
焼き菓子 / アメリカ

薄い表面の下に、チョコレートの湿った生地が残ります。ブラウニーは浅い型に焼き、四角や棒に切り分ける、米国で育った菓子です。濃密で粘る型もケーキに近い軽い型もあり、同じ名だから同じ組織とは限りません。十九世紀末の記録では、名、チョコレート、切り菓子という形も、まだ一つに重なっていませんでした。
粉、油脂、糖、水分の組み合わせ
粉が少なめで油脂と糖が多い生地は、緻密で湿りを残しやすくなります。粉や卵、液体、膨張剤の割合を増やしたものは、細かな気泡をもつケーキに近づきます。溶かしたバターや油を使うものと、バターと砂糖をすり混ぜるものでも、内部の組み立てが変わります。
ココア粉と固形チョコレートは、同じ重量で置き換えられる材料ではありません。チョコレートにはカカオ固形分に加えて油脂や糖が入り、ココア粉は水分を吸います。粉を減らすことだけでなく、各材料が水分、脂肪、糖、骨格のどれを供給するかを、配合全体で整えます。
表面の膜と、中心の焼き上がり
上面に光沢のある薄い膜ができる型があります。砂糖をバターとともに温めて部分的に溶かす操作などが、この表面に関わります。すべてのブラウニーが同じ膜を作るわけではなく、混ぜ方と材料によって、表面が穏やかに焼けるものもあります。
浅い型では縁から先に熱が入り、中心は湿りを残しやすくなります。濃密な配合は、中心に刺した竹串へ粘る生地が付く状態で焼き上がることもあります。軽い型と同じように、串が完全に乾くまで焼くと、目指す柔らかさを失う場合があります。狙う組織と配合に合わせて、縁の焼け方や中心の状態を見ます。
冷まして初めて、切れる一片になる
焼いた直後に切ると、柔らかな生地が刃に付き、切り口が崩れます。冷却して油脂と生地を落ち着かせることで、薄い一片にも形を与えられます。
シカゴのパーマー・ハウス型は、くるみを上へ散らして軽く押し込み、焼いた面へ杏ジャムのグレーズを塗ります。古いルセット(材料の配合と作り方)として紹介される版では、グレーズを塗った後に冷凍してから切る方法が勧められます。果実の被覆、香ばしい木の実、チョコレートの生地が、それぞれ異なる層になります。
パーマー・ハウスの古い型と現代型では、卵、粉、チョコレート、膨張剤の配合が違います。杏の薄いグレーズを塗るホテルの一片は、濃密な生地の上に果実の光沢を持ちます。家庭の被覆なしの型では、焼いた表面そのものが最初の歯ざわりになります。
糖蜜の小菓子、同名の層ケーキ
「ブラウニー」の名には、チョコレートの菓子より前に別の流行がありました。十九世紀末の米国では茶色の料理をそろえる食卓から、子ども向けの「ブラウニー・バンケット」へ広がり、画家パーマー・コックスの小さな妖精の絵が飾りにも使われました。当時この名で呼ぶ甘味には糖蜜の小菓子もありました。ファニー・ファーマーは一八九六年、糖蜜とピーカンを使う小さな型菓子を「Brownies」と名づけました。チョコレートは入っていません。一八九八年の菓子店広告には「Chocolate Brownies」の商品名がありますが、形までは分かりません。
一八九九年のメーン州『Machias Cook Book』には、マリー・ケリーの「Brownie’s Food」が載ります。チョコレート、乳、重曹を使いながら、卵なしで層に焼き、クリームの上掛けをするケーキでした。名とチョコレートがあっても、まだ現在の四角い切り菓子とは違います。
一九〇四年、ニューハンプシャーとシカゴの地域料理書には、チョコレート、卵、油脂、少量の粉、木の実を浅く焼いて切るルセットが並びます。一九〇八年改訂、ハワードの『Lowney’s Cook Book』では、白砂糖と卵二個のローニーズ、ブラウンシュガーと卵一個のバンガーが共存しました。広告、家庭の料理書、商業菓子の間で、呼び名と形と材料が徐々に重なっています。
博覧会の持ち歩く菓子というホテルの伝承
シカゴのパーマー・ハウスには、ホテルの共同経営者で博覧会の女性部門を率いたバーサ・パーマーが、一八九三年の世界博覧会へ来る女性客のため、持ち歩ける小菓子を厨房へ求めたという話が伝わります。チョコレートとクルミ、杏の上掛けを受け継ぐホテル独自の型です。ただし当時からブラウニーと呼ばれたか、現在公開する配合と同じだったかは確定していません。博覧会の持ち歩ける一片という話は、切り分けて運べる形をよく語ります。その同じ四角い一片は、今では皿に置いてアイスクリームを添えるデザートにも、冷たいアイスを二枚で挟む菓子にもなります。チョコレート生地と冷たい乳の対比、凍らせた後の噛み心地という、別の食べ方が加わりました。
チョコレートを入れない隣の一片
同じ浅い型で焼き、四角に切る隣の菓子にブロンディがあります。バターと砂糖、とくにブラウンシュガーの香りを前に出す型で、チョコレートを生地全体の主味とするブラウニーとは区別されます。チョコレート片を具として散らすブロンディもあるため、少しでもチョコレートがあればブラウニーという境界ではありません。焼き型と切り方を共有しながら、主になる味が違うのです。
用語解説
- グレーズ
- 菓子の表面に塗る、糖や果実などを使う被覆。
- ピーカン
- 北米原産のクルミ科の木の実。初期の糖蜜ブラウニーにも使われた。
- 糖蜜
- サトウキビなどの糖液から砂糖を結晶化した後に残る、濃い糖液。初期のルセットの色と味を作る。
- パーマー・コックス
- 一九世紀末の米国で小さな妖精「ブラウニーズ」を描いた画家・作家。
- バーサ・パーマー
- パーマー・ハウスの共同経営者で、一八九三年シカゴ博覧会の女性部門を率いた。ホテルの菓子創作伝承の依頼主。
- ファニー・ファーマー
- 米国の料理教育者・料理書著者。十九世紀末と二十世紀初めのブラウニールセットを伝える。
- マリア・ウィレット・ハワード
- 米国の料理教育者。ローニー社の料理書を編み、配合の異なるブラウニーを掲載した。
- マリー・ケリー
- 一八九九年の地域料理書に「Brownie’s Food」を寄せた料理人。現代の四角いブラウニーとは違う層ケーキを記録した。







