Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

フロランタン
Florentine
ナッツとキャラメル、土台の有無で変わる姿
焼き菓子

アーモンドを結ぶ薄い糖の層と、裏へ塗ったチョコレート。フロランタンの一枚には、焼いて硬くする面と、冷やして固める面が同居します。木の実を糖・蜂蜜・乳製品などでまとめるこの菓子は、日本ではサブレに載せた四角い姿、ヨーロッパでは台のない円盤や、網目のような薄板を割った姿でも親しまれています。名前は「フィレンツェのもの」を意味しますが、その地名ほどには、発祥の物語は一つに定まりません。
薄さを作る二つの熱
アーモンドの薄切りにオレンジの皮やチェリーの砂糖漬けを加えると、木の実と糖の間に果皮の苦みや果肉の粒が入ります。ル・コルドン・ブルーのルセット(材料の配合と作り方)では、刻んだ果実を少量の粉でほぐしてから、温めたクリーム・糖・蜂蜜を合わせます。粉で厚い生地を作るのではなく、果実が一か所に固まらないよう分散させる組立です。
小さく盛った生地の周りを広く空けるのは、熱で糖液が流れ広がるからです。同校の焼き方は、縁が泡立つまで加熱し、一度冷ましてから温度を下げて再び焼く二段階。広がる段階と乾いて硬くなる段階を分け、薄い一枚の歯切れを整えます。ヘーゼルナッツを加える別のルセットでは、温かい生地を紙に挟んで延ばし、冷やしてから焼いて薄板を割ります。円盤を一枚ずつ整える方法も、不規則な板にする方法も、糖と木の実の薄い構造を生かしています。
平らな裏面には、テンパリングしたダークチョコレートを薄く塗ります。ル・コルドン・ブルーでは一度塗って空気を抜き、二度目を塗って余分を落とします。ヘーゼルナッツのスプレッドをチョコレートへ混ぜるルセットもあり、被覆の味と固まり方には幅があります。焼き上げた糖の面は湿気を吸うと粘りが出るため、冷ました後の保管も薄い歯切れを左右します。
サブレの台を持つと何が変わるか
サブレを敷く日本でなじみ深い型では、硬く砕ける木の実の層の下へ、粉とバターのほろりと崩れる層が加わります。四角く切るほか、サブレを輪に絞り、その中へ冷やしたアーモンドのキャラメル生地を置いて共に焼く型もあります。輪の縁は、上の層が焼成中に広がるのを囲います。
ドイツ食品典の2025年版は、Florentiner を、褐色の縁と明るい内側を持つ薄いアーモンドまたはナッツの焼き菓子としています。果実と蜂蜜は任意、粉は木の実をつなぐ生地を分母として5%以下、底のチョコレートは通常用いるものです。隣接する Nussknacker は、より大きな木の実を使い、縁のあるショートクラストの台に焼く場合もある別区分。日本のサブレ付きという形だけを、この二つのドイツの区分へそのまま重ねることはできません。
現在の南ドイツのパン店ではクリスマスの小さな焼き菓子に、オーストリアの菓子店では冬季の品目に、この名が並びます。台の有無だけでなく、季節の売り場にも土地ごとの居場所があります。
フィレンツェをめぐる二人の王妃
フランス語 florentin のもとは、イタリア語 fiorentino。「フィレンツェの人・もの」という意味です。この名に結びつく有名な伝承では、フィレンツェ生まれのカトリーヌ・ド・メディシスが、1533年にフランス王子アンリと結婚した際、菓子職人とともにフロランタンをもたらしたとされます。しかし、その時代に現在の菓子を作ったとわかるルセットは示されていません。カトリーヌが多くのフランス菓子を一度にもたらしたという一連の物語の一つであり、結婚という史実と、個々の菓子の伝来は分けて読む必要があります。
別の菓子店に伝わる話の主人公は、それより前の王妃アンヌ・ド・ブルターニュです。ルイ12世の宮廷へメディチ家の客を迎えることになり、イタリアで働いた料理人が、アーモンド、オレンジ、チョコレートの菓子を考えたという筋です。この物語には年代上の難点があります。フランス宮廷へのチョコレートの導入に結び付くのは、1615年のルイ13世の婚姻です。アンヌの宮廷でチョコレートを使う話とは、約一世紀の隔たりがあります。
丸さと黄金色をフィレンツェの金貨フローリンに重ねる命名説もあります。ただし、形や色の見立てから生まれた説明と、辞書でたどれる語源とは別です。いずれの物語も、現在の円盤やサブレ付きの一枚を、特定の宮廷で発明したという確かな記録にはなっていません。
1909年の「フロランタン」は別の姿
一九〇九年の製菓書に登場する「フロランタン」は、リンゴとラズベリーの長方形菓子です。小麦粉、バター、糖、卵にシナモンを加えた生地を天板へ延ばし、ラズベリー風味のリンゴを載せます。卵を塗った面へフォークで菱形の筋を付け、焼いて長方形に切ります。今の薄い木の実の円盤とは、果実の扱いも、生地の主役も異なります。
スイス創案説や、ドイツのラーフェンスブルクでの製造も、この名をめぐる歴史に登場します。フィレンツェを表す語が、そのままフィレンツェで作り始めた証拠になるわけではありません。今日の一枚を見分ける手がかりは、台の有無、木の実と果実の粒、糖の薄さ、チョコレートの裏面にあります。同じ名の下でも、サブレのほろりと崩れる厚みを味わうか、薄い糖と木の実の鋭い歯切れを味わうかで、食べた印象は変わります。
用語解説
- フロランタン/*florentin*
- フランス語でフィレンツェに関わる人や物を表す語。菓子名の命名理由と発祥地は別問題。
- カトリーヌ・ド・メディシス
- フィレンツェ出身で、1533年に後のフランス王アンリ2世と結婚した人物。菓子を持ち込んだという伝承の主人公。
- アンヌ・ド・ブルターニュ
- ルイ12世の王妃。メディチ家の客を迎えたという、別のフロランタン伝説に登場する。
- フローリン
- フィレンツェの金貨。菓子の丸さと色に結びつける命名説があるが、裏づけは未確認。
- テンパリング
- チョコレートの温度を調整し、冷えたときのつやと固まり方を整える作業。
- サブレ
- 主に小麦粉とバターで作る、ほろりと崩れる焼き菓子。フロランタンでは木の実層の台にもなる。
- 砂糖漬け果実
- 果肉や果皮へ糖を浸透させた製菓材料。オレンジ皮などは香りも加える。
パレードのフロランタン / Florentin
京都・伏見桃山の洋菓子店「パレード」が手がける、香ばしさと食べごたえを楽しむ「フロランタン」。
ローストした有機のナッツ類(スライスアーモンド/かぼちゃの種/くるみ)をざっくり大胆にカットし、一般のフロランタンよりも、土台となるクッキーにしっかりと厚みを持たせています。さらにキャラメルを重ね、二度焼きすることによりカリッと歯触りの良い食感に。カリッとサクッとparadeのフロランタンは食べごたえバツグンです。







