Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ブッタークーヘン
Butterkuchen
くぼみにバターを置き、砂糖の薄い皮を焼きつける
発酵菓子 / ドイツ

表面のくぼみに溶けたバターが入り、砂糖の薄い皮の下には柔らかな発酵生地が続きます。ドイツのブッタークーヘンは、天板へ薄く広げた生地を四角く分ける菓子です。バターは生地に練られ、表面のくぼみにも置かれます。大人数へ取り分けやすい一枚は、祝いにも葬儀後のコーヒーにも供されてきました。
生地へ練り、くぼみに置く二度のバター
小麦粉、牛乳、酵母、砂糖、卵にバターを合わせ、なめらかになるまでこねます。生地の中へ混ぜるバターは、発酵で膨らんだ部分の口当たりに関わります。十分にふくらませたら、天板へ薄く延ばします。高さを出すケーキよりも、焼き色のつく面が広く、柔らかな内部と上掛けの距離が近い構造です。
表面には木べらの柄などで浅いくぼみをつけ、小さな冷たいバターの塊を均等に置きます。砂糖やバニラシュガー、薄切りアーモンドを散らし、もう一度ふくらませてから焼きます。表面に点々と置かれたバターは、焼く間にくぼみへ溶け込みます。
焼成中にバターが溶けると、くぼみと周囲へ広がります。表面の砂糖は薄い皮をつくり、くぼみのしっとりした部分や、より香ばしい縁と違いが出ます。現代の家庭のルセット(材料の配合と作り方)には、粉三七五グラムに対して生地用バター五〇グラム、上掛け用一〇〇グラムを使う例もあります。この例では上掛けのバターが生地に練る量を上回り、表面のしっとりした部分と柔らかな内部の両方に油脂が現れます。
バターの名に含まれる配合の範囲
ドイツ食品典の二〇二五年版指針は、ブッタークーヘンを、酵母生地と上掛けの油脂にバターを用いる菓子として記しています。生地と上掛けを合わせ、穀類原料や澱粉一〇〇に対しバター三〇以上、または相当する乳脂肪量を示しています。バターを菓子全体の三割とする意味ではありません。
アーモンドは代表的な上掛けですが、クルミやヘーゼルナッツの型もあります。生クリームを焼く前にかける、あるいは焼きたてへ塗るルセットでは、乳の風味と水分が加わります。地域によって砂糖にシナモンを混ぜる仕立てもあり、簡素な天板菓子の中に香りの違いが生まれます。
古い菓子名と、残されたルセット
ブッタークーヘンの名には、一六九三年の文献から採られた用例が伝わります。ただし、この語例だけでは、現在の天板菓子と同じ配合や焼き方だったかは定まりません。
一八一二年『ブラウンシュヴァイク料理書』の「よいバタークーヘン」は、発酵生地へ卵、クリーム、レモン皮、シナモン、メースを加え、表面へバター、アーモンド、厚い砂糖を載せます。今より香辛料の多いルセットでも、生地と表面の二段にバターを使う構造は共通しています。
オランダ語の boterkoek も「バターケーキ」ですが、ルドルフ・ファン・フェーンのルセットは酵母を使いません。バター、糖、卵、粉を短く混ぜて型へ押し広げ、フォークで格子を付けます。二度の発酵や、くぼみに置くバターを持たない密な菓子で、ドイツのふんわりした天板菓子とは、生地の組み立てから異なります。
家族の喜びにも、弔いの席にも
北ドイツ、とくにニーダーザクセンなどでは、大人数へ切り分けられるブッタークーヘンが家族の集まりに結びついています。祝いの席だけでなく葬儀後のコーヒーの席にも供され、「喜びと悲しみのケーキ」「葬儀のケーキ」と呼ばれることもあります。ブレーメンでも、葬儀の後に親族が集まって故人を語る食事に、この簡素な菓子が選ばれます。
低い一枚は必要な人数に合わせて取り分けやすく、濃いクリームの層を挟まなくても飲み物とともに食べられます。日常の午後の卓から、人生の節目を分かち合う卓まで、同じ天板の菓子が行き来しています。
用語解説
- 酵母
- 発酵によってガスを生み、生地を膨らませる微生物です。
- ルドルフ・ファン・フェーン
- 酵母を使わないオランダのボーテルクークのルセットを公開する料理家です。
- メース
- ナツメグの種子を覆う仮種皮からつくる香辛料。一八一二年のルセットで使われています。
- ニーダーザクセン
- ドイツ北西部の州。ブッタークーヘンが祝い事や弔いの席にも根づく地域です。
- 食品典の指針
- 一般に期待される食品の構成や呼称を記すドイツの基準資料。菓子の配合を説明する手掛かりにもなります。
- ボーテルクーク
- オランダの密なバター菓子。名はドイツ語のブッタークーヘンと近いが、代表的な型は酵母発酵させない。







