Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ロクム
Lokum
でんぷんの柔らかな糖菓が、街と国を越える
砂糖菓子 / トルコ各地

ロクム(Lokum)は、砂糖とでんぷん、水を加熱し、柔らかな弾力を持たせたトルコの糖菓である。切り分けた小さな角形を粉で覆う姿がよく知られ、バラや柑橘の香りを付けたり、ピスタチオやヘーゼルナッツを加えたりする。ゼリーのように透けても、基本の骨格を作るのはゼラチンではなく、加熱したでんぷんである。

ナッツを含むもの、角形、巻いたものが並ぶロクム。切り口と外側の粉から、内部と表面の作り分けが分かる。 写真:出典、Yasinuslu34、パブリックドメイン(作者による権利放棄)。画像の改変なし(配信元の縮小版)。
甘い液体を、切れる柔らかさへ
でんぷんは水とともに加熱すると膨らみ、液体を粘りのある状態へ変える。ロクムでは糖の濃い液体を混ぜながら煮て、型へ移し、休ませてから切る。糖液の甘さと、でんぷんが作るまとまりとが重なり、1個の形を保ちながら口では柔らかく崩れる食感になる。
酸を加える場合にはクエン酸や酒石酸などが使われる。香料とナッツも含め、何をどの段階で加えるかは作り手のルセット(材料の配合と作り方)によって異なる。砂糖だけを固める硬い飴や、糖を細く引くピシュマニエとは、同じ甘味料を使っても形を保つ仕組みが違う。
表面の粉は甘さの飾りだけではなく、切った面同士が付きにくくする役割を持つ。内部が柔らかいまま小分けにできるので、いくつもの風味を同じ箱へ並べられる。ピスタチオ入りでは粒をかむ感触が加わり、バラの香りを付けるものでは滑らかな生地そのものに香りを付ける。外観の色やナッツの量だけでなく、糖菓の生地の柔らかさも製品ごとに異なる。
ロクムの食感は、砂糖、でんぷん、水の比率でも変わる。異なる4つの配合を比べた研究では、作った時点ですでに硬さや弾力が異なり、保存中には硬さと付着性が増し、弾力が低下する傾向が認められた。同じ3つの材料名が並んでいても、食感まで同じになるわけではない。
別の製造研究では、でんぷん、糖、水とクエン酸を加熱した後、型へ流して25℃で48時間休ませている。濃い糖液中ででんぷんを加熱してまとまりを作る段階と、冷やして切れる状態へ整える段階が続く。炊き上げたばかりの熱い塊は、そのまま完成した角形ではない。
起源の2つの筋と、でんぷんの使い方
ロクムの前身を考える説には、中世アラブの、蜂蜜や砂糖へ果実や樹脂などを合わせたルーク(louk)に結び付けるものと、オスマンのパルーゼ(paluze)というでんぷんの甘い料理から発展したとするものがある。食文化史研究者オズゲ・サマンジュは、この2つを起源に関する別の見方として説明している。近い材料の甘味が以前からあることと、現在の角形ロクムが一度に発明されたことは、同じ出来事ではない。
ラハト・ウル・フルクムの名は17世紀の資料に現れ、18世紀のオスマンのルセットにも、白砂糖と水の糖液へ小麦でんぷんを加えて煮る作り方がある。19世紀に原料の精製度や供給が変わるより前に、でんぷんを甘い糖液へ合わせる技法がすでに使われていた。
ハジュ・ベキルの店と、変わる原料

ジャン=アントワーヌ・ゲールの著書『Moeurs et usages des Turcs』に掲載された、オスマン宮廷の菓子職人ヘルヴァジュの図(1746年)。
写真・図版:版画作者未確認(掲載書の著者:Jean-Antoine Guer)/Public domain/原図。Wikimedia Commons生成の450px縮小版を取得。追加のトリミング・色加工なし。原寸は共有環境の429を踏まえ未取得。
ロクムの歴史でよく名が挙がるのが、イスタンブルの菓子店ハジュ・ベキル(Hacı Bekir)である。創業者ベキル・エフェンディはカスタモヌのアラチュから移り、1777年にバフチェカプで店を開いた。後継のメフメト・ムヒッディン、さらにその次のアリ・ムヒッディンへと仕事が受け継がれ、オスマン宮廷への納入とともに名を広めた。
店の6代目レイラ・ジェラリヤンは、古いロクムが蜂蜜やペクメズ(pekmez)で甘味を付け、小麦粉でつないだものだったと語る。精製糖とでんぷんを使うようになると、色が淡く、透明感のある現在の姿へ近づいた、という家に伝わる説明である。原料の変化は、甘さだけでなく、色と食感を変える出来事として記憶されている。
1777年は店の創業年であり、ロクムすべての発明年とは異なる。同じ家の証言でも、菓子自体は以前からある名の知れた食品とされる。柔らかな菓子を望んだ君主のために突然発明した、という1人の発明者へ行き着く物語より、既存の糖菓が原料と商業生産を通じて変化した過程が見える。
1844年の料理書が記す、冷まして切る甘味
メフメト・キャーミルの『メルジェウット・タッバーヒーン』(Melceü’t-Tabbâhîn)は、1844年にイスタンブルで刊行された料理書である。同書のラハト・ウル・フルクムでは、上質な砂糖を水で煮た液へ、でんぷんを少しずつ混ぜる。塊を作らず、鍋底へ付かないよう、絶えずかき混ぜることを指示する。
香りにはローズウォーターとムスクを使い、煮た塊をアーモンド油を塗った盆へ流す。冷めてから好みの大きさへ切り、でんぷんと砂糖を合わせた粉をまぶし、互いに付くのを防ぐ。別の作り方でははさみにも油を付けて切る。でんぷんでまとめ、冷却し、切断面を粉で覆うという手順は、19世紀の料理書ですでに具体的に示されている。
ムスクの強い香りと、現在の多様な果実やナッツの香りは同じではない。香料を替えながらも、粘る糖菓を小さく切って扱う手順には連続性がある。
「ターキッシュ・ディライト」の外にも続く名
英語ではターキッシュ・ディライト(Turkish delight)と呼ばれる。トルコ語の旧い呼び名には、ラハト・ウル・フルクム(rahat-ul hulkum)という「喉の安らぎ」に結び付く形がある。ロクムという短い名と、この長い名の関係には語源上の説明の違いがあるが、柔らかな口当たりを示す呼び名として各地へ伝わった。
1835年、ギリシャ王の宮廷菓子職人だったフリードリヒ・ウンガー(Friedrich Unger)は、イスタンブルへ渡って菓子店とヘルワ店を調べ、トプカプ宮殿の製菓場も訪ねた。1838年刊の著書にはロクムに関わる4つの作り方を収めた。欧州の職人がその材料を知る経路はあっても、煮詰め具合や手の動きまでは短い記述から再現しにくかった。ロクムの広がりは、名前と材料が伝わることと、柔らかな食感を作る仕事が身に付くこととが別だったことも示す。
オスマン帝国の旧領を含む地域では、ギリシャ語のルクミ、バルカンのラトルクやラハトなど、近い名で食べられている。キプロスのゲロスキプには、ルクミ・ゲロスキプ(Loukoumi Geroskipou)という地理的表示のある製品もある。2007年に公表されたこの地方の製品の申請仕様は、ブドウ糖とゼラチンを使わないことを特徴に挙げる。水に砂糖とクエン酸を入れて煮てから、冷水に分散させたトウモロコシでんぷんを加え、長く攪拌し、香りやナッツを加えて箱型へ流す。冷めてから直方体に切り、砂糖か乾燥ココナッツで覆う。
この地の製造史は、1895年にソフォクリス・アタナシウが店を開き、家族へ仕事を伝えた系譜と結び付く。申請仕様書が記す工房の歩みは、イスタンブルの1店から全地域を説明する歴史とは別に、キプロスで継承された製造の歴史を示している。
祝祭のもてなしと、現在の工房
ロクムはラマザン・バイラム、すなわち断食月明けの祝祭で客に供する甘いものの一つである。親族や近隣の人を訪ね、子どもへ菓子を分ける場面に、小さく切れる糖菓が合う。日常にはコーヒーに添えることもあり、贈答箱に詰めた姿と、一片ずつ供する姿が共存する。
現在のハジュ・ベキルでは、かつて直火の銅鍋を人力でかき混ぜた工程に、密閉した鋼製の釜と攪拌機を使う。それでも次の段階へ進む判断には職人が関わるという。機械に任せられる動きと、炊き上がりを見極める仕事は、同じではない。型へ流した直後にはまだ切らず、休ませてから成形する工程まで含めて、柔らかな一片が出来上がる。
用語解説
- ロクム(Lokum)
- 砂糖とでんぷんを主体にする柔らかな糖菓。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。
- ハジュ・ベキル(Hacı Bekir)
- 1777年創業のイスタンブルの菓子店。創業者はベキル・エフェンディ。
- ベキル・エフェンディ
- 1777年にイスタンブルで店を開いた菓子職人。ハジュ・ベキルの創業者。
- メフメト・ムヒッディン
- 創業者の次の世代として家業を継いだ人物。
- アリ・ムヒッディン
- メフメト・ムヒッディンに続いて家業を継いだ人物。
- レイラ・ジェラリヤン
- ハジュ・ベキルの6代目。本文の製造史と現在の工房について語った当事者。
- ペクメズ(pekmez)
- 果汁を煮詰めた濃厚な甘味料。
- ターキッシュ・ディライト(Turkish delight)
- ロクムの英語名。
- ラハト・ウル・フルクム(rahat-ul hulkum)
- 喉の安らぎに結び付くロクムの旧称。
- ルクミ・ゲロスキプ(Loukoumi Geroskipou)
- キプロスのゲロスキプの地名を冠した地理的表示のある糖菓。
- ラマザン・バイラム
- イスラムの断食月が明けた後の祝祭。
- ソフォクリス・アタナシウ
- 1895年にゲロスキプで菓子製造を始めた人物。地域製品の申請仕様書が製造史を記す。
- メフメト・キャーミル
- 1844年刊の料理書『メルジェウット・タッバーヒーン』の著者。
- メルジェウット・タッバーヒーン(Melceü’t-Tabbâhîn)
- 19世紀オスマン帝国の料理書。ラハト・ウル・フルクムやホシュメリムの作り方を載せる。
- ローズウォーター
- バラの香りを水へ移した香料。
- ムスク
- 麝香。本文の19世紀のルセットで使われる強い香りの素材。
- フリードリヒ・ウンガー(Friedrich Unger)
- 1835年にイスタンブルの製菓を調査し、1838年にその記録を刊行した菓子職人。
- ルーク(louk)
- 中世アラブの甘い練りものに関わる名。ロクムの前身を考える説の一つに現れる。
- パルーゼ(paluze)
- でんぷんを用いる甘い料理の名。ロクムの前身に結び付ける説がある。
- オズゲ・サマンジュ
- オスマンの食文化史を研究する研究者。本文の起源説と古いルセットの説明に関わる。







