Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

メドヴィク
Medovik
蜂蜜の薄い層をクリームで重ねる東欧のケーキ
ケーキ / ウクライナ・ロシアなど

薄い蜂蜜の生地を何枚も焼き、クリームと重ねてから待つ。メドヴィクは、組み立てた後に水分を吸って柔らかくなる層菓子です。ロシア、ウクライナ、バルト諸国など旧ソ連圏で親しまれ、周辺にも近い菓子があります。蜂蜜の香りだけでなく、焼く形と、乳を吸わせる時間が、一切れを作ります。
麺棒で延ばす、紙へ塗り広げる
厚いスポンジを横に切るのではなく、薄い生地を一枚ずつ焼きます。蜂蜜、糖、バターを温めて重曹を合わせ、粉と卵を混ぜる型も、温めた蜂蜜へ重曹、卵、粉を合わせ、匙で紙に薄く塗る型もあります。後者には生地のバターも糖も加えないルセット(材料の配合と作り方)があり、同じ層の名でも硬さと扱いが違います。
蜂蜜は甘味と香りに加え、重曹が働くための酸性の環境を作ります。重曹との反応で生地に気泡が入り、薄くても軽く焼けるのです。温めて混ぜる型では、この膨らみを、後でクリームを受ける薄い層へつなげます。
ウクライナのシェフの一例は、生地を冷やしてべたつきを落ち着かせ、直径26センチ、厚さ約1ミリに延ばし、フォークで穴を付け、200度で約5分焼きます。焼いてから24センチへそろえ、7〜9枚、ときには12枚重ねます。ラトビアの塗る型は約10枚を作り、冷まして四角に整えます。切れ端は砕いて表面や側面へ回し、層と同じ蜂蜜の香りを外へつなぎます。
クリームの水分が層をほどく
スメタナやサワークリームなら、発酵乳の酸味と蜂蜜の甘さが重なります。糖だけを混ぜる簡潔な型、泡立てた生クリームで軽くする型、練乳を加える型があります。重ねた直後は硬くても、休ませる間にクリームの水分が移り、フォークで切れる状態へ変わります。
待つ長さも同じではありません。ウクライナのルセットは24時間、ロンドンの製作者の型は12〜24時間の冷蔵です。ラトビアの柔らかい塗り生地では数時間。吸湿は、層の焼き方とクリームの組合せに応じて整える工程です。
1960年の同名ルセットには、クリームがない
1960年にキーウで出た『Українські страви』(『ウクライナの料理』)第3版323ページにも「МЕДОВИК」があります。しかし、蜂蜜、糖、バターを煮て粉へ合わせ、卵、重曹、シナモン、クローブを加え、二日冷やして半指ほどの厚い一枚に延ばして焼くものです。クリームを挟まず、一枚に焼き上げる蜂蜜菓子でした。同じ名でも、現在よく知られる多層型とは構造が違います。
食文化史家パーヴェルとオリガ・シュトキンは、多層型が20世紀のソ連家庭でよく作られたとします。彼らの家の型は、蜂蜜生地を8〜9枚に分けて一晩置き、各枚を素早く焼き、煮た練乳とバターのクリームを塗ってさらに吸湿させます。スメタナとは中身が違っても、水分を吸って一体になる構造は共通です。同名の単層菓子と、ソ連の家庭で親しまれた多層菓子の間に、作り方が一斉に変わった特定の年は伝わっていません。
蜂蜜嫌いの皇后が喜んだという話
19世紀のアレクサンドル1世の宮廷を舞台に、新しい料理人が、皇后エリザヴェータ・アレクセーエヴナの蜂蜜嫌いを知らず、蜂蜜ケーキを作ったという伝説があります。恐れていたのに、皇后は一口で気に入った、という意外な結末です。
シュトキン夫妻は同時代の記録や回想録がなく、19世紀初めの複数の料理書にも該当するケーキを見つけていないと指摘します。話の人物と筋は伝わっても、皇后が現在の多層菓子を発明させた史実とは確認されていません。
蜂蜜を替える、クリームを替える
ウクライナでは、ほぼ無色透明のアカシア、金色のヒマワリ、濃色のソバなど、蜂蜜の種類で香りと色を選びます。同じ材料量でも、層の香りの強さが変わります。
チェコのメドヴニークには、カラメル色の加糖練乳とバターを挟み、クルミ入りの屑で覆う型があります。ブルガリアでは「フランスの田舎のケーキ」とも呼び、サワークリームへブルーベリージャムを組み合わせる例もあります。マルレンカは、アルメニアの家族のルセットをもとに2003年チェコで生産を始めたブランドです。層菓子は、移住と商業生産の中でも広がりました。
ウクライナのメディウニクは、層菓子だけを指しません。リヴィウの家庭型には、香辛料、ナッツ、レーズン、砂糖漬け果実を多く加え、細長い型へ一度に焼くものがあります。同じ蜂蜜の名にも、クリームの縞とは異なる果実の断面があります。
先に吸わせてから積む、リトアニアの型
メドゥティスの家庭ルセットは、蜂蜜、バター、糖、卵を湯煎で温め、冷まして粉とベーキングパウダーを混ぜ、5〜6枚に分けて焼きます。中身は脂肪分30%のサワークリームに粉糖とレモン果汁を加えたもの。ナッツや、水で戻すレーズンまたはクランベリーを散らします。
特徴は、各枚へクリームを塗り、約1時間吸わせてから重ねる順序です。完成後に一台を待たせるだけでなく、部材の段階で水分を入れます。
三枚と二つのクリーム、ポーランドの型
ミオドヴニクの一型は、バターと卵黄の蜂蜜生地を三枚、別々に焼きます。牛乳をバニラやクリーム風味のプディング用粉末で煮固め、冷ましてから泡立てたバターに合わせるクリームと、カイマクにマスカルポーネ、生クリームを合わせるクリームを挟みます。
組み立てたあとは冷蔵庫に入れ、クリームの層が冷えて落ち着くのを待ちます。何枚もの薄い皮に対し、三枚の厚めの生地と二種の中身を組む方法にも、蜂蜜を焼いて乳となじませる別の形があります。
用語解説
- 湯煎
- 材料を入れた容器を、湯の熱で間接的に温める方法。
- カイマク
- ポーランドの菓子に使う、牛乳と砂糖を煮詰めたカラメル色の甘いペースト。
- マスカルポーネ
- クリームを原料とする、なめらかで脂肪分の高いチーズ。
- スメタナ
- ロシアやウクライナなどで使われる、発酵させたクリーム。脂肪分は製品によって異なります。
- 重曹
- 炭酸水素ナトリウム。生地を膨らませるために使う材料。
- エリザヴェータ・アレクセーエヴナ
- ロシア皇帝アレクサンドル1世の皇后。メドヴィクの宮廷伝承に登場します。
- アレクサンドル1世
- 19世紀初めのロシア皇帝。皇后をめぐる伝承の舞台となる宮廷の主。
- パーヴェル/オリガ・シュトキン
- 宮廷逸話と料理書を検討した食文化史家。家族の多層メドヴィクのルセットも公表している。







