Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

パヴロヴァ
Pavlova
メレンゲと果実を重ねる、二つの国に親しまれるデザート
デザート / オーストラリア・ニュージーランド

白い殻は刃を入れると割れ、その内側にはマシュマロのような柔らかさが残ります。パヴロヴァは、大きなメレンゲへホイップクリームと果実を重ねるデザートです。オーストラリアとニュージーランドの集まりやクリスマスに親しまれ、南半球の夏の果実が白い台を彩ります。名はバレリーナにちなみますが、その名で呼ばれた古い菓子は、すべてがメレンゲだったわけではありません。
表面を乾かし、芯には柔らかさを残す
土台を支えるのは、小麦粉のスポンジでなく、卵白が抱えた泡です。砂糖を溶かし込むと、艶と厚みのあるメレンゲになり、大きな山の輪郭を保ちます。
酢やレモン汁などの酸、コーンスターチ、バニラを加えるルセット(材料の配合と作り方)もあります。酸は卵白の泡を安定させ、泡立て中やその後に崩れにくくする働きがあります。コーンスターチは余分な液を吸い、焼いた後に水分がにじみ出るのを抑える助けになります。香りを付けるバニラとは役割が異なり、大きな泡の台の状態を整える材料です。小さなメレンゲクッキーのように芯まで乾かす仕上げとは異なり、外側を乾かしながら内側に柔らかさを残す焼き方が、この菓子らしい食感を作ります。
卵白をそのまま泡立てる方法に加え、卵白と砂糖を湯煎で温めてから泡立てる方法もあります。後者では温める段階で砂糖を溶かし、泡立てながら大きな塊へまとめます。
10分かける砂糖と、炉内の冷却
卵白を泡立ててから糖を加える一例が、ニュージーランドのチェルシーの基本の配合です。卵白6個分に細粒糖450gを使い、まず柔らかな角が立つまで泡立てます。糖は4分の1カップずつ、全量を加えるのに10分以上かけ、そのつど艶と厚みを増すように混ぜます。バニラ、白酢、コーンスターチはその後に合わせます。
天板の敷紙に大皿ほどの山を作り、熱風を使わない110℃のオーブンで約1時間半焼きます。表面が乾いて歯切れを持ち、敷紙から離れることが焼き上がりの目安です。電源を切った炉内でも1時間以上置き、網に移して冷まします。泡立てから焼成、炉内での冷却までが、一台の殻を整える工程です。
果実とクリームは、食べる前に重ねる
冷めた土台は密閉して乾いた状態を保ち、食べる前にクリームと切った果実をのせます。乳の柔らかさと果実の酸味が、甘いメレンゲに重なります。仕上げた後はクリームや果実の水分が殻へ移るため、土台だけを保存するときとは食感の変化が異なります。
キウイフルーツ、イチゴ、パッションフルーツなど、果実には季節や家庭の選択があります。ニュージーランドには柔らかな中心を好んでキウイを飾る型、オーストラリアには殻の歯切れとパッションフルーツを生かす型がよく見られます。一人分ずつの小型や、巻いて仕上げるロール状のパヴロヴァも作られます。
巡業前の氷菓と、一九二六年のゼリー
ロシア出身のアンナ・パヴロヴァは、一九二六年に豪州とニュージーランドを巡業しました。ニュージーランドの初公演は五月二十六日、オークランドで、その後六週間主要都市を回ります。
ところが菓子名は、それ以前にもありました。一九一一年十一月十一日の『ニュージーランド・ヘラルド』の家庭欄の「ストロベリーズ・パヴロヴァ」は、潰したいちごへ煮た糖液とラズベリー果汁を合わせ、こして凍らせ、型から抜いて果実を飾る氷菓です。卵白を泡立てて焼くものではありません。
一九二六年の豪州の料理書でも、パヴロヴァは色の違う層のゼリーでした。一方、政府百科事典テ・アラは、一九二九年『ニュージーランド・デアリー・エクスポーター』の「パヴロヴァ・ケーキ」を、大きな焼きメレンゲの記録として挙げています。名前を持つ異なる菓子があった間に、現在に近い構造と名前が結びついていきました。
ウェリントンの料理長、パースの一か月の試作
ニュージーランドには、1926年の滞在先、ウェリントンのホテルの料理長が彼女のため考案したという説があります。伝記作家キース・マネーが伝えた話で、料理人の名は定かではありません。
1927年のウェリントンの教会婦人会の料理書には、マクレー夫人の「メレンゲ・ケーキ」が残ります。現在に近い型が、まだダンサーの名を持たずに作られていたのです。
豪州では一九三五年、パースのエスプラネード・ホテルのバート・ザクセの創作説が知られます。パース博物館によれば、経営者エリザベス・パクストンが特別なデザートを求め、硬すぎるメレンゲを変えるため、ザクセは約一か月試作しました。コーンスターチを加え、外は歯切れよく中は柔らかい姿を目指します。パクストン家には、試食したエリザベスがダンサーの軽さへなぞらえたことで命名したと伝わります。
ザクセの後年の説明には、ニュージーランドの雑誌のメレンゲを参考にしたという話もあります。一九三五年以前の名付きのメレンゲや近い構造の例があり、最初の発明を一人へ定めることはできません。
食感を整えるルセットが、国の名物になるまで
エミリー・ファターの「果物を詰めるメレンゲ」は、上を切り、果実を詰めて蓋を戻す型です。酢、コーンスターチ、パヴロヴァの名はなく、ニュージーランド版の本も豪州版を再編集したものでした。食文化研究者マイケル・サイモンズは、2010年にこの違いを論じ、似た構造の先例と、国の名物になる過程を分けて考えています。
さらに、メレンゲ、果実、クリームを重ねる先例は、19世紀半ばの米国中西部のドイツ系トルテにもあります。アンドリュー・ポール・ウッドとアナベル・ユトレヒトは、2015年の調査紹介で、欧州の泡菓子が移住先で変わり、南半球へつながったとする説を示しました。各地の似た菓子が、一本のルセットとしてそのまま伝わったと確定するものではありませんが、二国の競争を越えた移民の菓子文化も、この一台の背景として論じられています。
既存の組み合わせを、好みの厚さ、果実、中心の柔らかさへ調整する家庭と料理人の仕事が、両国の祝いの菓子を育ててきました。
混合済みの粉や、焼けた台から仕上げる
一から卵白を泡立てるほかに、混合済みの粉を使う家庭の作り方もあります。ホワイト・ウィングスの「パヴロヴァ・マジック」は、卵白、糖、でんぷん、酸などをあらかじめ合わせた製品です。水140ミリリットルと細粒糖130グラムを足して泡立て、山にして焼く方式で、材料を量る仕事の一部をメーカーが担います。
豪州のスーパーには、焼成済みの大きな台も並びます。粉から泡立てて焼くか、台を買って好みのクリームと果実を重ねるか。土台を作る場所が変わっても、家庭で季節の果実を選び、食べる前に仕上げる一台という楽しみが残ります。
用語解説
- バート・ザクセ/エリザベス・パクストン
- パースのエスプラネード・ホテルの料理人と経営者。1935年の試作と命名の家族伝承に登場する。
- キース・マネー/アンガス・トランブル
- 前者はアンナ・パヴロヴァの伝記作家。後者は美術史家・豪州国立肖像画美術館の執筆者で、マネーのウェリントン説と各地の菓子の記録を紹介した。
- マクレー夫人/エミリー・ファター
- 1927年の教会婦人会料理書のルセット提供者と、「果物を詰めるメレンゲ」を料理書へ載せた著者。
- マイケル・サイモンズ
- 食文化研究者。パヴロヴァの構造の先例と、名物として成立する過程を区別して論じた。
- アンドリュー・ポール・ウッド/アナベル・ユトレヒト
- メレンゲ、果実、クリームの菓子を移民の食文化から調べた著者たち。
- アンナ・パヴロヴァ
- ロシア出身のバレリーナ。1926年に両国を巡業し、1931年に没した。代表的な演目に『瀕死の白鳥』がある。
- メレンゲ
- 卵白と砂糖を泡立てたもの。糖の加え方や加熱方法に違いがあり、焼いた菓子の名にも使われる。
- コーンスターチ
- トウモロコシから分離したでんぷん。
- 湯煎
- 容器を湯に当て、材料へ間接的に熱を伝える方法。







