Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

スイートポテト・パイ
Sweet potato pie
さつまいもの甘さを、卵と乳で滑らかな一層へ
パイ / 米国南部

さつまいもの甘い層を、ひだのあるパイ生地が囲む。米国南部のスイートポテト・パイは、潰したいもを卵、乳、糖などと合わせた中身(フィリング)を焼く菓子です。上を生地で閉じず、香辛料を含む滑らかな面を見せます。橙色のいもなら切り口も橙色になり、密ないもの中身と薄い生地を一緒に切り分けます。
「プディング」と呼ばれた、生地のある菓子
いもを甘い焼き菓子へ使う印刷されたルセット(材料の配合と作り方)は、十八世紀に遡ります。アメリア・シモンズの『American Cookery』(1796年)には、冬カボチャのプディングをさつまいもで作ってもよいとする指定があります。この時点の名はパイではなく、プディングでした。
十九世紀初めには、パイ生地へいもを詰める作り方が現れます。メアリー・ランドルフの『The Virginia Housewife』1827年版の「Sweet Potato Pudding」は、柔らかく茹でたいもを熱いうちに裏ごしし、卵、砂糖、バター、ナツメグ、レモンの皮、ブランデーを合わせ、生地を敷いた器で焼くものです。上に砂糖を振り、シトロンを飾ります。名はプディングでも、生地が中身を受ける構成です。
今日のスイートポテト・キャセロールにも、いもの甘い料理を耐熱皿で焼き、甘い上掛けをする型があります。しかしパイには粉と油脂で作る器があります。「プディング」「パイ」という名の変化と、生地を使うかという形の変化は、必ずしも同時には起きていません。
南部から、家族とともに移動した味
さつまいもはアメリカ大陸原産で、西アフリカで親しまれたヤムとは別の植物です。奴隷化された人々は、手に入るさつまいもへ知識と好みを生かし、米国南部のアフリカ系の食文化の中で大切な作物に育ててきました。その料理の一つが甘いパイへつながります。
感謝祭やクリスマスにも切り分ける、祝いのパイです。パンプキンパイがよく知られる感謝祭の食卓でも、アフリカ系の家庭ではスイートポテト・パイを中心に置くことがあります。シナモンやナツメグの香り、生地の器に入る橙色の中身が似ていても、どのいもを選ぶかには家族や土地の記憶があります。
二十世紀に南部から各地へ移住した人々は、祝いの食卓の味も携えました。トム・リードの家では、ミシシッピ州マウンド・バイユーで母から作り方を習った祖母シオラが、シカゴ、さらに一九四〇年代のインディアナ州ゲーリーへ、このパイを持ち込みました。感謝祭とクリスマスに必ず焼く菓子だったと彼は回想します。スミソニアンの食文化担当者リリット・ギルモアの家では、クワンザ最後の1月1日に、青菜や豆とともにこのパイを食べました。父が焼くパイは祝日の楽しみで、翌日には冷蔵庫から冷たい一片を取り出し、手で食べることもあったといいます。一つの家族の記憶には、祝いに切り分ける一台と、翌日の身近なおやつという二つの姿があります。
いもの密度と、卵の固まり方を合わせる
いもは焼くか茹でるかして柔らかくし、皮を除いて潰します。繊維や大きな塊を細かくすると、卵と乳へ均一に混ざり、切った面が整います。果汁の多い果実パイと違い、いも自身が密度のある層を作ります。
卵、砂糖、溶かしバター、クリームなどへいもを混ぜ、シナモン、ジンジャー、ナツメグ、バニラなどで香りを重ねます。乳や卵に対するいもの割合で、濃密にも、滑らかなカスタードに近くもなります。いもの下ごしらえだけでなく、液体と卵の量までが中身の性質を決めます。
生地の器は、粉へ冷たいバターを散らし、冷水などでまとめ、冷やして丸く延ばし、型へ敷きます。菓子作家エリン・ジーン・マクダウェルの型では、先に重石を載せて空焼きし、重石を外して底にも火を通してから詰め物を入れます。中身の縁は固まり、中心にはわずかな揺れが残る頃に取り出し、冷まして落ち着かせます。空焼きしないルセットもあり、いもと液体の割合、底の焼き方を組み合わせて火通りを整えます。
ホイップクリームを添えれば、密ないもの層に、空気を含んだ乳の軽さが加わります。白いマシュマロ状の上掛けをあぶる現代の型もあります。何も載せない一台では、滑らかな中身と生地の縁のひだがそのまま装飾になります。
ハワイの二層は、焼いてから冷やし固める
ハワイには、さつまいもに白いハウピアを重ねるパイがあります。ハワイアン・エレクトリックが2018年に公開したルセットは、沖縄系またはモロカイのいもを卵や無糖練乳などと合わせ、生地の器へ流して焼きます。
パイが冷めてから、ココナツミルク、水、砂糖、コーンスターチを煮てとろみを付けたハウピアを流し、さらに冷やします。下は卵といもを焼き込み、上はでんぷんで固めるため、二層は別の工程でできています。南部の一層のパイと同じいもを使っても、断面を分ける白い層には別の食感と香りがあります。
用語解説
- フィリング
- 菓子へ詰めたり流したりする中身。
- 空焼き
- 詰め物を入れる前に、生地だけを焼くこと。
- カスタード
- 卵と乳、糖などを合わせ、加熱してとろみや固さを出すもの。
- エリン・ジーン・マクダウェル
- 米国の菓子作家・料理書著者。空焼きした器を使うスイートポテト・パイのルセットを公開する。
- メアリー・ランドルフ
- 米国の料理書著者。『The Virginia Housewife』の1827年版に、生地を使うスイートポテト・プディングが載る。
- シトロン
- 香りの強い柑橘。菓子では皮の砂糖漬けが用いられます。
- ヤム
- ヤマノイモ属のいも類。ヒルガオ科のさつまいもとは別の植物です。
- リリット・ギルモア
- スミソニアン・フォークライフ・フェスティバルの食文化担当者。家族のクワンザとパイの記憶を執筆しました。
- クワンザ
- アフリカ系の文化や共同体を祝う、12月26日からの七日間の行事。
- ハウピア
- ココナツミルクをでんぷんなどで固めるハワイの甘味。コーンスターチを使う型がある。
- アメリア・シモンズ
- 1796年の米国料理書『American Cookery』の著者。冬カボチャのプディングをさつまいもで作る選択を記す。
- トム・リード/シオラ
- 祖母から受け継いだパイの記憶を公開した家族。シオラはミシシッピから北部への移住とともに作り方を伝えた。
調査注記
ランドルフの生地付きプディングはColonial Williamsburgが紹介する1827年と、Project Gutenbergの1860年版を区別して参照。菓子の名と構成の変化が同時だったとするものではない。祝日の地域差は集団を固定する規則ではなく、博物館の食文化解説と家族の一次回想に現れる選択として記した。







