Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ミルフィーユ
Mille-feuille
折り込み生地とクリームがつくる、砕ける層
ケーキ / フランス

一枚のパイの中の細かな層と、パイとクリームを積んだ大きな層。ミルフィーユの切り口には、二重の重なりがあります。三枚の折り込みパイで二段のクリームを挟むフランス菓子がよく知られますが、さらに薄く多く積む型もあります。Mille は千、feuille は葉。何枚もの板を積む姿に加え、一枚の中に数百の層を作る折り込みが、この名を支えています。
油脂を溶かさず、薄い層へ残す
粉と水の生地、バターを折って延ばすと、焼成で水蒸気が層を押し離します。通常法は生地でバターを包み、逆折り込みは粉入りのバターで水分を含む生地を包みます。油脂を薄い面として残すため、温まって柔らかくなれば冷やします。一方、延ばしても縮み戻る生地は休ませ、こねたり延ばしたりして生じた弾力を落ち着かせます。油脂の温度と生地の休息は、別々に整える条件です。
ヴァローナのバニラ型は、逆折り込みの四つ折り2回と三つ折り2回で、最後の三つ折り前に一晩休ませます。通常法で三つ折りを6回する型もあります。一枚のバター層を三つ折りごとに三倍へ増やす計算なら、3の6乗で729層。これは生地と油脂を保って折れた場合の理論上の数で、焼いた断面に同じ厚さの729枚が並ぶという意味ではありません。四つ折りと三つ折りを組み合わせれば層数も変わり、細かな層へ至る折り方は一つではありません。
平らに焼き、薄く割ってから積む
高く浮かせるより、クリームを支える板へ焼きます。薄く延ばして休ませ、途中で上から天板を重ねる方法は、膨らみを抑えながら中まで香ばしく焼く仕事です。
バニラ型では2ミリに延ばして焼き、長方形に切り、厚みも半分に割ります。クリームを絞って薄板を重ねる作業を5回繰り返し、最上段には粉糖をバーナーでカラメル化した板を置きます。焼成、切断、糖の仕上げを先に済ませ、後で冷たい中身と組みます。
炊く、とけ合わせる、泡を加える
同じ型のクリームは、乳と生クリームをバニラと沸かして10分香りを移し、卵黄、糖、粉、コーンスターチと合わせて再沸騰させます。60度でバターを加え、さらに冷やしてから泡立てた生クリームを合わせます。とろみを炊く熱と、油脂や泡を入れる温度は別です。
別のヴァローナの型は、三枚の間にプラリネの泡立てクリームとミルクチョコレートのクリームを分けます。上面も粉糖、カラメル、白いフォンダンへ褐色の模様を描く型などがあり、同じ層へ違う香りと面を作ります。
1733年、果実を積んだミルフィーユ
ヴィンセント・ラ・シャペルの英語料理書『ザ・モダン・クック』1733年版は、薄い丸いパイを各枚焼き、杏マーマレード、赤スグリやグーズベリーのゼリー、保存ラズベリーを挟みます。上には図形を抜いたパイを置き、卵白、粉糖、レモンの糖衣を白、赤、緑へ分けて縞に掛けます。現在のカスタード型よりも、保存果実と色の面が中心です。
1867年のパリのバック通りのアドルフ・スニョの店については、パイとカスタードの組合せを評判にしたという後年の観光解説があります。それ以前にも同名の重ね菓子があり、この年が積層菓子全体の発明を示すわけではありません。
さらに1872年版のユルバン・デュボワ『諸国の料理』には、薄いパイ12枚へバニラのバヴァロワを塗る型があります。焼いた板を軽く押して平らにし、冷まして塗り、切って重ね、刻みピスタチオを散らして氷で冷やします。果実、クリーム、多枚数、三枚二段は、異なる時代と作り手の積み方です。
二枚のパイに何を見せるか
オランダのトンプースは、厚い一段のクリームを二枚で挟み、上面をピンクへします。王室に結びつく祝いにはオレンジ色の糖衣になります。スロベニアのブレッドのクレムナ・レジナは、戦後に名物となった型で、二枚の間にバニラクリームと薄い泡立て生クリームを別々に置き、粉砂糖を振ります。同じ二枚でも、色の面か二種の乳かで見せる部分が違います。
ロシアやウクライナの家庭のナポレオンには、薄いパイを何枚も重ね、卵、乳、粉を炊いてバターを混ぜたクリームをなじませ、翌日に食べる型があります。端を砕いて外へ散らし、焼きたての軽さより、時間で層が柔らかくまとまる状態を楽しみます。
乳を煮詰めるチリ、花の香りを添えるイラン
チリのトルタ・ミル・オハスには、乳と糖を煮詰めたマンハールを挟みます。製菓向け乳製品会社ソプロレの一型は、薄いパイ三枚に、泡立てクリーム、カスタード、マンハール、ラズベリージャムを重ね、外をクリームと砕いたパイで覆います。バニラの一層を繰り返すだけでなく、乳の濃い甘さと果実の酸味を同じ断面へ置く仕立てです。
イランで親しまれるシリニ・ナポレオニも、折り込みパイとクリームを使う近縁菓子です。料理人オミド・ルースタイの型は、バラ水を香らせたカスタードを、焼いたパイを横に割った間へ詰めます。上に泡立てクリーム、砕いたパイ、ピスタチオ、粉糖を重ね、バラの花弁も飾ります。作り手はサフラン、オレンジ花水、カルダモンなどの展開も挙げますが、全てを一台へ入れるわけではありません。層を作る技術を保ちながら、その土地で好まれる乳や花の香りへ替える道があります。
横浜で学んだ技術と、日本の苺の一台
村上開新堂の沿革は、村上光保が1870年に横浜のフランス人サミュエル・ペールへ学び、1874年に創業したと伝えます。二代目一政は仏語の製菓単語帳を作り、原本のルセット(材料の配合と作り方)を調べました。現在の同店は、板状パイとシトロンクリームを積む小型のミルフイユを作ります。店の一品には、横浜での技術習得と、次の世代によるフランス語の学習もつながっています。
日本のナポレオンパイには、苺を挟み、上にも果実と泡立てクリームを飾り、中へスポンジを重ねる例があります。酸味と柔らかな生地を加えた積層です。一方、ミルクレープはしなやかな薄焼きを積み、折り込みパイそのものの細かな層はありません。重ねる外形が似ていても、一枚が口でどうほどけるかに、その作り方が現れます。
用語解説
- マンハール
- チリなどで使う、乳と糖を煮詰めた甘い菓子材料の名。ドゥルセ・デ・レチェに対応する。
- シリニ・ナポレオニ
- イランで親しまれる「ナポレオン」の名のクリーム菓子。作り手によりパイの枚数、乳のクリーム、花やナッツの香りを替える。
- オミド・ルースタイ
- イランの料理文化を伝える料理人。「The Caspian Chef」で自らのシリニ・ナポレオニのルセットを公開する。
- アドルフ・スニョ
- 19世紀パリの菓子職人。1867年のミルフィーユの人気と結び付けられる。 村上光保/村上一政:村上開新堂の初代と二代目。西洋製菓技術の習得とフランス語ルセットの研究に携わった。 サミュエル・ペール:横浜で製菓を行い、村上光保が師事したフランス人。 シトロン:厚い芳香のある果皮を持つ柑橘。
- クレムナ・レジナ
- スロベニアのブレッド湖畔に結びつく、二枚のパイとバニラ・生クリームの層で作る切り菓子。
- ヴィンセント・ラ・シャペル
- 十八世紀のフランス人料理人。英語版『ザ・モダン・クック』の著者。
- ユルバン・デュボワ
- 十九世紀のフランス人料理人。各国料理や製菓の技法を著した。
- バヴァロワ
- 乳・卵などを使うクリームをゼラチンで固め、泡立てたクリームを合わせる型などがある冷菓。
- 折り込みパイ
- 生地と油脂を交互の層にして、焼くと薄い層が開くように仕込むパイ。
- 逆折り込み
- 粉を混ぜたバターで生地を包み、折り重ねる方法。
- カスタード
- 卵と乳を加熱して作るクリーム。菓子用では小麦粉やでんぷんを加える型がある。
- フォンダン
- 糖を細かく結晶させて練った糖衣。
- プラリネ
- 糖とナッツを合わせ、細かくすりつぶしてペーストなどへ加工した製菓材料。
パレードの自家製パイのいちごミルフィーユ/Strawberry mille Feuille Set 2026
このお菓子に寄せられたお客様の声
自家製パイの
いちごミルフィーユセット
最高です♡







