Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ヌガー
Nougat
蜂蜜とナッツを固める、白と黒の違い
砂糖菓子 / フランス

白い泡の中へ木の実を残すもの、琥珀色の糖と実が砕けるもの。ヌガーは、煮た蜂蜜や糖でナッツをまとめる菓子の一族です。柔らかさと白さは別の性質で、白い型にも硬軟があります。南フランスのモンテリマール、地中海各地、イランのガズ、台湾の牛軋糖へ、泡、甘味料、粒の扱いが違う形で広がっています。
白い生地へ、糖液をどう入れるか
蜂蜜、糖、グルコースなどを煮る工程と、卵白で泡を作る工程を分け、最後に木の実を入れます。シャベール・エ・ギヨの実演ルセット(材料の配合と作り方)は、一緒に煮た糖、蜂蜜、グルコースを温度を下げて泡へ細く注ぎ、アーモンドを加えます。モンテリマールの産地仕様には、最初の糖液と卵白を合わせてから、さらに高温へ煮た糖液を加え、ゆっくり加熱して安定させる手順もあります。
中心まで煎るアーモンドを最後に入れれば、粒の歯触りと香りが残ります。上下の薄い食用ウエハースは、柔らかなものを板へ延ばし、切って扱う支えです。残る水分や加熱時間で硬さが変わり、色だけから噛み応えは決まりません。
プロヴァンスの黒ヌガーには、卵白の泡なしで蜂蜜や糖とアーモンドを合わせる型があります。濃い琥珀色が実と砕けるもので、クリスマスの「十三のデザート」には、白と黒が別の一品として並びます。
ナーティフ、トッローネ、トゥロン
名はナッツを表すプロヴァンス語などを経て、ラテン語 nux に遡ります。一方、10世紀のバグダードの料理書にも、ナーティフという類似菓子があります。ダニエル・ニューマンのハラン風再現は、蜂蜜、卵白へ多種の実、種、香辛料を加えるものです。中世のアンダルス系の別ルセットは、蜂蜜を煮て少し冷まし、卵白を混ぜ、再加熱で白く濃くして、アーモンドやクルミを加えます。
ヌガーという総称の中でも、イタリアのトッローネ、スペインのトゥロンは、独自の名称と土地の作り方を持ちます。トッローネには蜂蜜、糖、卵白とアーモンドなどを食べられる薄紙で挟む型があり、スペインのアリカンテ型は粒を残し、ヒホナ型は実を細かくして再加熱し練ります。柔らかさは、泡だけでなく、実を粒にするかペーストにするかにも関わります。
中世の近縁菓子にも、蜂蜜、卵白、木の実を組む技術がありました。一方、各地の製法が伝わった道は一本に定まりません。東方から十字軍の騎士が持ち帰ったという土地の物語も、その往来を説明する伝承として残ります。
蜂蜜を冷水で試す、スペイン語の古い手順
近世スペインの家政書『Manual de mugeres』にあるトゥロンは、蜂蜜へよく泡立てた卵白を混ぜ、一日置き、翌日、絶えず混ぜながら煮ます。滴を冷水へ落とし、冷めて砕ければ煮上がり。皮をむいて煎ったアーモンドやヘーゼルナッツ、松の実を入れ、さらに少し加熱して、塊や切り分ける形へ仕上げます。温度計の数値でなく、冷やした糖液の壊れ方を、硬さを決める目印にしていました。
アリカンテでは、クリスマスの贈答と仕事の報酬にも結び付きます。市の観光案内が紹介する1582年の記録には、給与の一部を貨幣、別の一部をトゥロンで支払う習慣が現れます。今日の祝日の甘い板にも、貴重な蜜と木の実を贈る意味が重なっています。
婚礼の塔と、復活祭のトッローネ
クレモナには、1441年、フランチェスコ・スフォルツァとビアンカ・マリア・ヴィスコンティの婚礼で、町の鐘楼トッラッツォをかたどった菓子を出したという伝説があります。町の観光案内はこの話を伝え、晩秋にはヌガーの祭りも開かれます。塔に結ぶ物語と、実を煎ることを意味するラテン語へ結ぶ語源説は、名を説明する別の筋です。
サルデーニャのトナーラでは、蜂蜜、木の実、卵白のトッローネを、復活祭翌日の月曜日にも祭りで味わいます。近隣の山村では、栗やイチゴノキの蜂蜜を使う品もあります。イタリアのクリスマス菓子という広い位置付けの中にも、山の蜜と復活祭の市に結び付く土地の暦があります。
薬学の書と、フランス語の名
マルセイユのMucemの展示解説は、ノストラダムスの1555年の保存菓子の書に、アーモンドの白い「ピニョラ」があり、1595年の薬学書には、オック語の木の実へ関わる nogat が見えるとします。名産となる前も、蜜と実をまとめる仕事は、別名と書物の分類に載りました。薬と甘い菓子の近さも、その用途の背景です。
モンテリマールが産地になる
INAOは、16世紀にアーモンド栽培が広がり、それまでのクルミから実が変わったと説明します。1701年の町の公文書には、蜂蜜とアーモンドのヌガーの贈答があり、18世紀末には専業職人が根づきます。材料の移行、町の贈り物、職業の定着は、同じ一事件ではありません。
19世紀末以後には、地元出身の政治家エミール・ルーベの贈答や、南へ向かう国道7号の販売が知名度を高めました。土地の乾いた空気も、蜂蜜が多く、湿気で粘りやすいものの製造へ結びつきます。
「ヌガー・ド・モンテリマール」は2024年11月にEUの保護地理的表示へ登録され、町と周辺13自治体が対象です。蜂蜜は仕込み時の甘味材料の乾物重量に対して25%以上。完成品のアーモンドは30%以上、またはアーモンド28%以上とピスタチオ2%以上です。分母は蜂蜜と実で違います。卵白を含む白い生地と煎り実を使い、柔らかい型と硬い型の両方を含みます。
イスファハーンの甘味料は、枝から集める
蜂蜜や栽培糖を使うヨーロッパの板から、甘味料の採集へ目を移すと、別の技術が見えてきます。イランのガズには、ガズ・アンゴビーンを使う伝統があります。研究者バフラム・グラミの説明では、単純な樹液ではなく、低木の昆虫が出す甘露です。枝の下へ皮の受け皿を置き、軽くたたき落とし、ふるいで葉などを除きます。糖を煮る前に、植物、昆虫、採集者が関わる原料です。
モハンマド・レザー・ガーヌーンパルヴァルが記す型は、それを水で煮て濾し、泡立て卵白を合わせ、再び濾して糖を加え、ペーストへ加熱し、ピスタチオやアーモンドを混ぜます。平たい小円や一口大へし、粉の中で湿気と付着を防ぎます。今日の全品が同じ甘味料ではありませんが、採取から仕上げまでに、白い泡と木の実の共通性を越えた差があります。
乳を加える、チョコレートで包む、実を練る
台湾の牛軋糖には、麦芽糖、バター、粉乳、卵、アーモンドなどの型があり、乳の香りが加わります。「フランス式」とする商品にも乳製品を使う仕立てが見られます。
米国のチョコレートバーは、柔らかく軽い泡の中身をヌガーと呼び、キャラメルと重ねてチョコレートで包む品もあります。1932年に始まったスリー・マスケティアーズは、当初は一袋に三本を収めたことから名付けたとメーカーが伝えます。実の粒を多く残す板から、泡の軽さをチョコレートの中へ収める菓子へ、ヌガーの使い道も変わりました。
卵白で泡立てず、ナッツを細かく練る
ドイツ語のヌガーは、煎りナッツやアーモンド、糖、カカオを細かく練る素材も指します。リューベックのニーダーエッガーでは、粒のまま輸入したヘーゼルナッツを国内で煎り、ペーストへして、微細に圧延し、さらにコンチングして滑らかにします。卵白の泡に実を残すのとは反対に、実を感じる粒そのものを細かくする仕事です。
この褐色の一族は、トリノのジャンドゥーヤともつながります。ナポレオンの経済封鎖によるカカオ不足から生まれたという説は広く語られますが、食文化史家アントネッラ・カンパニーニは、成立の正確な年には研究の余地を残します。1813年のアントニオ・バッツァリーニの代用案は、甘いアーモンド、ルピナス、穀類、糖液を使うもので、後のヘーゼルナッツの一粒と同じ配合ではありません。19世紀のトリノで育ったナッツとカカオの技術は、今日ではチョコレートの詰め物や塗るクリームにも広がっています。
用語解説
- 『Manual de mugeres』
- 化粧や医療、料理などの作り方をまとめた、近世スペイン語の匿名の家政書。本稿ではトゥロンの翻刻箇所を用いる。
- フランチェスコ・スフォルツァ/ビアンカ・マリア・ヴィスコンティ
- 1441年のクレモナの婚礼と、塔形のトッローネの伝説に登場する夫婦。
- トナーラ
- サルデーニャ島の山間の町。蜂蜜と木の実のトッローネ、復活祭翌日の祭りで知られる。
- ニーダーエッガー
- ドイツのリューベックにある製菓会社。マジパンに加え、滑らかなナッツ系ヌガーを作る。
- コンチング
- チョコレートなどを温度と時間を管理しながら練り、風味や口どけを整える工程。
- ジャンドゥーヤ
- 煎りヘーゼルナッツとチョコレートを細かく合わせる菓子材料。トリノの謝肉祭の人物名にちなむ。
- アントネッラ・カンパニーニ/アントニオ・バッツァリーニ
- 前者はイタリアの食文化史家、後者は1813年にチョコレートの代用案を著した人物。
- ノストラダムス
- 16世紀フランスの医師・薬剤師・著述家。保存菓子の書も著した。 Mucem:フランスのマルセイユにあるヨーロッパ・地中海文明博物館。 ガズ/ガズ・アンゴビーン:前者はイランの泡と木の実の菓子、後者はその伝統的な甘味材料となる甘露。 甘露:植物に付く昆虫由来の糖分に富む物質。 バフラム・グラミ/モハンマド・レザー・ガーヌーンパルヴァル:イランの植物と食文化の専門解説を書いた研究者。前者はガズの甘味料の研究者、後者はイラン食文化を研究する著者。
- グルコース
- 製菓では、ブドウ糖を主体とする糖液などを指す。
- ウエハース
- 薄く焼いた食べられる生地。ヌガーの支持材にもなる。フランス語でパン・アジムと呼ぶ、酵母で膨らませない薄い生地を使う。
- 保護地理的表示
- 地域と産品の結びつきを、定めた条件で保護するEUの制度。略称PGI、フランス語ではIGP。
- 乾物重量
- 水分を除いた部分の重さ。
- ダニエル・ニューマン
- 中世アラビア語料理書の校訂・翻訳と、ルセットの再現を行う研究者。
- INAO
- フランスの国立原産地・品質機関。モンテリマール産ヌガーの産地史や保護表示の公表主体。
- エミール・ルーベ
- モンテリマールで政治活動を行い、十九世紀末にフランス大統領となった人物。ヌガーの贈答による紹介でも知られる。







