Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

スフォリアテッラ
Sfogliatella
貝殻のような細い層、ナポリのリッチャとフロッラ
焼き菓子 / イタリア

ひだが貝殻のように開くリッチャを選ぶか、滑らかな皮のフロッラを選ぶか。ナポリのスフォリアテッラは、同じ詰め物を異なる生地で楽しめる菓子です。名は層状の生地や菓子を指す sfogliata の指小形です。「小さな層の菓子」という名は、表面に薄片を見せる一型だけのものではありません。
薄い帯を巻き、切り、帽子に開く
リッチャの薄片は薄くのばした生地と油脂を重ねた構造に由来し、焼くと層が離れて細かなひだになります。フロッラの生地は、油脂を含んだもろい練り生地で、細かな薄片を作るのでなく、まとまった外皮として割れます。二つの名前は詰め物の風味だけでなく、生地の技術を指す言葉です。
薄片を作るルセット(材料の配合と作り方)の一例では、外皮の生地を油脂で覆って五時間以上休ませ、薄くのばして巻いた後も冷蔵で五時間置きます。巻いた生地を一センチ以上の輪切りにし、手で帽子状へ開いて詰めます。休ませた平たい帯を、巻く、切る、押し開くという順序で立体にする方法です。
炊いた穀物と、水切りしたチーズ
中にはリコッタやセモリナを使い、砂糖漬けの柑橘や香りの素材を合わせる仕立てがあります。乳の柔らかさだけでなく、穀物を炊いた質感と柑橘の風味が重なります。外側の見た目に目を奪われても、中心には別の仕事で用意した詰め物があります。
このルセットでは、リコッタを二時間以上水切りし、セモリナを塩入りの熱湯で炊いて二時間以上冷まします。先にセモリナと糖を混ぜ、リコッタ、香り、卵、砂糖漬けオレンジを順に加えます。穀粉をそのままチーズへ混ぜるのではなく、炊いた粒を冷ましてから合わせる工程です。
ナポリの老舗スカトゥルキオは、詰め物のリコッタとセモリナを同量にしています。乳のチーズだけでなく穀物を加えたフィリングで、粉や穀物を使わないチーズのクリームとは異なる密度があります。砂糖や柑橘の香りを合わせる点にも、作り手の配合が表れます。
三つの修道院に残る異なる菓子
発祥の説明には複数の筋道があります。ナポリの文化財監督局は、起源は不確かとした上で、ナポリのクローチェ・ディ・ルッカ修道院に結び付く説と、アマルフィ海岸のコンカ・デイ・マリーニにあるサンタ・ローザ修道院の説を並べます。後者は、修道女ブリジダが残ったセモリナにリコッタ、砂糖、砂糖漬け果実を合わせ、二枚の小麦粉とラードの皮で包んだという物語です。上の皮を持ち上げて修道服の頭巾に似せ、修道院で「サンタ・ローザ」として作り売ったと説明されます。
同局はさらに、ナポリのレジーナ・チェーリ修道院には大きなフロッラ型「スフォリアトーナ」があったと紹介します。もろい外皮で大きく焼く姿も、修道院の製菓に結び付けられています。
トレド通りの貝殻へ
同局の紹介では、一八一八年、ナポリのパスクアーレ・ピンタウロがサンタ・ローザのルセットを貝の姿へ改め、トレド通りの店で大量に売るようになったとされています。頭巾を思わせる菓子は、街の店で一個ずつ売る貝殻の姿へ変わったと伝えられています。
ナポリではババなどと並び、店頭で一個を選んで持ち歩ける身近な菓子です。薄片が開くリッチャと、丸みのあるフロッラの二型が菓子店に並びます。コーヒーやカプチーノに添える朝食にも、食後の甘味にも用いられ、外皮の違いを選びながら、共通するリコッタとセモリナの中身を味わいます。
アブルッツォではブドウと木の実を包む
名前と貝殻の姿が近くても、アブルッツォのラマ・デイ・ペリーニには別の地域型があります。州の伝統産品一覧にも「スフォリアテッラ・ディ・ラマ」として登録され、地域開発機関の資料は、薄い生地の中にブドウとアマレーナのジャム、煮詰めた葡萄汁、クルミ、カカオを詰めると記します。リコッタとセモリナのナポリ型とは中心の味も異なります。十九世紀末、地元のアンナ・ディ・グリエルモ・イン・タバッシがナポリ型を土地の材料に替えたという由来も、地域開発機関の記録に伝わります。現在も町の家族間でこの菓子を競う催しがあると紹介されています。
アブルッツォでは、クリスマスに家庭で手間をかける菓子でもあります。地元の料理家マルティーナ・スパダーノの型は、油とワインを練り込んだ薄い生地をラードで重ね、モンテプルチャーノ種のブドウを煮た「スクルッキアータ」を芯にします。家で粒を一つずつ処理するジャムの、粘りとほろ苦さが中心です。アマレーナ、木の実、カカオなどを足す家ごとの変化もあります。
薄く延ばす作業には二人の手が助けになります。巻いた生地を冷やしてから輪切りにし、十字の方向へ延ばして詰め物を包みます。十分に冷めた後に粉糖を振り、密閉容器などで数日楽しむ仕立ては、水分の多いチーズやクリームを詰めるナポリ型とは別の、年末の家庭の仕事です。
クリームとサクランボ、シューを抱く海老の尾
サンタ・ローザは、クリームとアマレーナのジャムを使う、より大きな変奏として紹介されます。コーダ・ダラゴスタ、つまり「海老の尾」という名の型は、リッチャの外皮へシュー生地を入れて焼き、クリームを詰める仕立てです。外の薄片が似ていても、穀物とリコッタを焼き込む中身とは別の構成になります。
用語解説
- リコッタ
- 乳清などを加熱して作るイタリアの乳製品。スフォリアテッラの詰め物に使う。
- セモリナ
- 小麦を粗く挽いた粉。加熱して詰め物の質感を作る。
- リッチャ
- スフォリアテッラの外皮を薄片状に重ねて焼く型。
- フロッラ
- スフォリアテッラの外皮にもろい練り生地を用いる型。
- マルティーナ・スパダーノ
- アブルッツォの食を紹介する料理サイト The Spadanos の作者。
- アンナ・ディ・グリエルモ・イン・タバッシ
- ラマの地域型の由来伝承に登場する女性。
- ブリジダ修道女
- サンタ・ローザ修道院の菓子の起源物語に登場する人物。
- スフォリアトーナ
- レジーナ・チェーリ修道院に結び付く大きなフロッラ型。
- ラマ・デイ・ペリーニ
- アブルッツォ州の町。果実と木の実を詰める同名地域型がある。
- パスクアーレ・ピンタウロ
- ナポリのトレド通りの店に結び付く人物。十九世紀のスフォリアテッラ普及の説明に登場する。
- アマレーナ
- 酸味のあるサクランボの一種。シロップ漬けやジャムとして菓子に使う。
- シュー生地
- 粉を水分や油脂と加熱してから卵を合わせ、焼くと空洞を作る生地。







