Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ポルボロン
Polvorón
粉のようにほどける、スペインの冬の菓子
焼き菓子 / スペイン

一口の形を保った菓子が、口の中で粉へほどけます。ポルボロンは、小麦粉、油脂、砂糖などを合わせ、崩れやすい食感に焼くスペインの菓子です。アーモンドを使う型がよく知られ、クリスマスの盛り合わせにも並びます。そのもろさを遠方まで守るため、粉の前処理から冷却、個包装までが一つの製法になっています。
名に残る、粉へほどける性質
スペイン語 polvo は粉やほこり。王立アカデミーの辞書は、固いものを細かな粒へした状態を指す pólvora と接尾辞の結合として名を説明します。現在の pólvora は火薬も意味しますが、菓子名では生地が粉へほどける性質に関わります。上に振る白い粉糖だけを指す名ではありません。
粉とアーモンドへ、混ぜる前に火を入れる
エステパの製法の特徴は、材料を合わせる前の粉の扱いです。小麦粉をあらかじめ乾かすように加熱し、適した水分へ整えます。アーモンドも先に焼き、必要に応じて刻み、砂糖は挽いて粉糖にします。
豚脂、粉糖、シナモンや香料などを合わせ、最後に粉を加えて、色と質感が均一になるまで混ぜます。粉とナッツを先に加熱するため、その香りと乾き具合が、混ぜ始める前から決まっています。このエステパの型は、水を足して弾力を育てる生地ではありません。小麦のタンパク質は水を吸ってこねられるとグルテンのつながりを作りますが、水の少ない粉に油脂を行き渡らせると、その強いつながりを作りにくくなります。少ない水分と油脂の働きが、しなって伸びる生地より、粒へほどける口当たりを支えます。
成形は手でも機械でも行われます。型で一個ずつの形を作って焼き、内側まで色と質感を揃えます。表面には細かな亀裂ができ、外側はまとまりを持ち、内側は柔らかく崩れる仕上がりになります。
エステパの長円形と、配合の範囲
アンダルシアの「ポルボロネス・デ・エステパ」は、産地名を含む保護地理的表示で、EUでは2016年に登録されました。州政府が公開する仕様書は、小麦粉、豚脂、粉糖、アーモンド、シナモン、レモンやバニラなどの香料を使う焼き菓子と定めています。
同仕様のアーモンド量は、生地全体に対して伝統型が8%以上、カセロ型が15%以上です。家庭風を意味するカセロは、認証の中ではアーモンドの多い型の名になっています。長円形で、最大寸法は短径4センチ、長径7センチ、厚さ2.5センチ、重量50グラム。一個ずつの包みへ収まる大きさにも、産地の条件があるのです。
これらはエステパの産地名付き製品の特徴です。ポルボロンという一般名はより広く、カスティーリャ・イ・レオン州のトルデシリャスなどにも作り手の伝統が続いています。
冷まして包み、もろい形を届ける
焼いた後は冷まし、粉糖で表面を覆ってから包みます。熱い状態で包むと包材の内側に水分が結露しやすいため、冷却は見た目を整えるだけでなく、包装後の状態にも関わります。
エステパの仕様では、産地内での包装までが製造工程に含まれます。熱で封じるフローパックと、両端を房状にまとめる二重ひだの包み方があり、もろい一個を破損、過度な乾燥、油脂の酸敗から守ります。紙を開けるまで形を保つことも、この菓子の仕立ての一部です。
マンテカードとの重なり
ポルボロンは、粉、油脂、砂糖を使うマンテカードと近い系統にあります。マンテカードにはシナモンとゴマ、ココナッツ、カカオ、レモン、アーモンドなどの型があり、名称も日常には重なって使われます。
エステパのアーモンド入りポルボロンは、長円形と粉糖の上掛けが目印です。アーモンド入りのマンテカードもあるため、ナッツが入るという一点だけで二つを完全に分けることはできません。産地の型ごとの形、配合、表面の仕上げが、その違いを具体的に表します。
家庭の菓子を運べる商品へ
エステパには、サンタ・クララ修道院と家庭の製菓に結びつく歴史があります。産地団体が伝える十九世紀のミカエラ・ルイス・テジェスの改良は、従来の「トルタス・デ・マンテカ」の粉を細かく整えて炒り、外を締めて乾かしながら中の柔らかさを保つ工夫でした。運送業の夫を通じて遠くへ届けるため、風味と形を守ったという経緯です。
同団体は一八七〇年を近代商品の商業化の節目としています。粉・豚脂・糖の菓子そのものの最初の年ではなく、包装と輸送へ向く改良が地域の仕事を変えた時期です。クリスマスの需要とともに、工場だけでなく包材、印刷、運送の仕事にも広がりました。
三回唱える幸せの物語
日本の紹介には、口で崩れ切る前に「ポルボロン」と三回唱えると幸せになる、という話も添えられます。志摩スペイン村の専門店やHIBIKAも、幸福や願いがかなう菓子として伝えています。壊れやすさが言葉遊びの条件になった現代の贈り物の物語です。古いスペインの婚礼でいつ始まったかは定かではありません。
フィリピンでは炒った粉を、そのまま固める
フィリピンのポルボロンは、粉を炒ってから粉乳、砂糖、バターなどを混ぜ、型で圧して固めます。成形した後にもう一度焼くスペインの型とは、加熱の順序が異なります。
粉は鍋で絶えず混ぜ、淡い褐色と香りが付いたら火から下ろして冷まします。粉乳と砂糖を混ぜ、バターでまとめ、少し置いてから小さな型で抜き、一個ずつ紙やセロハンで包みます。ピニピグやカシューナッツ、ココアなどを加える型もあります。
粉乳の乳味と油脂でまとまった菓子は、焼き菓子というより、細かな粉を一口の形にした甘味です。スペインのクリスマス菓子としての位置付けに加え、フィリピンでは日常のおやつや祭りの場でも受け継がれています。
用語解説
- 豚脂
- 豚から得た食用脂。ラード。スペイン語でマンテカ・デ・セルド。
- カセロ
- スペイン語で家庭風。エステパの認証品では型名にも使う。
- グルテン
- 小麦のタンパク質に水を加え、練ることで生じる弾力と伸びのあるつながり。
- pH
- 酸性・アルカリ性の程度を示す尺度。エステパの仕様の管理値に使われる。
- フローパック
- 包材で製品を包み、継ぎ目や両端を熱で封じる包装方式。
- 保護地理的表示
- 産地との結び付きがある食品などの名称を保護するEUの制度。略称IGP、英語ではPGI。
- ミカエラ・ルイス・テジェス
- 19世紀エステパの菓子の改良と商業化を担った人物として産地が伝える女性。「ラ・コルチョナ」の通称を持つ。
- ピニピグ
- 若い米をつぶして炒ったもの。フィリピンの菓子に歯ざわりを添える。







