Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ヴィクトリアサンドイッチ
Victoria Sandwich
二枚のスポンジでジャムを挟む、英国の茶のケーキ
ケーキ / イギリス

焼き色の付いた二枚のケーキの間から、赤いジャムとクリームが見える。ヴィクトリアサンドイッチ、あるいはヴィクトリアスポンジは、厚い糖衣で覆わず、バターの生地で中身を挟む英国の菓子です。等量の材料を使う古い型にも、一度に混ぜる現代の型にも同じ名があり、クリームの選び方や盛り方まで変わってきました。女王の名とともに茶の席へ根付き、粉を膨らませる技術の発達とともに作り方を増やした菓子です。
卵四個を量り、細長く切って積む
一八六一年に一冊へまとめられたイザベラ・ビートンの家政書には、ヴィクトリア・サンドイッチのルセット(材料の配合と作り方)が載っています。卵四個と、その重さずつのバター、砂糖、小麦粉を使い、ジャムまたはマーマレードを挟みます。膨張剤はこの材料表に記されていません。
現代の丸い一台との違いは、提供の形にもあります。ヨークシャープディング用の天板で焼き、冷まして二つの部分を重ね、指のように細長く切ります。さらにガラス皿へ格子状に積むよう記されています。現代の丸いケーキと同じ名が、異なる盛り方にも使われていました。
バターに空気を入れるか、一度に混ぜるか
二〇二〇年に英国王室の菓子職人が公開した配合は、バター、砂糖、セルフレイジングフラワーを各一五〇グラムにし、卵三個とバニラを加えます。バターと糖を軽くなるまで混ぜ、別に溶いた卵を少しずつ加えて分離を防ぎ、最後に粉を混ぜる方法です。油脂と水分を含む生地に空気を抱かせ、膨張剤入りの粉の働きも使います。
材料を一度に混ぜる方法もあります。料理家メアリー・ベリーの「オール・イン・ワン」は、製菓用スプレッド、砂糖、卵、セルフレイジングフラワー、追加のベーキングパウダーを、一つのボウルで滑らかになるまで混ぜます。同じ名でも、卵を少しずつ加える王室の型と工程が異なります。ベリーは柔らかいバターも使えるとしつつ、自身の配合ではスプレッドを選んでいます。
焼いた二枚が受け止めるジャムとクリーム
王室の作り方は、完全に冷ました二枚の間へ、イチゴまたはラズベリーのジャムとバタークリームを挟みます。クリームは柔らかいバターに粉糖とバニラを合わせたもの。ホイップの白い泡とは材料も口当たりも異なります。
ベリーの型では、一枚の裏へイチゴジャムを、もう一枚へ泡立てたダブルクリームを塗り、内側で合わせます。ジャムだけの古い型、バタークリームの型、生クリームの型があるため、クリームの一種類をこの菓子全体の必須条件とはできません。
生地を二つの型で焼くほか、王室は一台だけ焼いて横に切る方法も示しています。名称のサンドイッチは、生地で中身を挟む構造です。十分に冷ましてから組み立てることが、ジャムとクリームの層を保つ工程になります。
焼いたイチゴと、等量則を変える卵黄
製菓職人ニコラ・ラムは、等量の四材料という配合を調整しています。バターの一部を卵黄へ置き換え、ダブルクリームと牛乳を加える型です。バターと糖は空気を入れすぎない程度に混ぜ、卵・乳製品の液と、粉・膨張剤の組合せを交互に加えます。
間に挟むのもジャムではなく、砂糖とともに焼いたイチゴです。少し縮んでシロップが出るまで焼き、汁ごと冷まします。ごく柔らかく泡立てたクリームを縁から二〜三センチ空けて塗り、果実と汁を置きます。一枚の上面に焼く前から砂糖を振っておく点も、仕上がりを変える工夫です。
調製粉の発達と、公爵夫人のお茶
現在よく使うセルフレイジングフラワーには、十九世紀の化学的な膨張剤の普及が背景にあります。バーミンガムではアルフレッド・バードが一八四三年に膨張剤を開発し、ブリストルではヘンリー・ジョーンズが一八四五年に調製粉の特許を得ました。重曹と酸を使い、生地の中で二酸化炭素を発生させる仕組みを、粉とあらかじめ組み合わせた製品が広がりました。卵とバターへ空気を入れる手作業を助ける道具になったのです。
午後のお茶の由来として、V&A博物館は女王の友人、第7代ベッドフォード公爵夫人アンナの物語を紹介します。遅い夕食まで空腹に耐えかね、お茶とビスケットやケーキを自室へ運ばせ、やがて友人を招くようになった、という筋です。同館はこれを伝説として紹介し、1840年代末には王室でも午後のお茶会が日常的に開かれたと説明します。菓子を切り分けながら人をもてなす午後の席が、王室から社交の場へ根付いていきました。
女王の名を受け継ぐ、世代を越える茶会
英国王室は、ヴィクトリア女王が午後のお茶とともに好んだことにちなむ名だと紹介しています。二〇二〇年のルセット公開は園遊会を記念したものでした。カミラ王妃も、当時のコーンウォール公爵夫人として、二〇二一年に世代を越えて詩を朗読する「Poetry Together」のお茶会へ自身の配合を提供しています。
女王の名を持つケーキが、家庭の製菓だけでなく、現代の人々が集まるお茶の席にも使われています。バター、砂糖、卵、粉の釣り合いはパウンドケーキやカトルカールにも通じますが、生地を重ね、その間に果実やクリームを置くことで、一切れの味の順序を変える菓子です。
用語解説
- セルフレイジングフラワー
- 膨張剤などをあらかじめ混合した小麦粉。
- オール・イン・ワン
- 生地材料を一つの容器で一度に混ぜる方法。
- 製菓用スプレッド
- 柔らかく練りやすい製菓用の油脂製品。バターそのものとは区別する。
- バタークリーム
- バターを主な油脂とするクリーム。
- ダブルクリーム
- 英国で用いられる、乳脂肪分の高いクリーム。
- メアリー・ベリー
- 英国の料理家・料理書著者。
- イザベラ・ビートン
- 十九世紀の英国の家政・料理書著者。
- ニコラ・ラム
- 英国の製菓職人、料理書『SIFT』の著者。
- ヴィクトリア女王
- 十九世紀の英国の女王。このケーキに名を残す人物。
- カミラ王妃
- 英国の王妃。世代交流のお茶会へルセットを提供した。
- アンナ・マリア・ラッセル
- 第七代ベッドフォード公爵夫人。午後のお茶の始まりを語る伝承の主人公。
- アルフレッド・バード、ヘンリー・ジョーンズ
- 十九世紀英国で膨張剤と調製粉を開発した人物。
- Poetry Together
- 子供と高齢者が詩の朗読とお茶をともに楽しむ活動。







