Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ニューヨークチーズケーキ
New York Cheesecake
クリームチーズを厚く焼き込む、都市の名を持つケーキ
ケーキ / アメリカ

厚く淡いクリーム色の中身に、乳脂肪のこくとチーズの穏やかな酸味が集まる。ニューヨークチーズケーキは、クリームチーズ、卵、糖、乳製品などをなめらかに焼く一台です。密度を支えるのは卵白の大きな泡ではなく、かたまりなく混ぜたチーズの組織。下にはクッキー、砕いたクラッカー、スポンジという異なる台があります。
余分な空気を入れずに合わせる
室温に戻したチーズと糖を低速で混ぜ、底や側面へ残るかたまりも取り込みます。卵を一個ずつ均一に合わせ、サワークリームとレモンなら酸味、生クリームなら乳の豊かさを重ねます。少量の粉やコーンスターチも中身へ入る型があり、粉は台だけの材料ではありません。
キングアーサーの直径10インチ型のルセット(材料の配合と作り方)は、粉、バター、糖、卵の台へ穴を開け、約204度で15分先焼きし、室温まで冷まします。中身を入れて約163度で45〜50分焼き、縁が固まり中央が揺れるところで止めます。約79度の目安を測るのは中心でなく、縁から約2.5センチ内側です。
扉を少し開けた炉でさらに1時間置くと、外側の熱で中央が仕上がります。急な冷却や卵への過加熱による割れを抑え、焼きたての揺れが、冷えた後の密な柔らかさへ変わります。
湯煎、二段階の炉、三種類の台
ジュニアーズは周囲へ湯を張り、密な生地へ均一に熱を伝えます。リンディーズ風には、最初に高温で色を付け、その後低温でゆっくり焼く方法もあります。なめらかな中身への火入れは、一つではありません。
粉とバターを練るクッキー台と、砕いたクラッカーを溶かしバターでつなぐ台では、工程と歯切れが違います。ジュニアーズのスポンジは、下に軽い柔らかな層を作ります。チェリーや苺のとろみあるソースを載せる仕立てもあり、果実の酸味と水分が乳脂肪へ加わります。日本の泡立てたスフレ型、強い焼き色を目指すバスク型とは、組織や加熱の狙いも異なります。
材料の年と、町のケーキの年
ヨーロッパにはチーズを焼く菓子の長い歴史がありますが、ニューヨークではクリームチーズの濃密さが中心になりました。フィラデルフィア・ブランドの会社は、ニューヨーク州のウィリアム・ローレンスが1872年に作ったとし、地域史研究は工場製造を1875年と記します。年の不一致は残りますが、販売者アルヴァ・レイノルズによる1880年のブランド命名は共通します。いずれも材料と商標の年で、完成したケーキの発明年ではありません。
食文化史家ギル・マークスは、1930年代のニューヨークで、従来の凝乳型に代わり、より豊かで滑らかなクリームチーズ型が流行したと説明します。
デリと劇場街、ブルックリンの店
ドイツ系ユダヤ人の店主アーノルド・ルーベンは、後年の回想で、1929年に招かれた席で出たチーズパイを改良したと語りました。劇場街のデリ、リンディーズでも人気となり、それをもじる店とケーキは、1950年のミュージカル『ガイズ・アンド・ドールズ』にも登場します。
同じ1950年、ブルックリンではハリー・ローゼンがジュニアーズを開き、製パン職人アイゲル・ピーターソンとルセットを作りました。クリームチーズを軽いスポンジへ載せる姿は、今もその店を特徴づけます。店ごとの台と火入れを持つ濃厚な一台が、ニューヨークの名を共有しています。
用語解説
- クリームチーズ
- 乳やクリームから作る、柔らかく穏やかな酸味を持つ熟成させないチーズ。
- 凝乳
- 乳のたんぱく質を凝固させたもの。余分な水分を除くなどしてチーズを作る。
- サワークリーム
- 乳酸発酵させたクリーム。酸味と乳の風味を加える。
- デリ
- ニューヨークのユダヤ系の食文化を背景にした飲食店などにも用いる呼称。
- 湯煎焼き
- 菓子の型を、湯を張った外側の容器に入れて焼く方法。
- ギル・マークス
- ユダヤ食文化とアメリカの菓子を研究した食文化史家・料理書著者。
- ウィリアム・ローレンス
- ニューヨーク州でクリームチーズを製造した酪農家。メーカーは1872年、地域史研究は工場生産を1875年と記す。
- アーノルド・ルーベン
- ニューヨークで飲食店を営んだドイツ系ユダヤ人。クリームチーズを使うケーキを広めた人物の一人。
- ハリー・ローゼン
- 一九五〇年にブルックリンでジュニアーズを開いた創業者。
- アイゲル・ピーターソン
- ハリー・ローゼンとジュニアーズのチーズケーキのルセットを作った製パン職人。







