Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

トゥルトー・フロマジェ
Tourteau fromager
黒いドームの下に、白く軽い山羊乳の生地
ケーキ / フランス・ポワトゥー

真っ黒なドームを切ると、中から白く柔らかなチーズの生地が現れます。ポワトゥーのトゥルトー・フロマジェは、薄い底生地、黒い上皮、気泡を抱く淡い中心を一台に焼く菓子です。外観だけでは焦げたパンにも見える姿は、高温で膨らみと表面を作り、続いて中心へ穏やかに火を入れる焼成から生まれます。山羊乳の季節と婚礼の記憶も、この黒白の菓子に重なっています。
水を切ったチーズに、柔らかな卵白の泡を
主役はフレッシュチーズで、伝統的には山羊乳のものを使います。シェフ・フィリップのルセット(材料の配合と作り方)は、山羊のチーズをざるでしっかりと水切りし、その後の重さで計量します。余分な水分を減らすことで、卵や少量の粉と合わせた中身の濃度を揃えます。
卵黄はチーズ側に混ぜ、卵白は砂糖と泡立てます。少量の泡を先に混ぜて濃いチーズ生地をゆるめてから、残りを静かに合わせる手順です。この気泡が熱で膨らみ、密なチーズの塊ではなく、軽く持ち上がる中心を作ります。白い断面の細かい穴は、材料だけでなくこの混ぜ方の跡です。
最初の高温で黒く、続く火で白い中心を
かつては陶器の専用型に焼き、現在は金属の型も使います。側面が外へ丸く開く深いくぼみを持ち、底に平らな部分を残す型もあります。その内側へ薄く伸ばしたパート・ブリゼを敷き、チーズの生地を流します。フィリップの型は、初めに高温で焼き、その後に温度を下げて内部へ火を通す方法です。先に膨らみと黒い表面を作り、残りの時間で卵とチーズの中心を落ち着かせます。炉の温度を一つに固定した菓子とは、熱の使い方が違います。
黒い面は単なる失敗の印ではなく、この地方菓子を見分ける特徴です。側面の薄い皮は淡い色で、中身は白いまま。ほのかな乳の酸味と空気を含んだ中心を、黒い皮が覆っています。
伝統的な説明では山羊乳のフレッシュチーズが中心になりますが、製造元メゾン・バイヨンは山羊乳と牛乳の両方のトゥルトーを作っています。同じ黒い上皮と白い中心を、乳の風味の違いとともに味わう展開です。
シェフ・フィリップは、自身の作り方では、焼成中に膨らんだものが冷めると少し沈み、上面の丸みは残ると説明しています。卵白を極端に硬く泡立てず、チーズ生地に静かに混ぜることも、工程上の要点です。
菓子を指す名と、一八六七年の地域語彙
名の tourteau は、菓子やパイを指す tourte から派生した語です。ポワトゥーの菓子を表す地域語 tourterie に結ぶ説明もあります。fromager はチーズを使う菓子を区別する部分で、黒い表面そのものを意味する名ではありません。
ドゥー・セーヴル県のメル周辺と深く結びつきます。一八六七年のレオポル・ファーヴルの語彙記録は「フロマジュ(チーズ)の菓子」をラ・モット=サン=テレ、ニオール、メルの近辺に置きます。現在の紹介ではブリウー=シュル=ブートンヌ、ルジニャン、ルゼにも分布します。セプヴレやサン=ロマン=レ=メルも発祥を唱える町として挙げられますが、来歴は一つの町に収まりません。
忘れたタルトから生まれたという話
同社には、農家の炉に山羊乳のチーズタルトを入れた料理人が忘れてしまい、表面は黒く、切ると中が柔らかく膨らんでいたという由来話もあります。地域の食品振興機関も過熱と置き忘れを伝説とし、実際にはチーズタルトをドーム型へ焼く職人技術の発展だった可能性を示します。土地で見慣れた形と、祝いの席の記憶の双方が、いまのトゥルトーにも重なっています。
乳の季節と祝いの席、その後の食べ方
メゾン・バイヨンは、かつて復活祭、聖霊降臨祭、婚礼の食事などの機会に食べた菓子と紹介しています。現在は朝食、間食、デザートだけでなく、祝いの会食に先立つ乾杯やアペリティフの席にも供されます。同社は蜂蜜、ジャム、果物、アイスクリームを添える食べ方や、軽く温める食べ方も提案しています。ルゼの製菓店を取材した農業紙では、山羊乳の季節性に合わせ、かつては復活祭から諸聖人の日あたりまで食べたと伝えます。現在は通年生産されても、祝いの菓子としての記憶と乳の季節の関係を残しています。
大きく膨らむ姿は、深い丸型と泡の生地の組み合わせから生まれます。切った一切れでは、薄い皮の歯切れと柔らかな中身、ほろ苦い表面が順に触れます。黒白の対比は見た目の意外性だけでなく、異なる熱の入り方を一つの菓子に残したものといえます。
用語解説
- パート・ブリゼ
- 粉とバターを合わせ、水分でまとめる練り込み生地。折り込みパイとは異なる。
- フレッシュチーズ
- 熟成させず、乳の水分を多く残した若いチーズ。
- メル
- ドゥー・セーヴル県の町。周辺のメル地方はこの菓子に深く結び付く。
- ラ・モット=サン=テレ/ニオール
- ファーヴルの記録がチーズ菓子の産地に挙げる、同県の町。
- ブリウー=シュル=ブートンヌ/ルジニャン/ルゼ
- ポワトゥーの製造・販売の土地。
- セプヴレ/サン=ロマン=レ=メル
- 起源を唱えるメル周辺の町。
- レオポル・ファーヴル
- 十九世紀の地域語彙の記録で、この菓子の古い呼び名に触れた人物。
- シェフ・フィリップ
- フランスの製菓サイトMeilleur du Chefで工程付きの配合を伝える料理人。
- メゾン・バイヨン
- ブリウー・シュル・ブートンヌでトゥルトーなどを作る製造元。
- 聖霊降臨祭
- 復活祭の後に祝うキリスト教の祝日。製造元が旧来の喫食機会として挙げる。
- アペリティフ
- 食事の前に飲み物や軽食を楽しむ時間。







