Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

シュクセ
Succès
アーモンドのメレンゲと、プラリネのクリームを重ねる
ケーキ / フランス

アーモンド入りのメレンゲの円盤に、ナッツの香ばしいクリームを挟む。シュクセは、軽い泡の生地と豊かな油脂の口どけを一台に重ねるフランスのケーキです。粉砂糖と側面のアーモンドに飾られた姿の内側は、二枚か三枚か、ヌガティーヌの粒を含むか、カスタードを合わせるかで変わります。「成功」を意味する名は、完成したケーキだけでなく、別の作品を支える焼き生地にも使われます。
泡にナッツの粉を抱かせる
生地は、卵白と砂糖の泡へアーモンド粉などを合わせ、丸い形に絞って焼きます。二枚の底を同じ大きさに揃え、間にクリームを挟んで厚みを整えます。小麦粉主体のスポンジを切り分けるのではなく、初めから薄い円盤として作るため、焼いた面と内部のきめを生かせます。
メレンゲの乾いた軽さに、粉末のナッツが香りと厚みを加えます。クリームに接する面は水分と脂肪になじむので、焼きたての円盤を単体で食べるときの歯切れが、そのまま最後まで残るわけではありません。組み立てた後の柔らかさまで含めて、生地の焼き方とクリームの量を考える菓子です。
フェスタルの由来説とノルマンディーの記憶
フランス語の succès は「成功」。二十世紀初め、南西フランスのヴァランス=ダジャンで働いたエヴァリスト・フェスタルの創作とし、後にルノートルが広めたとする由来が、製菓業界に伝わっています。フェスタル本人のルセット(材料の配合と作り方)や広告で成立年が確定しているわけではありません。一九一一年、日曜のミサの後に買われたという話もありますが、この年を確実な初売りとする裏付けは定まっていません。
ルノートルが自店の名物へ磨いたのは、故郷ノルマンディーのポン・トードメールで親しんだメレンゲとバタークリームの菓子です。地域の記憶をもとに軽い生地とクリームを組み直し、メゾン・ルノートルの代表作に育てました。フェスタル説が指す創作と、ルノートルが自店の味として普及させた仕事は分けて考えられます。
砕いたヌガティーヌをクリームへ
同店の作る型は、アーモンドのメレンゲと、ヌガティーヌの砕いた粒を含むクリームを組み合わせます。ナッツを砂糖と加熱した香ばしさがクリームに入り、粒はなめらかな脂肪の中に小さな歯応えを作ります。上面の粉砂糖と周囲のアーモンドも、芯の味を繰り返す仕上げです。
ギー・クレンザーが受け継いだのは、1957年ごろから親しまれてきたルノートルの味です。長年通う人の記憶にあるナッツとクリームの均衡を守りながら、原料の調達や作業の精度を上げます。同じ名の一台へ、いつもの味を期待して訪れる人と、初めて食べる人を迎える仕事です。
ガストン自身は、1980年代にラズベリーを加えた季節の型も作りました。ナッツとバターの丸みに果実の鮮やかな酸味を足す変奏です。
三枚の底とムースリーヌという選択
菓子職人フィリップの公開ルセットは、バタークリームへカスタードを合わせたムースリーヌを使い、アーモンドとヘーゼルナッツのプラリネで風味を付けます。三枚の生地に二層のクリームを挟み、外側へローストしたアーモンドの薄片を付けます。二枚の生地とヌガティーヌのクリームというルノートルの型とは、クリームの中身も層数も異なります。
ナッツ入りメレンゲを使うダックワーズや、ベアルンのリュスにも近い構成が見られます。各地のナッツ生地とクリームの組合せを比べると、シュクセの二枚と三枚、粒を残すクリームと滑らかなムースリーヌも、それぞれ違う切り口を持つことがわかります。
別のケーキを支える「シュクセ」の生地
製菓では、シュクセという語が一台のケーキだけでなく、その土台になるアーモンド入りの焼き生地を指すことがあります。レミー・コアントローの業務用ルセット「リボーピエール」は、卵白の泡にアーモンド粉と少量の小麦粉などを合わせたシュクセの底を使い、リキュール風味のバヴァロワとジェノワーズを重ねています。
アーモンドの底が、ここではナッツのクリームを挟む一台から離れ、リキュールを含む柔らかな層を支えています。完成したケーキの名と、組立てに使う生地の名という二つの用法が、同じシュクセにあるのです。
冷蔵庫から出した後の口どけ
ルノートルは現在の商品について、冷蔵庫から出して室温で二時間ほど置く食べ方を案内しています。これは同店の製品に向けた案内ですが、保冷する温度と、クリームの口どけを楽しむ温度を分けていることが分かります。見た目の軽さだけでなく、供する時の油脂の柔らかさも、印象を左右します。
用語解説
- ガストン・ルノートル
- フランスの菓子職人。メゾンと製菓学校を築き、シュクセを代表作の一つにした。
- プラリネ
- ナッツと砂糖を加熱して砕くなどして作る製菓素材。
- ヌガティーヌ
- 砂糖のキャラメルとナッツを合わせた硬い菓子。砕いてクリームにも加える。
- ギー・クレンザー
- ルノートルで創作を担い、ガストンの仕事を継承する料理人・菓子職人。
- バヴァロワ
- 卵や乳などの液にゼラチンと泡立てたクリームを合わせ、冷やし固める菓子。
- ジェノワーズ
- 卵の泡を使い、一般に溶かしバターを加えて焼くスポンジ生地。
- ムースリーヌ
- 製菓では一般にカスタードとバターを合わせたクリーム。このルセットは別に作ったバタークリームとカスタードを合わせる。
- フィリップ
- Meilleur du Chefで製菓の手順を公開する菓子職人。
- ベアルン
- フランス南西部の地方。
- ダックワーズ
- ナッツ粉を加えたメレンゲ系生地や、それを用いる菓子の呼称。
- リュス
- ベアルン地方で知られる、ナッツの生地とクリームを合わせるケーキ。
- エヴァリスト・フェスタル
- 20世紀初頭のシュクセ創作を帰す業界の由来説に登場する菓子職人。成立年の直接記録とは区別する。
- ヴァランス=ダジャン
- フランス南西部の町。フェスタルの活動地として由来説に登場する。
- ポン・トードメール
- ノルマンディーの町。ルノートルが親しんだメレンゲとクリームの菓子の土地。







