Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

リッチャレッリ
Ricciarelli
白いひびの下に残る、シエナの柔らかなアーモンド
焼き菓子 / イタリア・シエナ

白い粉糖にひびが入り、その内側にはアーモンドの柔らかな生地が残ります。トスカーナのリッチャレッリは、木の実を粉の生地に添えるのでなく、アーモンドそのものを中心にする菓子です。シエナの代表的な型は角の丸い菱形。淡い金色の縁の内側には、ベージュ色の柔らかな芯が残ります。焼く前の白さと、焼いて生じる裂け目が一緒に表面を作ります。
生地の中心になるアーモンド
皮を除いて細かく挽いたアーモンドへ、砂糖と卵白を合わせます。糖を含む木の実の生地を卵白でまとめ、しっとりした芯を残して焼く組合せです。
地理的表示保護に登録された「リッチャレッリ・ディ・シエナ」は、生地の三分の一以上を甘いアーモンドが占め、砂糖、卵白、表面の粉糖の割合にも範囲が定められています。膨張剤も使います。小麦粉やじゃがいものでんぷんを生地に加えず、柔らかく、ぼろぼろ崩れない状態へ焼き上げます。
香りには選択の幅があります。甘いアーモンドの一部を苦いアーモンドへ置き換えたり、バニラ、柑橘の精油、細かく刻んだオレンジの砂糖漬けを加えたりします。糖の一部をシロップや転化糖へ置き換える型、蜂蜜を加える型もあります。底に薄いでんぷんのウエハースを敷くことも認められています。
粉糖をまとって焼き、柔らかさを包んで守る
生地は手や機械で分け、楕円に近い菱形へ整えます。粉糖をたっぷりかけてから焼くので、白い表面と、そこを裂くひびが一緒にできます。
保護仕様の一個は10〜30グラム、厚さ13〜20ミリ。150〜200度の炉で12〜20分焼き、中心の柔らかさを保ちます。冷ましてから密閉包装するまでをシエナ県内で行います。水分を失いやすい菓子にとって、焼いた後の包装も食感を守る工程です。
家庭では、生地を一晩冷蔵してから成形する方法もあります。卵白、粉糖、アーモンド粉と香りを混ぜて休ませ、翌日に棒状へまとめて切り、手で楕円に整えます。焼きたてはまだ柔らかく、冷めると持ち上げられる状態に落ち着きます。少し硬くなるまで炉へ戻して焼き続けると、この菓子の持ち味から離れてしまいます。
マルツァパンの町、反った履物の伝承
シエナには、アーモンドと糖のマルツァパンの文化があり、高価な材料の甘味が贈答や華やかな食事に使われ、修道院や薬種商も作りました。古い名には「マルツァパネッティ・アッラ・セネーゼ」「モルツェレッティ」があります。「リッチャレッリ」は十九世紀、一八一四年の詩にも残る名です。
トスカーナ州の産品案内に伝わる騎士リッチャルデット・デッラ・ゲラルデスカは、十字軍の帰途、東方で見たスルタンの先の反った履物を思い出し、菓子の形にしたといいます。旅と反りの見立てを語る伝説で、当時の発明記録があるわけではありません。
別にトレッカーニは、古い形へ由来する可能性を挙げ、巻いた髪の房やカールを意味する riccio の派生とします。騎士の名の物語と、巻いた形からの語源説は、同じ一つの由来には定まっていません。
アルトゥージのウエハースと、周辺の町
ペッレグリーノ・アルトゥージのルセット(材料の配合と作り方)は、甘いアーモンドと苦いアーモンドを糖と細かくつき、泡立てた卵白とオレンジ皮を合わせます。成形台にはごく少量の小麦粉を使い、ふすまを敷いた天板にウエハースを並べ、その上で柔らかく焼いて、はみ出した分を後で切ります。現在の保護仕様とは違う粉の使い方も残るルセットです。
二〇一〇年登録の「リッチャレッリ・ディ・シエナ」は製造・包装をシエナ県内で行います。一方、ピサ県ポマランチェ、グロッセート県マッサ・マリッティマにもシエナから広がった伝統があります。各町の生地やウエハースの形まで同一に定められているわけではなく、チョコレートをかける「リッチャレッリ・ロッツィ」もあります。青い紙に二頭のエトルリアの馬を描く包装も、土地の姿の一つです。
シエナではクリスマス、ポマランチェではさまざまな祝祭に並び、食後にコーヒーや茶、ヴィン・サント、モスカデッロ・ディ・モンタルチーノを合わせます。
用語解説
- 地理的表示保護(IGP)
- 産地との結び付きや製法などを定め、名称を守るEUの制度。
- 転化糖
- ショ糖を分解してできるブドウ糖と果糖を含む糖。製菓の甘味や保湿に使う。
- マルツァパン
- アーモンドと砂糖を主体にする菓子やペースト。マジパン。
- 薬種商
- 薬や香辛料を扱った店。歴史的に菓子作りとも関係した。
- ペッレグリーノ・アルトゥージ
- イタリアの家庭料理を集めた料理書の著者。1820〜1911年。
- リッチャルデット・デッラ・ゲラルデスカ
- 十字軍から戻って菓子の反った形を着想したと、トスカーナの伝承に登場する騎士。史実の発明者と確定しない。
- エトルリア
- 古代イタリア中部に栄えた文化圏。
- ヴィン・サント
- トスカーナなどで造るワイン。甘口の型が菓子に添えられる。
- モスカデッロ・ディ・モンタルチーノ
- モンタルチーノで造る、マスカット系ブドウの香りを持つワイン。







