Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

タルタ・サンマルコス
Tarta San Marcos
ふわりとした乳の層を、焦がした卵黄の蓋で包む
ケーキ / スペイン

焦がした卵のクリームの下に、白い生クリームとシロップを含むスポンジが重なります。タルタ・サン・マルコスは、褐色の上面と白い縁飾りを持つスペインのケーキ。側面をアーモンドで覆う姿もあり、柔らかな層へ焦がし砂糖とナッツの歯応えを添えます。名はレオンのサン・マルコスに結び付けられていますが、古い建物の歴史と、この断面が生まれた時期は同じではありません。
巡礼者の宿に結び付く名
レオンのサン・マルコスは、サンティアゴ巡礼路にある病院・宿泊所に始まります。施設の沿革では、王女サンチャの命により一一五二年、ベルネスガ川のほとりに教会、修道院、巡礼者の病院が築かれ、十六世紀に建て替えられました。現在はパラドールとして使われています。
ケーキの由来には二つの話があります。一つは、施設の成立を支えた王女サンチャへ修道者が捧げたというもの。もう一つは、道を行く巡礼者をもてなすために作られたというものです。作り手を修道女とする地元の語りもあり、誰のために、誰が焼いたかという細部は一致していません。
いずれも建物に結び付く伝承で、現在のケーキの十二世紀のルセット(材料の配合と作り方)は知られていません。同じ名のケーキが新聞に現れる一九七六年までは、長い隔たりがあります。中世の巡礼者の宿に託された物語と、現在の乳クリームを重ねる菓子は、一つの成立年で結べるものではありません。
黄色い三枚と、二段の白
スポンジは卵、砂糖、小麦粉が主体です。卵と砂糖を泡立ててから粉を合わせ、空気を潰しすぎないように焼き上げます。冷ました生地を同じ厚さの円盤三枚へ切る構成は、製菓学校や料理番組の複数のルセットに共通します。
重ねる前に、水と砂糖を煮たシロップを刷毛などで含ませます。香りにはオレンジの酒やラム酒を使う型もあります。湿らせた焼き生地は乳のクリームとなじみ、切り分けた一片を一緒に口へ運べる柔らかさになります。
中身の基本は、砂糖を加えて泡立てた生クリーム。およそ一センチ厚の白い層を二段に重ね、黄色い生地と交互に並べる型があります。一段をトルファと呼ぶカカオ入りクリームに替え、下段をカカオ、上段を白いクリームにする型もあります。中身の組合せとカカオの量によって、断面の白と茶の比率も変わります。
バニラの香りを加えるにも、泡立てながら混ぜるだけではありません。料理人エバ・アルギニャーノの型では、さやとともに生クリームを弱火で温め、冷ましてから砂糖を加えて泡立てます。香りを移すための熱と、空気を含ませるための冷たさを、別の工程で使い分けています。
卵の面だけへ熱を当てる
上面を覆うイェマは、卵と砂糖を主体に炊くクリームです。卵黄、水、コーンスターチを使う型のほか、全卵とバターを合わせる型もあります。イェマという名から、必ず卵黄だけの配合とは限りません。
冷たいケーキへイェマをのばして砂糖を振り、焼きごてやバーナーで表面を短く焦がします。この仕上げがイェマ・トスターダです。生クリームの層を長く焼き直さず、上面にだけ熱を当てることで、柔らかな内部と焦がした糖の面を両立させます。
レイオアの型では、焦がした面へつや出しのゼリーを塗り、縁に白いクリームを絞り、いちごのクーリを皿へ添えます。側面のアーモンドは、焼いたものか、糖衣をまとわせたものかでも仕上がりが変わります。
似た断面と、土地ごとの仕立て
カタルーニャのマッシーニも、スポンジ、白い生クリーム、チョコレートのクリーム、焦がした卵の面を重ねるケーキです。共通する技法はありますが、似た断面だけから、どちらが先に生まれ、他方へ伝わったかは決められません。
サン・マルコス自体もレオンの外で作られています。カナリア諸島テネリフェの菓子店ロペス・エチェトでは、トルファを加えて凍らせる型に仕立てます。白い乳、カカオ、焦がした卵という組合せを保ちながら、冷やし方や中身を変えられることも、このケーキの広がりを支えています。
用語解説
- エバ・アルギニャーノ
- スペインの料理人・菓子の専門家。テレビや料理書でも製菓を伝えています。
- トルファ
- この菓子では、カカオやチョコレートを使った乳のクリーム。丸いチョコレート菓子にも同じ名が使われます。
- イェマ・トスターダ
- イェマは卵を主体にしたクリーム、トスターダは表面を焦がした仕上げ。ルセットによって卵黄だけ、または全卵を使います。
- クーリ
- 果実などを使うソース。ここではいちごのものを添えます。
- サンチャ・ライムンデス
- 十二世紀のレオン王女。巡礼者のためのサン・マルコスの施設建設に関わったとされる。
- マッシーニ
- スポンジ、二種の乳クリーム、焦がした卵黄面を持つカタルーニャの近縁ケーキ。
- ロペス・エチェト
- テネリフェに工房と店舗を持つ菓子店。トルファを加えて凍らせるサン・マルコスも作る。
- ミリアム・ガルシア
- 料理史と製法を調べ、サン・マルコスの由来と新聞の記録を紹介した料理著述家。
調査注記
1976年の新聞記録はミリアム・ガルシアによるBNEデジタル史料検索の紹介。今回こちらで新聞の原紙を実見したものではなく、最初の発明年や最古確定とはしない。十二世紀の建物史・王女への献呈譚と、近代のルセットの証拠は区別した。







