Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ボーロ・デ・メル
Bolo de mel da Madeira
島のサトウキビ蜜に、ナッツと香辛料を練り込む
ケーキ / ポルトガル・マデイラ島

暗い褐色の低い円盤にクルミやアーモンドが並び、割った内側にはシトロンと木の実の粒が現れます。ポルトガル領マデイラ島のボーロ・デ・メル・ダ・マデイラは、サトウキビの濃い蜜を焼き込む祝いの菓子です。欲しい分を手で割る食べ方にも、密な生地を小さな欠片で味わう性格が表れています。
蜂蜜ではなく、サトウキビの搾り汁の蜜
菓子の核となるメル・デ・カナは、サトウキビの搾り汁を煮詰めた蜜です。蜂蜜を意味するメルという語を含みますが、ここではサトウキビ由来のものを指します。砂糖を結晶として取り出した後に残る廃糖蜜とも製法が異なります。蜜そのものが生地を甘くし、褐色の色と濃い香りを与えます。
小麦粉、砂糖、油脂に蜜を合わせ、シトロンの砂糖漬け、くるみ、アーモンドを練り込みます。クローブ、シナモン、ナツメグのほか、アニスやショウガなどを組み合わせるルセット(材料の配合と作り方)もあり、香辛料の構成には家庭ごとの違いがあります。マデイラ酒や柑橘の皮を加えるものでは、蜜の香りに果実と酒の香りが重なります。
ナッツには、刻んで生地へ混ぜるものと、上面に置くものがあります。内部の粒は一口ごとの歯ごたえを作り、半割りのくるみやアーモンドは低い円盤に模様を付けます。シトロンの明るい果皮も、暗い断面の中に現れます。
こねて待ち、低い一台に焼く
バターやラードを使う発酵生地の系統があり、こねてから長く待ちます。ルセットによっては発酵に三日ほどをかけます。一方、重曹を材料に含むものも伝わり、一つの膨らませ方だけに固定されていません。手で練り、蜜と油脂、果実をなじませる作業は、島の製造者にも受け継がれています。
背を高く膨らませるよりも、低い丸型の中に材料を密に収めます。十分に冷ましてから紙で包み、乾いた場所の密閉容器などへ収めます。果実やナッツを抱く細かなきめと、濃い蜜の味を小さな欠片で楽しむ菓子です。
製糖と交易の島に育った菓子
マデイラでは十五世紀にサトウキビ栽培が始まり、後半にはヨーロッパ各地へ砂糖を輸出しました。菓子もこの製糖の時代と結びつくものとして伝わり、十五〜十六世紀の素朴な型から香辛料や飾りを増やしたと説明されています。ただし現在と同じ配合が中世から続いたかは不明です。
十九世紀初めの宗教的な祝いの献立には、ボーロ・デ・メル・デ・カナという名が残っています。クリスマスに贈る習慣が広がり、蜜と輸入香辛料、保存できる果実とナッツを合わせる家庭のルセットが受け継がれました。
サトウキビの蜜を使う名高い型のほか、マデイラには黒砂糖で甘くする「ボーロ・マスカヴァード」も伝わります。一九八九年の民俗書はこれを「貧しい人の菓子」と呼びます。ナッツや果実を増減し、蜜を黒砂糖へ代えると、同じ低い円盤でも香りと粒の多さが変わります。島の年末の菓子は、ただ一つの豊かな配合だけで続いてきたのではありません。
島の蜜を使う名の認証
マデイラ自治州は二〇〇六年の地域立法で、「Bolo de Mel de Cana da Madeira」の認証用団体商標と真正性のシールを設けました。島のサトウキビ蜜を主材料とし、伝統的なルセットを踏まえて作る菓子が対象です。家庭による配合差を認めながら、島の蜜を用いるという材料の芯を守る仕組みです。
十二月八日に仕込み、手で分ける
伝統的な仕込みの日は、無原罪の御宿りの祝日である十二月八日です。クリスマスに向けて前もって焼き、冷まして包み、祝いの日の食卓に備えます。日持ちする性質から、年末だけでなく年間を通して食べられます。
ナイフで均等な扇形に切るよりも、欲しい分を手で割るのが伝統の食べ方です。マデイラ酒やリキュールを添えることもあります。近縁のブロアス・デ・メルは、同じサトウキビ蜜と香辛料を使う小さな焼き菓子で、低い一台を分けるボーロとは大きさと形が違います。
用語解説
- メル・デ・カナ
- サトウキビの搾り汁を煮詰めた濃い蜜。砂糖の結晶を分離した残りの廃糖蜜とは区別する。
- シトロン
- 厚い果皮をもつ柑橘。果皮を砂糖漬けにして菓子へ使う。
- ラード
- 豚の脂から精製する油脂。発酵生地のルセットでバターとともに使うことがある。
- マデイラ酒
- マデイラ島で造られる酒精強化ワイン。生地の香り付けや、菓子に添える飲み物になる。
- 無原罪の御宿りの祝日
- カトリックの十二月八日の祝日。マデイラではクリスマスの仕込みと結びつく。
- ボーロ・マスカヴァード
- マデイラの民俗書に報告される、黒砂糖を使う「貧しい人のボーロ・デ・メル」。







