Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ルーネベリタルト
Runebergintorttu
赤いジャムと白い輪を頂く、詩人の名の小さな円筒
焼き菓子 / フィンランド

赤いラズベリージャムを白い糖衣の輪が囲むと、背の高い小さなケーキが、フィンランドの詩人を記念する菓子になります。ルーネベリントルットゥは、アーモンドや菓子のくずを混ぜた焼き菓子。二月五日、ヨハン・ルドヴィグ・ルーネベリの誕生日を知らせる姿ですが、その歩みにはパン屋の商品、家庭の料理書、クリスマス広告、全国の記念日という異なる場面が重なっています。
町のパン屋と、フレドリカの料理書
1840年代のポルヴォーには、宿屋とパン屋を営むラルス・ヘンリク・アステニウスの、背の高い円筒形の菓子がありました。サンクトペテルブルクにルセット(材料の配合と作り方)の源を求める説もありますが、配合や伝来の経路は定かではありません。この菓子を好んだ詩人ヨハン・ルドヴィグ・ルーネベリの名が結び付き、妻で作家のフレドリカも、手書きの料理書に「ルーネベリの菓子」を残しました。バター、小麦粉、砂糖、アーモンド、卵を使う家の配合と、店の菓子が同じだったかどうかは分かりません。
妻が残り物から一夜で発明したという物語の背後には、先にあった町の店の菓子と、家に残る配合という二つの歴史があります。
クリスマス広告から二月の記念日へ
ヘルシンキのパン職人フレドリク・エドヴァルド・エクベリは、1857年12月23日の新聞広告で、ルーネベリの名の菓子をサフランパンやジンジャーブレッドと並べました。クリスマスの商品だった時期が先にあり、詩人の誕生日、二月五日の菓子になるまでには時間がかかったのです。一八六五年、エクベリが広い店舗へ移ると、品揃えもさらに増えていきました。
十九世紀後半には各地の店でも販売され、初めは富裕層の菓子でした。二月五日との結び付きが目立つのは1910年代以降、広く知られるのは1950~60年代です。いまは一月半ばから店頭に現れ、詩人の誕生日を告げる季節の菓子になりました。ポルヴォーの学校では記念日に供し、同市のカフェでは一年を通じて扱う店もあります。砂糖やアーモンドが高価だった家の菓子から全国の記念日へ至るには、都市のパン屋、広告、祝日習慣が介在しました。
菓子のくずとナッツを抱く円筒
生地は柔らかいバターと砂糖を混ぜ、卵、アーモンドの粉、細かくしたビスケットや小麦粉を加えて作ります。刻んだアーモンドとオーツのクッキーくずを使う型には、乳のクリームも加わります。粉だけでまとめたケーキより、ナッツの脂肪と元の菓子の香りが全体に入ります。
シリンダー形の型へ詰めて焼くと、上から下まで同じような丸い断面ができます。小さなカップ型でも作れますが、高い円筒は上面の小さなジャムを目立たせます。底へタルト生地を敷くのではなく、一つの混ぜ生地で背のある形を作る菓子です。
酒を含ませる菓子、酒を添える家庭
生地が冷めたら、上へラズベリージャムを置き、その周りに粉砂糖の糖衣を絞ります。白い輪は全体を覆う厚い被膜ではなく、赤い中心を囲む細い線です。濃い果実を一か所に集めるので、一口ごとに生地とジャムの量を選べます。
現代の型には酒のシロップを含ませるものもあります。一方、ルーネベリ家に残るフレドリカの配合は、菓子そのものへ酒を加えていません。小さなプンシュを脇に飲む習慣でした。生地を湿らせる現代の方法と、別に酒を添えた家庭の記録が、同じ名前の周囲に残っています。
乳や卵、小麦を替えても残る赤と白
小麦を使わない仕立てでは、指定する配合粉を使い、マフィン型でも焼けるようにしています。こちらは溶かしたバターで生地をまとめ、焼成後に糖液と酒を含ませ、数時間から一晩置きます。基本のバターを泡立てる型と、混ぜ方も待ち時間も同一ではありません。
乳と卵を使わない仕立てでは、亜麻仁を熱湯でふやかし、オリーブ油とオーツ飲料を使います。卵と乳のバターを置き換えながら、アーモンド、菓子のくず、カルダモン、ラズベリーと白い輪を残す再構成です。焼いた後の姿を共通の目印にして、材料や型は家庭の条件へ合わせられます。
用語解説
- ヨハン・ルドヴィグ・ルーネベリ
- 十九世紀フィンランドの国民詩人。二月五日の誕生日にこの菓子で記念される。
- フレドリカ・ルーネベリ
- 作家で、詩人ルーネベリの妻。家の料理書に菓子の配合を残した。
- プンシュ
- 北欧で親しまれる甘い酒の一種。
- ラルス・ヘンリク・アステニウス
- ポルヴォーのパン屋を営み、ルーネベリが好んだ菓子を売った職人。
- フレドリク・エドヴァルド・エクベリ
- 十九世紀にヘルシンキでパン屋を営み、1857年の広告にルーネベリの名の菓子を載せた職人。
- ヴァリオ
- フィンランドの乳業会社。家庭向けの公開ルセットも提供する。
- 亜麻仁
- アマの種。砕いて水分を含ませ、植物性の生地などに用いる。
- カルダモン
- 種子の爽やかな香りを製菓にも使う香辛料。







