Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

バノフィー・パイ
Banoffee pie
バナナと乳のトフィーを、軽いクリームで包む
パイ / 英国

切り分けた一切れに、乳のトフィー、生のバナナ、泡立てたクリームが残ります。英国のバノフィー・パイは、柔らかな具を土台で支えるデザートです。banana と toffee をつないだ名の通り、果実と乳の甘味が中心にあります。その組み合わせは、一九七〇年代初めのサセックスで、固さが安定しない先行菓子を作り直す試みから生まれました。
焼く殻と、粒を固める土台
原型の土台はショートクラストです。粉と砂糖にバターを細かくすり込み、卵でまとめ、冷やしてから型に敷きます。紙と重石を入れて空焼きし、重石を外した後も焼いて、底まで金色に整えます。生地を十分冷ましてから具を重ねるため、バナナとクリームには火が入りません。
一方、ビスケットの土台は細かく砕いた粒を溶かしバターでつなぎ、型の底と側面に押し付けて冷やします。焼き生地のほろりとほどける歯ざわりとは違い、粒の集まりが柔らかな具を受け止めます。
流れず、硬く割れないトフィー
トフィーは硬く割れる飴ではなく、加糖練乳を加熱した濃厚なペーストです。土台に広げ、生のバナナを並べ、その上をクリームで覆います。切ったときに流れ出さず、果実とともに一切れに残る柔らかさが求められます。
練乳だけを長時間加熱する原型に加え、バターと褐色の砂糖を鍋で合わせ、練乳を加えて短く煮詰める方法もあります。後者では砂糖を溶かしてから練乳を入れ、とろみがついたところで火を止め、冷やして層を落ち着かせます。
原型のクリームにはインスタントコーヒーと砂糖が入り、表面にも挽いたコーヒーを少量振ります。バナナと乳の濃い甘さに、苦みと香りを重ねる仕上げです。チョコレートやココアで飾る型もあり、乳、果実、空気を含んだクリームという組み合わせを保ちながら上面の香味が変わります。
リンゴとオレンジを試した後のバナナ
料理人イアン・ダウディングが以前の勤め先で知ったのは、料理人ラッセルが米国から持ち帰った「ブルームス・コーヒー・トフィー・パイ」でした。本人の二〇〇六年の回想では、砂糖・バター・クリームを煮るトフィーが、あるときは固まらず、あるときは硬すぎました。妹から缶入り加糖練乳を湯で長時間加熱する方法を聞き、サセックスのハングリー・モンクで作り直します。練乳への変更は、この試作で加わった工夫です。
店主ナイジェル・マッケンジーは、それでも何か足りないと果実を促しました。リンゴは悪くなかったものの、マンダリンオレンジは合わず、バナナを重ねて落ち着きます。名も店主が語をつないで Banoffi としました。本人側の回想は創作を一九七一年としますが、後年には一九七二年とする記述もあり、年には揺れが残っています。
客は予約時にメニューにあるかを尋ねたといいます。豪州や米国の店でも見たとの報告が届いた、とダウディングは語ります。
広まった名と「アメリカのパイ」
店の料理書『The Deeper Secrets of the Hungry Monk』は一九七四年に刊行されています。原型の名と作り方は料理書で店の外へ出て、数年のうちに他店のメニューにも広がりました。広がる過程で、焼いたショートクラストの代わりに砕いたビスケットの土台を使う型も生まれます。
広まるにつれ、英国の小売店が「アメリカのパイ」として売り、店側は抗議しました。一九九四年に『Daily Telegraph』が報じたところでは、マッケンジーは自店より早い同じ菓子を示せる人に一万ポンドを出すと申し出、マークス&スペンサーは表示を謝いました。
用語解説
- ブルームス・コーヒー・トフィー・パイ
- ダウディングが先行菓子として作り直した米国由来のパイ。本人の回想では初期トフィーは砂糖・バター・クリームを煮る方式で、固さが安定しなかった。
- イアン・ダウディング
- ハングリー・モンクの料理人。練乳のトフィーを使い、バノフィー・パイを共同開発した。
- ラッセル
- ダウディングが以前の勤め先で知った、米国のコーヒー・トフィー・パイを持ち帰った料理人。
- ナイジェル・マッケンジー
- ハングリー・モンクの店主。バナナを使う案とBanoffiの名を提案した。
- ショートクラスト
- 油脂を粉へ細かく混ぜて作る、ほろりとしたパイやタルトの生地。
- 空焼き
- 柔らかな具を詰める前に、生地だけを焼く工程。
- 加糖練乳
- 乳に砂糖を加えて濃縮したもの。
- ダブルクリーム
- 英国の乳脂肪分の高いクリーム。原型の上掛けに用いられる。







