Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ウーピー・パイ
Whoopie pie
二つの柔らかな丸で、白いクリームを挟む
ケーキ / 米国

二枚の丸いケーキの平らな底で白い中身を挟むと、両面の膨らみが外を向きます。ウーピー・パイは、ココアの柔らかな生地と甘い詰め物で知られる米国の携帯菓子です。パイの名でも、薄いパイ生地の器は使いません。弁当箱を開けた歓声に名を求める伝説、ペンシルヴェニアのブラック・ムーンやゴブ、メイン州の公式トリートという、異なる土地の語りを持っています。
天板へ落とす生地から、柔らかな二枚へ
生地には、小麦粉、ココア、砂糖、卵、乳、油脂、膨張剤などを使います。油脂と砂糖、卵を混ぜ、粉類と乳を交互に合わせると、天板へ落とせる柔らかな生地になります。バニラで香りをつけ、一定の分量ずつ間隔を空けて置きます。
オーブンの中で広がり、少し盛り上がると、上が丸く、底が平たい小さなケーキになります。硬く乾かしてクッキーにするのではなく、触れると形を保ちながら、噛むと柔らかなきめを残します。焼けた二枚を冷まし、底の平らな面を内側へ向けて組み合わせます。
ホイップとは違う白い詰め物
中身には、油脂と砂糖を混ぜたクリームや、マシュマロのスプレッドを合わせる型があります。キングアーサーの製菓担当スー・グレイが公開するルセット(材料の配合と作り方)「カイルのウーピー・パイ」は、ショートニング、粉糖、マシュマロ・スプレッドに塩とバニラを合わせます。生クリームを泡立てたホイップとは異なる、油脂と糖を主にした詰め物です。よく混ぜて軽い状態へ整え、冷ましたケーキで挟みます。
クリームを縁まで厚く押し出しすぎず、二枚を軽く留めます。熱い生地に詰めると油脂が溶けやすいため、冷ましてから挟むことが大切です。褐色と白の境界が一周見え、どこを噛んでも、二枚の生地と中のクリームを一緒に取れます。
弁当箱の歓声と、ラジオから生まれた料理本
名の説明としてよく語られるのは、余ったケーキ生地を焼いてクリームを挟み、弁当箱へ入れたという家庭の物語です。子どもや夫が箱を開け、喜んで「ウーピー!」と声を上げたので名がついた、といいます。アーミッシュの家庭に結び付けて語られる、弁当箱の伝説です。
白い中身に使うマシュマロ・フラフは、製造会社ダーキー・モワーが家庭へ使い方を広めた製品でもあります。同社は一九三〇年にラジオ番組を始め、連続喜劇で学者の「謎の本」として予告した料理の小冊子『Yummy Book』を配りました。市販の甘いスプレッドと家庭の菓子作りを結ぶ広告です。
同じマサチューセッツ州では、ロクスベリーのBerwick Cake社も「Whoopee Pie」を商品にしました。五セントのケーキとして宣伝する広告は、同社の「Devil Dogs」などとともに扱う販売業者を募っています。家族の弁当箱や小さな店だけでなく、会社が作る菓子を他の売り場へ流す商業的な経路もあったのです。
家族の畑のかぼちゃを挟む
ペンシルヴェニア州ランカスター郡のBird-in-Handは、ウーピー・パイをペンシルヴェニア・ダッチの菓子として販売しています。シュマッカー家が営む店では、大判のチョコレートとバニラの詰め物の型のほか、かぼちゃ、ピーナツバター、レッド・ヴェルヴェットなどを作ります。かぼちゃの製品には、自分たちの畑で採れた実を使うと説明しています。
同じ店でシュー・フライ・パイなどの地域菓子と一緒に箱へ詰め、贈り物にする売り方もあります。畑の収穫を生地の味へ替える、農家と店のつながりがここにはあります。
ブラック・ムーンと、水兵の包みのゴブ
地元の食を取材するエミリー・コヴァックは、フィラデルフィアのフライング・モンキーの店主エリザベス・ヘイレンの記憶を紹介しています。彼女の家では「ブラック・ムーン」と呼び、兄妹の誕生日には大きなケーキの代わりに食べたそうです。店の配合もショートニングでなくバターを使い、本人は日持ちが短くなると説明します。地域差は名前だけでなく、家庭で祝う単位や、油脂と保存性の選び方にもあります。
西部ペンシルヴェニアのジョンズタウンには「ゴブ」という地域型があります。二〇〇九年にベス・クラックラウアーが取材したDutch Maid Bakeryの型は、黄色い詰め物と、水兵を描いた透明な包みが特徴でした。ティム・ヨーストは、一九八〇年に地元のHarris & Boyarから配合と名称の権利を買ったと紹介されています。「ゴブ」は炭鉱の石炭の塊に結ぶ説と、水兵を表す俗語に結ぶ説があり、どちらも最初の命名の証言とはされていません。アーミッシュの家庭、東部のブラック・ムーン、西部の商業品では、同じ二枚挟みでも、呼び名と中身、土地の記憶が異なります。
メイン州が選んだ「トリート」
ウーピー・パイの発祥については、メインやペンシルヴェニアなど、複数の州に主張があります。メイン州ルイストンのラバディーズ・ベーカリーは、一九二五年の開業時から作ったと自ら説明しています。ココア、バターミルク、小麦粉、砂糖、バニラという、店の材料の組み合わせが受け継がれています。
二〇一一年、メイン州はウーピー・パイを州の公式のトリートに定めました。州法は、二枚のケーキにクリーミーな詰め物を挟む焼き菓子と定めています。州の公式デザートである野生のブルーベリーのパイとは、指定の区分も異なります。ドーヴァー・フォックスクロフトでは祭りも開かれ、家庭の菓子と商業ベーカリーの一品の両方として親しまれます。日常の一個が、地域を表す小さな象徴にもなっています。
ココアと白いクリームのほか、かぼちゃ、ミントチョコレート、バナナ、いちごなどを使う型もあります。大きな一台を切り分けず、一人分が最初から完成した、携帯しやすいケーキの形です。
割った内側には、パンのように引き延ばせるきめより、ケーキらしい細かな気孔が現れます。白い詰め物の甘さと、ココアのほろ苦い香りを、柔らかな二枚が受け止めます。
用語解説
- バターミルク
- 伝統的にはバター製造後の乳液。菓子には発酵した製品も使われる。
- マシュマロ・スプレッド
- マシュマロ風味の、空気を含む柔らかな塗る菓子材料。
- トリート
- ご褒美や楽しみとして食べる菓子などを指す英語。
- ラバディーズ・ベーカリー
- 米国メイン州ルイストンのパン店。ウーピー・パイの古い製造を伝える。
- メイン州
- 米国北東部、ニューイングランド地方の州。
- ショートニング
- 製菓に使う油脂。植物性のものはクリームや生地に使われる。
- スー・グレイ
- キングアーサーで「Kyle’s Whoopie Pies」のルセットを公開する製菓担当者。
- ペンシルヴェニア・ダッチ
- ペンシルヴェニアのドイツ語系住民とその文化を指す呼び名。
- Bird-in-Hand
- ランカスター郡にある、シュマッカー家のベーカリーなどの事業。
- Berwick Cake社
- マサチューセッツ州ロクスベリーにあったケーキ会社。Whoopee Pieの販売業者を募集する広告を出した。
- エリザベス・ヘイレン
- フィラデルフィアのFlying Monkeyの店主。家庭でのブラック・ムーンの思い出とバターの配合を語った。
- ティム・ヨースト
- ジョンズタウンのDutch Maid Bakeryを営み、ゴブの製造を継いだ人物。
- レッド・ヴェルヴェット
- 赤い生地を特徴とするケーキの型。







