Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

コヨータス
Coyotas
薄い円盤に包むソノラの黒糖
焼き菓子 / メキシコ・ソノラ

薄い小麦の皮を二枚合わせ、サトウキビの濃い糖を中へ閉じ込めます。メキシコ北西部ソノラのコヨータスは、割ると含蜜糖の層が現れる平たい丸形の焼き菓子です。単数形はコヨータ。パンのように膨らむ半月形も別の地域にあり、同じ名の下で、糖の包み方が変わります。
同じ含蜜糖を、練り水と餡へ分ける
皮には小麦粉とラードなどの油脂を使い、酵母を加えるもの、ベーキングパウダーで作るものがあります。土台をパンのように厚く膨らませるより、薄く伸ばし、内側に甘味を収める形です。現在は植物性の固形油脂を用いるルセット(材料の配合と作り方)もあります。
ピロンシージョは、サトウキビの汁を煮詰めて固めた含蜜糖で、ソノラではパノーチャとも呼ばれます。これを水に溶かし、冷ました糖液を皮の練り水にする方法があります。一方、中身には、細かく砕いた糖へ少量の小麦粉を混ぜたものを使います。糖を液体にして生地へ入れる部分と、固い小片を中に挟む部分に分けることで、一つの材料から皮の甘味と濃い餡を作れます。
二枚の円を、縁で確かに閉じる
生地を休ませてから小さく分け、薄い円へ伸ばします。一枚に中身を広げ、もう一枚をかぶせ、縁を指やフォークで押して閉じます。二層の皮をそろえ、縁を確かに閉じることが、糖を内部にとどめる仕事です。
上面に小穴を開けて焼くルセットもあります。焼き色が付いた外側と、内側の甘い部分の距離が近く、薄い皮と糖を一緒に噛めます。皮を厚くするか、餡を多くするかで、香ばしい小麦と含蜜糖の比重は変わります。寸法は一様ではありませんが、直径10〜15センチほどのものが代表的です。
半月形の中に残す空間
ソノラ州のマヨの人々のルセットにも、コヨータがあります。こちらはパンと同じように酵母入りの生地を休ませ、細長く伸ばしてから、パノーチャ、小麦粉、シナモンの中身を載せ、エンパナーダのように折って包みます。上面には穴を開けず、少し膨らませて焼き、砂糖とシナモンを表面にも添えます。丸い二枚皮の型とは、甘い層の包み方も、膨らみを扱う考え方も異なります。
バハ・カリフォルニア・スル州のトドス・サントスにも、半月形の大きなコヨータがあります。こちらも中身はピロンシージョですが、膨らんだ皮と歯切れのよさが特徴です。コアウイラでも、同名の含蜜糖入りエンパナーダが作られます。
薄く平たい円盤と、空間を残して膨らむ半月。小麦の皮に糖を包む同じ発想が、地域ごとの形と口当たりへ分かれています。
含蜜糖の餡から、冷たいデザートへ
食後の甘い一枚として親しまれるコヨータは、中身を変えると味わいも変わります。伝統的なピロンシージョのほか、乳を煮詰めたカヘタ、乳と砂糖の菓子ハモンシージョ、クルミ、グアバを包むものがあります。含蜜糖の濃い風味を中心に据えた一枚から、乳のコクや果実の香りを楽しむ一枚へ。二枚の薄い皮はそのままに、中の甘味を選べます。
さらに、アイスクリームを上に載せたり、中へ挟んだりする「コヨータス・デ・ニエベ」も作られます。焼いた皮と常温の糖を噛む菓子が、冷たい中身を添えてすくうデザートにもなるのです。
娘たちが配った菓子という地元の物語
ソノラ州観光局の由来話では、一九五〇年代、エルモシージョのビジャ・デ・セリスで、パンや菓子を作るマリア・オチョア・ゴンサレスに友人アグスティナ・アライサがルセットを勧めました。マリアが土地の材料に合わせて焼き、母親たちが娘へ持たせて親戚や近所に配ると、少女たちは愛称で「コヨティータス」と呼ばれたといいます。
同局は coyota を、先住民女性とスペイン人男性の娘を指した歴史的な分類語と説明しています。植民地期の語が少女の愛称を経て菓子名へ移った、という地域の語りです。家族製造は商売となり、子孫は米国アリゾナへの輸入許可も得たと伝えられます。ただし命名した時期の同時代記録は未確認です。
この家族の話は、ソノラの丸い二枚皮を広めた来歴として残ります。マヨやバハ・カリフォルニア・スルの半月形まで、一人が発明したという系譜は確定していません。
用語解説
- ピロンシージョ/パノーチャ
- サトウキビの汁を煮詰めて固めた含蜜糖。パノーチャはソノラの呼び名の一つです。
- ラード
- 豚の脂を精製した食用油脂。
- カヘタ
- 山羊乳などを砂糖と煮詰めるメキシコの乳菓。
- ハモンシージョ
- 乳と砂糖を主とするメキシコの菓子。コヨータの餡にも使います。
- エンパナーダ
- 生地で中身を包んだ、半月形などの料理・菓子。
- マヨ
- メキシコ北西部の先住民。コヨータには、酵母生地を折って包むマヨの型もある。
- マリア・オチョア・ゴンサレス
- ビジャ・デ・セリスのコヨータスの普及史で知られる製作者。1950年代の家庭と商売の物語で語られます。
- アグスティナ・アライサ
- マリアへ配合を伝えた隣人として、ソノラの観光機関や地域の取材記事に登場する人物。
- コヨータ/コヨティータ
- 当地の由来話で菓子名につながる語。観光局は植民地期の出自分類を意味した語が少女の愛称になったと説明する。







