Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ヘルツォッヒー
Hertzoggies
アプリコットとココナッツを小さな皮に
焼き菓子 / 南アフリカ

ココナッツの白い山が焼けて、粒の先だけきつね色になる。その下にアプリコットジャムを隠したヘルツォッヒーは、南アフリカの小さなタルトです。ジャムとココナッツを合わせる点は共通していても、泡立てるか煮るかで中身は変わります。政治家の名を受け継ぐ菓子には、その人をたたえる話と、批判を込めて呼び直す話も重なっています。
卵を分け、一個に二つの質感を作る
よく知られる型では、卵黄を皮、卵白を上のメレンゲへ使います。小麦粉へ冷たいバターを細かくなじませ、糖、卵黄、少量の水などでまとめた生地を休ませ、延ばして丸く抜きます。マフィン型などへ敷いた小さなカップが、熱で緩むジャムとトッピングを受け止めます。
中へアプリコットジャムを入れ、卵白と糖を泡立てて乾燥ココナッツを合わせたメレンゲを載せます。卵白の泡は軽さ、果肉の細かな繊維はざっくりした感触を担います。皮の香ばしさ、ジャムの甘酸っぱさ、ココナッツの繊維が、一個に違う質感を置く仕組みです。表面が色づいても、その内側には柔らかな果実の層が残ります。
ジャムを隠さず、隣へ置く型
ケープ・マレー料理を伝えたファティマ・サイドウのルセット(材料の配合と作り方)は、泡の山とは異なります。ココナッツを水、糖、シナモン、カルダモンと煮て皮に詰め、途中でその隣へジャムを加え、再び焼きます。ココナッツをメレンゲに混ぜるのでなく、煮詰めた果肉として入れるため、密度と香辛料の香りが前へ出ます。ジャムを上の山の下へ隠すか、横に見せるかも違います。
現代の家庭や料理書ではお茶に添える菓子として受け継がれ、料理教育にも配合と成形が載ります。小さな同じ名の菓子に、家庭ごとに異なるココナッツの扱いが残っています。
首相の好物という伝承
菓子名は、1924〜1939年に南アフリカ連邦首相を務めたJ・B・M・ヘルツォフに結びつきます。料理家サルワー・スミスは家庭のルセットとともに、彼にちなむ名で、本人の好物だったらしいと伝えています。本人の好物だったかは確定しておらず、作り手が受け継いだ由来の一つです。
同じ政治家の名にも、別の記憶があります。食文化研究者ガベバ・バドルーンが料理家キャス・エイブラハムズへの聞き取りで記録したのは、期待が裏切られたという物語です。女性参政権と、ケープ・マレーの人々を白人と平等に扱うというヘルツォフの約束へ期待して菓子に名を付けたものの、実現した参政権は白人女性のもので、人種の平等は果たされなかった。そこで菓子へ茶色とピンクの砂糖衣を掛け、トゥエー・ヘフリーチー、すなわち「二つの顔」「偽善者」を示す名で呼び直した、と語られています。
バドルーンの研究には、今も茶の席、結婚式、イスラムの祝祭イードで供されることが記されています。政治家を祝う名と、失望を表す二色の仕上げが、家庭の菓子の周囲に残りました。
ヤン・スマッツの名を持つタルトは何が違うか
別の政治家にちなむヤン・スマッツ・クッキーにも、小さな皮とジャムがあります。料理家アンシア・ジェイコブズが2024年に公開した家の型は、薄く延ばしたパイ生地のくぼみへジャムを置き、バター、糖、卵、小麦粉、乳を混ぜたケーキ生地で覆います。ココナッツの繊維や卵白の山ではなく、小さなケーキが上蓋です。通常のアプリコットは、彼女の手元にあったブラックカラントへ替えています。
彼女が伝えるのは、日曜のお茶や家族の焼き菓子の記憶です。共有する名づけ方やジャムの内側にも、ココナッツを残すか、粉のケーキで覆うかという具体的な違いがあります。
用語解説
- メレンゲ
- 卵白を泡立て、砂糖を加えたもの。
- ケープ・マレー
- 南アフリカのケープ地方に根づく文化・料理の一系統。
- カルダモン
- ショウガ科植物の種子などを使う香辛料。
- ファティマ・サイドウ
- 南アフリカの料理家。ケープ・マレーの家庭料理を伝えた。
- J・B・M・ヘルツォフ
- 二十世紀前半の南アフリカの政治家。菓子の呼び名と政治的な伝承に登場する。
- ガベバ・バドルーン
- 南アフリカの食と文化を聞き取りから研究する著述家・研究者。
- キャス・エイブラハムズ
- ケープ・マレー料理を伝える料理家。バドルーンの研究で地域の食文化を語った。
- イード
- イスラムの祝祭を指す語。
- サルワー・スミス
- ケープ・マレー料理を紹介する料理家。ヘルツォフの好物という家伝を記す。
- アンシア・ジェイコブズ
- ヤン・スマッツの名を持つ家庭の小タルトを伝える料理家。
- ヤン・スマッツ
- 南アフリカの政治家。ジャムをケーキ生地で覆う別の小タルトに名が残る。







