Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ピッツェッレ
Pizzelle
熱い鉄型で押し焼きする、模様のある薄菓子
焼き菓子 / イタリア・アブルッツォなど

焼き面に残る格子や花は、後から描いた模様ではありません。二枚の鉄型が柔らかな生地を挟み、押し広げながら付けた跡です。ピッツェッレは、小麦粉、卵、砂糖、油脂などを鉄型で焼くイタリアの菓子。アブルッツォではフェッラテッレ、ネオレ、ネヴォレとも呼ばれ、モリーゼやラツィオにも近い菓子があります。薄く砕ける一枚から、厚く柔らかい一枚まで、型と生地の組合せで姿が変わります。
婚礼の持参品に刻む、家のしるし
アブルッツォの鉄型には、家紋、持ち主の頭文字、製作年が刻まれてきました。十八世紀末から十九世紀初めに広く見られたこうした道具は、結婚の持参品にもなります。持参品を見に来た人へ菓子を振る舞う習慣があり、モリーゼの一部でも婚礼の菓子として受け継がれました。家のしるしを押す型で、祝いの一枚を何度も焼く手仕事でした。
現在は通年作られ、宗教行事や家族の祝いにも登場します。アメリカのイタリア系の家庭では、クリスマスのクッキーとしても親しまれています。ラツィオ州でも伝統食品に数えられ、呼び名と製法はアブルッツォの境を越えて続いています。
火の上で返す型、電気で焼く型
生地を熱した型の中央へ少量置いて閉じると、上下から押されて広がり、凹凸に沿って焼けます。型の溝へ生地が入り、格子や菱形、花などの凹凸が焼き面へ残ります。
伝統的な鉄型は長い柄を持ち、炉やコンロの火に当て、途中で裏返して両面を焼きます。現在は電気式も使われます。型の大きさや溝の深さ、入れる生地の量によって、厚みと歯ざわりが変わります。形も円形だけでなく、四角、扇形、ハートなどがあります。
焼けたら型から外して冷まします。薄く歯切れを付ける型は、網の上へ並べて蒸気を逃がし、冷めてから重ねます。縁へはみ出した生地をはさみで整えたり、粉砂糖を振って仕上げたりする方法もあります。
マルシカ地方チェーゼには、片面を焼くごとに祖母たちがアヴェ・マリアを唱え、焼き時間を測ったという記憶があります。火加減を見ながら返す仕事へ、よく知る言葉の長さを重ねる方法で、すべての家庭に共通する秒数の決まりではありません。フェッラテッレの名も、この地方の記録では鉄の調理道具へ結び付けられています。
卵と油脂が変える、一枚の柔らかさ
生地のまとめ方も一つではありません。卵、砂糖、塩、バニラを混ぜ、小麦粉とベーキングパウダー、溶かしバターを順に加える配合では、柔らかく厚みのある生地を熱い型へ落とします。バターと卵の風味を持つ、薄いクッキーに近い仕上がりです。
アブルッツォには、卵白を先に泡立て、卵黄、オリーブ油、砂糖、レモンの皮を加えてから粉を合わせる方法もあります。油脂をバターにするかオリーブ油にするか、卵をどう扱うかによっても、生地の香りと柔らかさに幅が生まれます。
モリーゼのフェッラテッレには、粉、卵、砂糖、パッシート、アニスを合わせる型があります。鉄型という共通の道具を使いながら、材料も家庭や土地の流儀を映します。
香りを加え、二枚の間へ実を挟む
よく知られる香りはアニスで、種やエキスを使います。レモンの皮、バニラ、ラム系の香りを加える選択もあります。焼き面の薄さと小さな凹凸が、卵や油脂に重なる芳香を受け止めます。
そのまま一枚で食べるほか、二枚の間へブドウのジャム、クリーム、チョコレート、蜂蜜などを挟む型もあります。柔らかな菓子は巻いて仕上げることもでき、歯切れのよい薄型はジェラートへ添えられます。
オルトーナのネヴォレには、生地へモスト・コットを加える独自の型があります。煮詰めたブドウ果汁の風味を持ち、円錐状に巻いて仕上げます。土地の別名は互いに重なりながらも、それぞれの配合や成形の違いを含んでいます。
チェーゼのコペルキオラは、刻んだクルミやアーモンドを温かい蜂蜜でまとめ、二枚の間へ少量ずつ挟む菓子です。上の一枚を蓋、コペルキオに見立てた名。同じ中身だけを板へ薄くのばして切れば、別のクリスマス菓子コペータになります。鉄型の皮を添えるか、中身を固めるかという違いが、菓子の名と形を分けています。
用語解説
- フェッラテッレ
- 鉄型で挟んで焼く菓子の呼び名。ピッツェッレなどと名称が重なる。
- アニス
- 甘い芳香を持つセリ科植物。種やエキスを菓子の香り付けに使う。
- パッシート
- 干したブドウを用いて造るワイン。
- モスト・コット
- ブドウ果汁を煮詰めたもの。
- ベーキングパウダー
- 生地の中で気体を発生させて膨らませる膨張剤。
- ジェラート
- イタリアの氷菓。ここでは鉄型菓子を添えて食べる対象。







