Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

カルター・フント
Kalter Hund
冷やしたチョコレートに、ビスケットの横縞
ケーキ / ドイツ

濃いチョコレートの中に、淡いビスケットの線が何段も現れる。ドイツのカルター・フントは、焼いてあるビスケットを冷却で一台へ組み直す菓子です。細長い型へ交互に重ねるだけでも、材料となる油脂や、泡を入れるかどうかで、切り口と口どけは変わります。「冷たい犬」という不思議な名には、角型と鉱山の車を結ぶ説明があります。
ビスケットは骨格、チョコレートはつなぎ
紙を敷いた型へバター風味のビスケットを並べ、温めたチョコレートの混合物で覆い、さらに一段重ねます。型幅に合わないビスケットは割って隙間へ入れ、薄く広げた褐色の層が途切れないようにします。すでに焼いたビスケットが骨格となり、液体だった混合物が冷えてその周りを固めます。オーブンで生地そのものを焼き上げる工程はありません。
ドクター・エトカーのルセット(材料の配合と作り方)は、ミルクとダークの二種のチョコレート、ココナッツ油脂、生クリームを合わせます。別の型には、バター、ココア、糖、卵などを使うものもあります。チョコレートの割合と油脂の種類によって、冷えたときの硬さも口で溶ける速さも変わります。ココナッツ油脂は室温で固まり、口の中で溶ける際には熱を受け取るため、舌に冷たい印象も残します。
数時間は型の中で冷やし、切っても層が崩れない状態へ整えます。今は冷蔵庫がその仕事をしますが、以前は涼しい地下室へ運び、「ケラークーヘン(地下室のケーキ)」とも呼びました。厚い一台から薄く切れば、硬めのビスケットとなめらかに溶ける部分を何段も続けて噛むことになります。断面の縞が、そのまま味の組立を示します。
1920年代の包装と、1947年のクリスマス
ビスケット製造会社バーゼンの社史には、1920年代、ライプニッツの包装へこの菓子のルセットを添えたとあります。既製のビスケットを家庭で別の菓子へ変える方法を、メーカーが伝えた例です。
ローゼマリー・シュロイアーの1947年のベルリンの回想では、母がクリスマスのため、ココア、ココナッツ油脂、ライプニッツを苦労して用意します。手軽に材料を重ねる菓子であっても、物資の乏しい時代には、それをそろえること自体が特別な祝いの準備でした。一台の縞に、その家庭のクリスマスの記憶が重なります。後の家庭への広がりは油脂メーカーの広告にも見え、パルミンは1958年の四色広告でこのケーキを商品とともに示しました。
「犬」ではなく「車」という名の説明
Kalter Hund は文字通りには「冷たい犬」。一方、ココナッツ油脂メーカーのパルミンは、細長い箱形を鉱山の運搬車 Hunt に見立て、冷やして固めることと結びつけて説明します。言語研究者エルケ・ドナリーズも、Hunt が身近な Hund へ読み替えられる関係を、語の意味を再解釈する例として論じています。
別名 Kalte Schnauze は「冷たい鼻先・口元」です。犬の形の菓子という意味ではありません。角型のHuntと冷たさが、身近なHundという名へ寄ったと説明されていますが、誰が最初に名づけたかは分かっていません。
スイスの泡立てるクリーム、キプロスの割り菓子
スイスのシッタービーク、キプロスのドゥキッサにも、既製ビスケットを一台へ固める近い型があります。
スイスの料理媒体FOOBYのモカ・シッタービークは、バターと粉砂糖を泡立て、溶かしたチョコレート、コーヒーリキュール、泡立てたクリームを合わせます。プティ・ブールを重ねて冷やした後、取っておいたクリームで上面を覆い、カカオを振ります。溶かして固めるだけの混合物とは違い、ここには泡を含むコーヒー風味のクリームが入ります。
また、キプロスで覚えたルセットを伝えるカトリン・ルンゲには、ビスケットを割って混ぜ込み、四角く切る方法もあります。整然とした線を作るか、不規則なかけらを散らすか。同じ冷たい菓子の仲間でも、ビスケットの置き方が切り口を変えます。
用語解説
- ココナッツ油脂
- ココナッツの胚乳から得られる油脂。室温で固まり、口で溶けるとき熱を奪う。
- カルテ・シュナウツェ
- カルター・フントの別名。
- ドゥキッサ
- キプロスで使われる同系菓子の呼び名。
- バーゼン
- ドイツのビスケット製造会社。ライプニッツは同社のビスケット名。
- プティ・ブール
- バター風味のビスケットの一種。
- ローゼマリー・シュロイアー
- 戦後ベルリンのクリスマスと、母の菓子作りを綴った回想の筆者。
- カトリン・ルンゲ
- 料理サイトBacken macht glücklichの筆者。キプロスで知ったルセットを紹介している。
- パルミン
- ココナッツ油脂のブランド。1958年の広告にカルター・フントを用いた。
- エルケ・ドナリーズ
- ドイツ語の研究者。HuntからHundへの意味の読み替えを論じる。







