Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

バーズラー・レッカリー
Basler Läckerli
蜂蜜と香辛料の生地に、粗いナッツと柑橘皮
焼き菓子 / スイス・バーゼル

薄い白い糖衣を割ると、密な蜂蜜生地の中に粗いナッツと砂糖漬けの柑橘皮が残ります。バーズラー・レッカリーは、バーゼルの名を冠したスイスの四角い菓子です。小麦粉、蜂蜜、砂糖、香辛料で具をまとめ、焼いた大きな一枚を小さく切ります。噛むにつれて粒がほどけ、柑橘と香辛料の香りが広がる作りです。
粒を残して、蜂蜜でまとめる
アーモンドやヘーゼルナッツ、オレンジやレモンの砂糖漬け皮は、粉のように細かくせず、粒を残して使います。蜂蜜と砂糖の濃い甘さに、シナモン、ナツメグ、クローブなどを重ね、キルシュを加える型もあります。粗いナッツや皮をまとめた生地を薄くのばし、天板いっぱいの一枚として焼きます。
生地の扱いには規模や職人による違いがあります。前夜に蜂蜜を温めて翌朝こねる方法もあれば、仕込んだ生地を二四〜四八時間置いてから帯状に延ばす方法もあります。焼く厚さや時間も一定ではなく、小さな薄片から厚めの一個まで、同じ四角い形の中に幅があります。
温かい面へ刷く糖衣と、切る時機
焼き上がった生地が温かいうちに、砂糖の上掛けを刷毛で広げます。砂糖とキルシュを煮て作る糖衣もあり、冷めると褐色の生地を透かす白い膜になります。クリームのような厚い層ではなく、表面を薄く包む仕上げです。
切り分ける時機にも違いがあります。温かなうちに四角くする型に対し、職人の製造例には、糖衣をかけて冷まし、金属箱で休ませた後、機械で切るものもあります。薄い糖衣をかけてから切ると、白い面と褐色の断面が四角い一個の境界になります。
「なめる」の名、バーゼルの名
Basler は「バーゼルの」。Leckerli、Läckerli と綴る菓子の名は、スイスの食文化目録では古高ドイツ語の leckon「なめる」と関連づけられています。甘いものをなめ味わう動作が、名の背景にあります。
この広い菓子名の早い例には、一五九一年のアウクスブルクの婚礼支払記録の「Leckherle」があります。一六二一年、ベルンの医師アブラハム・シュノイリーの手帳には、ルセット(材料の配合と作り方)の伝え手の名を冠した「アンナ・フォン・ハルヴァイル夫人のレッカリー」もありました。名と製法の広がりは、現在のバーゼル型だけに限られません。
バーゼルでは、一七一一年十月十日の園芸業者組合の会計に「三枚のレッカリー」が残ります。市の都市史資料が紹介する一七四一年のアンナ・マグダレーナ・ファルカイゼンの料理書には、蜂蜜、香辛料、オレンジとシトロンの砂糖漬けを使う「Basler Lekerly」があり、町の名と典型材料が結びついています。
公会議の伝説と、作り手を増やした制度
一四三一〜四九年のバーゼル公会議で聖職者のために作られた、という起源話もあります。しかし市史資料では、十五世紀の税関・商館記録に重要な材料が見えないことから、この説は退けられています。市にレープクーヘンの伝統があったことだけでは、現在の配合の誕生までさかのぼれません。
一方、作り手の広がりを支えた制度は記録されています。一七一六年には砂糖菓子作りが組合の独占から外れ、一七二〇年には誰もがレッカリーを製造できるようになりました。女性、とりわけ未亡人の副業から工房、工場へ進む道には、こうした営業の条件の変化も関わっています。
レッカリーはバーゼルだけではない
レッカリーの名はバーゼルだけのものではありません。ベルンのヘーゼルナッツ・レッカリーは具を細かく加工し、アッペンツェルのものは乳を含むビーバーの生地を使います。チューリヒにはマジパンから作る型もあります。バーゼルの型を特徴づけるのは、粗いナッツと柑橘皮、比較的硬い蜂蜜生地、四角い形と薄い糖衣です。
もとはクリスマスや新年の菓子でしたが、現在は一年を通じ、贈り物や旅の携行食、土産として親しまれます。硬い一片を折り、口の中でゆっくりほどく食べ方にも、保存しやすい蜂蜜菓子らしさが残っています。
用語解説
- キルシュ
- サクランボを原料とする蒸留酒。
- レープクーヘン
- 蜂蜜や香辛料を使う中欧の菓子の一系統。
- ビーバー
- スイス東部の蜂蜜・香辛料菓子。アッペンツェルのレッカリーはこの系統の生地を使う。
- マジパン
- アーモンドと砂糖を主に練り合わせたもの。
- バーゼル公会議
- 十五世紀にバーゼルで開かれた教会会議。この菓子の創作を結びつける話が伝わる。
- アブラハム・シュノイリー
- 一六二一年の手帳にレッカリーのルセットを記したベルンの医師。
- アンナ・フォン・ハルヴァイル
- 同手帳のルセットに名を冠された夫人。記録の伝え手として示されるが、菓子の発明者と確認されたわけではない。
- アンナ・マグダレーナ・ファルカイゼン
- 1741年のバーゼル名を冠したルセットを記録したとされる人物。







