Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

パーキン
Parkin
オーツ麦と糖蜜を重ねる、十一月のしょうが菓子
ケーキ / 英国・ヨークシャーなど

焼きたてより、数日後のしっとりした粘りを楽しむ。イングランド北部のパーキンは、オーツ麦、しょうが、濃い糖液の焼菓子です。ヨークシャーやランカシャーで親しまれ、11月5日のボンファイア・ナイトにも欠かせません。厚く焼くケーキと薄いビスケットの両方があり、麦の粒と糖液の扱いが違う歯触りを作ります。
麦の粒と、二つの糖液
小麦粉へ合わせるオートミールは、中挽きや粗挽きの粒状です。大きく薄いフレークとは異なる細かな歯応えを残し、しょうがへシナモンやミックススパイスを添える配合もあります。
黒褐色のブラック・トリークル、琥珀色のゴールデンシロップ、ブラウンシュガーが甘味と色を担います。前者は濃い色と深い風味、後者は明るく穏やかな甘味。ヨークシャーを黒、ランカシャーを明るい糖液へ結びつける地方差が知られますが、両方を使う家庭も多くあります。
油脂、糖液、砂糖を弱火で溶かし、強く煮詰めず、粉、麦、香辛料へ加え、卵や乳を混ぜて型へ流します。油脂はバターのほかラード、マーガリン、膨張には重曹やセルフレイジング・フラワーを使います。
炉から出しても、食感は育つ
四角い天板、丸型、ローフ型で焼きます。140度で約1時間半の低温型もあれば、粉と糖液、型に応じて高温で短く焼くものもあります。型内で落ち着かせ、完全に冷まして密閉容器へ入れます。
数日から一週間ほど置くと、きめがしっとりまとまり、糖液の粘りを感じるようになります。ゴールデンシロップは、ショ糖の一部をブドウ糖と果糖へ分けた転化糖を含み、水分を抱え込む保湿性を持ちます。濃色のトリークルにも精糖シロップが混ぜられ、甘味と色だけでなく食感を支えます。完全に冷めてから密閉するのは、外へ水分を逃がしにくくし、そのしっとりした状態を保つためです。紅茶へ添えて必要な分を切る。保存は、残りを取っておくだけでなく、この菓子の食感を仕上げる時間です。
1729年、主人の粉を盗む相談
ヨーク大学の歴史辞典が引くエランドの裁判記録には、1729年、主人の粉を盗んでパーキンを作るようサラ・プリーストリーへ頼ませようとした、という一節があります。麦の粉を扱う日常の争いの中にも、この菓子を作る習慣が現れています。
同辞典が食品史研究者ピーター・ブリアーズに基づいて描く初期型は、平たい焼き板へ直接載せる薄いオーツ麦菓子です。19世紀半ば以降、炉と重曹の利用が厚いケーキ型を可能にしました。名をピーターの愛称や姓パーキンへ結ぶ説もありますが、裏付けは見つかっていません。
糖液使用の記録は18世紀初めへ及ぶとされます。ただし、現在の商品名のゴールデンシロップが当時既に売られていたという意味ではありません。
菓子店の帳面と、地域に届く複数の型
ヨーク大学が保管するテリーズの1834年からのルセット(材料の配合と作り方)帳には、食品や薬用製品と並んでトリークル・パーキンがあります。ストーンゲートの小工場で作り、近くのセント・ヘレンズ広場の店で売りました。家庭の保存菓子と、まとめて製造する商品が19世紀にも併存していたのです。
小さなパーキン・ビスケットは、粉へ油脂をすり込み、オーツ麦、しょうが、二種の糖液を合わせて丸め、外の歯切れと柔らかい中心を残します。近縁のサー・ケーキは、麦、ラード、少量のトリークルを練る薄焼きです。
ハルや東ヨークシャーには乾いたビスケット型が知られる一方、二種の糖液を使い、保存するとさらに湿るケーキ型も作られます。『ヨークシャー・デールズマン』のルセットを継いだハル歴史センターの一台も後者です。地域名が同じでも、薄く歯切れよく焼くか、厚く焼いて置くかで、食べ方は分かれます。
焚き火の夜には、干しぶどうの目を付ける
11月5日は、1605年の火薬陰謀事件の失敗を記念する焚き火や花火の夜です。大学辞典には、パーキンを豚形へ作り、干しぶどうで目を付ける習わしも残ります。切り分ける一台とは違う、形の楽しみです。
北部で広く手に入ったオーツ麦と糖液を使う菓子が、冬へ向かう夜の食べ物になりました。豚形を手に取る楽しみと、数日置いた一台を切る楽しみが、ともに焚き火の季節に重なります。
用語解説
- サラ・プリーストリー
- 1729年エランドの裁判記録で、粉を盗んでパーキンを作るよう頼む相手として名が現れる人物。
- ピーター・ブリアーズ
- 英国の食と調理史を研究した著者。初期パーキンの焼き板と厚いケーキへの変化を論じた。
- 転化糖
- ショ糖をブドウ糖と果糖へ分けたもの。水分を抱え、焼菓子の柔らかさにも関わる。
- オートミール
- オーツ麦を加工した食品。パーキンには中挽きや粗挽きの粒状のものが使われます。
- ブラック・トリークル
- 英国の濃色シロップ。糖蜜と精糖工程のシロップを調合したもので、色と風味が濃くなります。
- ゴールデンシロップ
- 琥珀色の糖液。ブラック・トリークルより穏やかな風味と明るい色を持ちます。
- セルフレイジング・フラワー
- 膨張剤などをあらかじめ混ぜた小麦粉。
- ボンファイア・ナイト
- 英国で11月5日を中心に焚き火や花火を楽しむ行事。
- ベイクストーン
- パンや薄い菓子を直接のせて加熱する平たい焼き板。
- サー・ケーキ
- イングランド北部に伝わる麦の菓子。Thar、Tharfなどの綴りがあり、パーキンと近い薄焼きの型があります。







