Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

スフーフ
Sfouf
黄色いケーキと、糖蜜色のケーキ
ケーキ / レバノン

スフーフ(Sfouf、صفوف)は、レバノンで大きな型に焼き、四角や菱形に切り分ける菓子です。よく知られるのはターメリックで黄色く色づけたものですが、ブドウやイナゴマメの糖蜜を使う濃い褐色のものもあります。色が違うだけでなく、甘味の素材、香り、乳の使い方まで変わります。どちらも1枚に焼いて分けられるため、家庭の集まりや茶の時間に向いた菓子です。
断食期の菓子にも、乳を使う菓子にもなる
卵を使わないことと、動物性材料を一切使わないことは別です。牛乳や粉乳、少量のバターを入れる黄色いスフーフもあります。レバノンではキリスト教の斎の時期に合わせ、油と植物性の液体で作るものも選ばれます。材料の一部を替えても、大きな型で焼き、分けて供する性格は保たれます。
家庭の皿から菓子店へ
料理家ハディア・ズビーブは、子どもの頃、祖母の家で姉妹やいとこと集まると、切り分けたスフーフが特別な皿に並んだと振り返ります。ベイルートの1地区を振り返る2015年の報道では、1990年代には菓子店「サフスーフ」がスフーフとナムーラで知られていました。家で分ける菓子であると同時に、街の店でも買える菓子になっています。ただし、この2つの記録から菓子そのものの成立年代は定められません。
黄色は卵黄の色ではない
黄色いスフーフは、ターメリックの色と香りが特徴です。卵を泡立てて膨らませるケーキとは違い、卵を入れず、ベーキングパウダーを使うルセット(材料の配合と作り方)が広く作られています。小麦粉とセモリナ、砂糖、油、液体を混ぜて型に流し、松の実やアーモンドを散らして焼きます。セモリナだけの菓子とは限らず、小麦粉との配合には幅があります。
粉の組み合わせは食感の違いにもつながります。さらさらの小麦粉だけを使うケーキに比べ、セモリナを加えたものには粒の存在感が残ります。一方、セモリナが入っていれば必ず硬くなるわけではなく、ある配合がレバノン全土の唯一の標準というわけでもありません。ベイルートで育った料理家のハディア・ズビーブは、ふわふわ一辺倒ではなく、柔らかさの中に少し密度のあるスフーフを好みます。彼女の公開ルセットでは細かなセモリナ、または小麦の胚乳を粒状に挽いたファリーナを、通常の小麦粉と組み合わせ、黄色い1枚のケーキに焼きます。
型にはタヒニ(tahini)を塗る作り方があります。ごまのペーストが底面の風味を加え、焼き上がった菓子を取り出しやすくします。表面の松の実も単なる飾りではなく、切り分けた1片に香ばしさを添えます。バターで型を塗る場合、ナッツをごまに替える場合もあり、同じ黄色いケーキの中にも家庭ごとの違いがあります。
ディブスを使うと、甘味の組み立てが変わる
スフーフ・ビ・ディブスは、ディブス(dibs)と呼ばれる濃縮した甘いシロップを使うものです。ブドウ由来のものもあれば、イナゴマメの莢から作るキャロブのものもあります。サトウキビから砂糖を製造するときの副産物だけを意味する日本語の「糖蜜」より、現地の呼称が指す範囲は広くなっています。
キャロブのディブスを使うと、ケーキは褐色になり、黄色いスフーフのターメリックとは異なる香りになります。アニスを合わせるルセットでは、甘く清涼感のある香りも加わります。黄色いケーキを焼いてから茶色のシロップをかけるという意味ではなく、生地の甘味そのものをディブスで作る点が重要です。料理人カミル・ブールートの例では、小麦粉、キャロブのディブス、油、粉乳を使い、アシュタと果実を添えます。これはセモリナを必須としない現代の一例であり、スフーフという名の使われ方に幅があることを示します。
切り分ける名と、吸蜜菓子との違い
スフーフは「列」という意味に結び付けて説明され、平行に切り目を入れて整然と分ける姿にも通じます。焼き上がりを冷ましてから切るのは、見た目を揃えるだけでなく、崩さずに取り分けるためでもあります。シロップをたっぷり含ませるナムーラと似た材料を使っても、スフーフはそれ自体の甘さと香りを味わうものが中心です。ナムーラが吸ったシロップで潤うのに対し、スフーフは切り分けられる生地の歯切れを残します。料理人アマニ・カザールの例には、焼き上がりに少量の冷たいシロップを刷毛で塗る仕上げもあります。生地を糖液に浸す方法とは違い、表面の艶を添える使い方です。

四角く切り分け、表面にごまを散らした黄色いスフーフ。 写真:celinecelines、切抜き Mx. Granger、CC BY-SA 2.0(出典)。Commonsで切抜き済み、追加改変なし。
用語解説
- セモリナ
- 小麦の胚乳を粒状に挽いた素材。小麦粉と組み合わせる配合にも幅があります。
- ファリーナ
- 主に小麦の胚乳を粒状に挽いた素材。本文のルセットでは細かなセモリナが代用品として示され、通常の小麦粉とは別に加えます。
- タヒニ(tahini)
- ごまをすり潰したペースト。型に塗るほか、糖蜜と合わせても使います。
- ディブス(dibs)
- ブドウやキャロブなどから作る濃い甘味料の呼称。
- キャロブ
- イナゴマメ。莢を原料にしたディブスは褐色で、独特の甘い香りがあります。
- ハディア・ズビーブ
- レバノンの家庭料理と製菓を紹介する料理家・著者。
- アマニ・カザール
- レバノン出身でシドニーを拠点に活動する料理人。
- カミル・ブールート
- キャロブのディブスを用いたスフーフのルセットを発表した料理人。







