Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ガタ
Gata
地域で異なる層と餡、アルメニアの焼き菓子
焼き菓子 / アルメニア・ハチク、ガルニ、ゲガルド周辺など

ガタ(գաթա、Gata)は、アルメニアに伝わる焼き菓子である。大きな円盤を切り分けるものも、巻いた生地を小さく切るものもあり、粉と油脂と砂糖を合わせるホリズ(khoriz)という餡がよく知られる。小麦粉は外皮を作るだけでなく、内側の餡にも使われる。同じ粉とバターが、こねてつながる生地と、細かくほぐれる餡に分かれる。
1960年の料理書では、レニナカンのガタの餡に砂糖が入らず、イェレヴァンのガタには粉糖が入る。発酵の仕方や餡を巻く順序も、地域名を冠したルセット(材料の配合と作り方)ごとに違い、それが切り口の層と甘さを変える。
イェレヴァンのガタは、生地の層を先に作る
1960年にモスクワで刊行された料理書『アルメニア料理』は、ガタを地域名ごとに収めている。そのイェレヴァンのガタでは、酵母を使う生地を直法で仕込む。直法とは、中種を別に発酵させず、生地を仕込む方法である。
この生地を厚さ1.5〜2ミリに延ばし、溶かしバターを塗って2つに折る。再び延ばしてバターを塗る操作を4〜5回繰り返してから、棒状に巻き、切り分ける。切った1つずつを丸く延ばし、そこで初めてホリズを包む。餡は、小麦粉に澄ましバターをすり混ぜ、粉糖を合わせて細かくほぐしたものだ。
形を整えたガタは、閉じ目を下に置き、卵黄を塗り、フォークで穴をあけて焼く。仕上がりの厚さは1.5〜2センチである。層になった外皮が、中央にまとめた餡を包む構造である。餡に用いる澄ましバターとは別に、折込み用のバターも配合される。生地に混ぜる油脂、層を作る油脂、餡の油脂という3つの使い方が、1枚に重なっている。
同書のレニナカンのガタは、イェレヴァンのガタと同じ手順で作るが、餡には砂糖を入れない。餡の配合は小麦粉、澄ましバター、塩である。甘いホリズの粉糖を省き、粉と油脂の餡を包んで焼く。レニナカンという当時の地域名で記されたこの形式も、ガタの一つに数えられている。
中種を使う生地と、餡を巻き込む生地
ステパナヴァンのガタは、中種を用いる。中種は、粉、酵母、水の一部を先に合わせて発酵させたものである。その後に残りの材料を合わせて、本体の生地にする。この形式では牛乳、卵、バター、砂糖を使い、外皮となる生地自体にも甘味を持たせる。
延ばした生地へ溶かしバターを塗り、封筒のように折り重ね、さらにバターを塗ってから餡を置く。四方から生地を寄せて閉じ、裏返して均等な厚さに延ばす。折り重ねた生地で、一まとまりの餡を包む順序である。餡には粉糖のほか、レモンの皮またはバニラで香りをつける。
一方、同じく中種を使うキロヴァカンのガタは、生地を約5ミリに延ばし、バターを塗ってから、餡を2〜3ミリの厚さに広げる。そのまま棒状に巻き、切り分け、両端をつまんで閉じてから丸く延ばす。最後に縁をつまみ上げて、低い縁取りを作る。
こちらは餡を広げた面を内側へ巻き込むため、生地と餡が重なった状態で円盤に整えられる。イェレヴァンのガタが、油脂で層を作った生地へ後から餡を包むのに対し、キロヴァカンのガタは餡も一緒に巻いてから形を変える。どちらも丸く焼くが、餡の配置を決める工程が異なる。
同書のアルツァフのガタも中種を使い、本生地にはバター、砂糖、卵を合わせる。生地を丸く延ばしてバターを塗り、餡を置き、周囲を寄せて閉じる。折込みや巻込みを重ねずに包むこの形式では、生地250グラムに対して餡200グラムが配される。地域別のルセットは、発酵の仕方、外皮の甘味、餡の量、包む順序をそれぞれに組み合わせている。
中世の寓話に残る名
ガタの語源は確定していない。名称を研究したハスミク・フマイキャンは、中世の説教師ヴァルダン・アイゲクツィの寓話「豚とガタ」を初期の用例として挙げる。ガタを食べていた豚が、餡をこぼしながら顔を上げ、太陽の円盤を見るという話で、菓子とその餡がともに文中に登場する。菓子が作られ始めた年代は不詳である。
菓子を意味するフランス語gâteauとの音の類似については、言語学者ゲヴォルグ・ジャフキャンが偶然とみている。フマイキャンはヒッタイト語のパンの名との関連も提案するが、その食品の配合は分かっておらず、この説は語源の仮説として提示されている。
模様を押し、婚礼へ招く
伝統的な焼成には、トニール(tonir)という土の窯が使われてきた。農村の共同製造では、家の女性に近隣の女性も加わり、生地をこね、窯へ火を入れた。表面の装飾には、切り込みや生地の飾りに加え、ガタナフシチ(gatanakhshich)という文様を押す型も使われる。ガタナフシチは木の型で、太陽や月などの形を柔らかな生地へ押し、焼く前に模様を残す。
ガタは婚礼で贈る食べ物でもあった。新ナヒチェヴァンで作られたテル・ガタ(t‘el-gat‘a)は、油脂を塗った薄い生地の層にホリズを入れ、細い木の麺棒で文様をつけるものである。婚礼の数日前には親族や近隣の年長女性が集まって焼き、前夜には若い親族が馬で家々を回り、1個ずつ配って招待を伝えた。
ジャヴァフクでは、焼くために集まること自体に儀礼があった。人々はバターや卵、乳を持参し、婚礼を控えた新郎の家へ集まる。灯火や音楽を伴って粉をふるい、残った近親者たちが多数のガタを焼き、帰りには1つずつ持ち帰った。ガタは祝いの卓に載るだけでなく、材料を持ち寄り、ともに焼き、招待や贈答として運ばれる菓子だった。
フマイキャンが取り上げるミジンクは、四旬節の中ほどに当たる日である。この日の習慣には、ガタやバラルジュというパンに玉、指輪、硬貨などを入れ、運勢を占うものがあった。家族のほか、家畜や大地にも分けるとされ、分配には、その年の暮らしへの願いが込められていた。
道沿いの1枚と、秋のハチク
現在のガタは、茶やコーヒーと食べる日常の菓子にもなっている。ガルニやゲガルドの周辺では、大きな丸形が知られる。ゲガルドでは、文様や土地の名を表面につけたガタが、修道院へ向かう道沿いで売られる。
ヴァヨツ・ゾル地方のハチク村では、秋にガタを祝う催しが開かれる。村の作り手が大きなガタを焼いて来場者と分け、歌や踊り、工芸品の市も催す。共同で作って人に渡す習慣は、村を訪れる人を迎える催しにも受け継がれている。
国外の家庭にも作り方は伝わる。オーストラリアのアルメニア系料理人アヌシュカ・ザルガリャンは、ヨーグルト、卵、バター、小麦粉、塩、重曹を合わせる生地を紹介している。また、市販のパイ生地へ炒った粉、クルミ、糖、植物性油脂の餡を広げ、巻いて蝶形にする作り方もある。家庭でこねる生地から市販のパイ生地まで、作る場に応じた材料を使い、粉の餡を包むガタが焼かれている。
土地と製菓を読む関連画像

2016年9月、アルメニア・ハチク村のガタ祭り。人々が大きなガタの周囲へ集まる。
写真・図版:Armineaghayan/CC BY-SA 4.0/原図。Wikimedia Commons生成の450px縮小版を取得。追加のトリミング・色加工なし。原寸は共有環境の429を踏まえ未取得。
用語解説
- ホリズ(khoriz)
- ガタに包む粉と油脂の餡。砂糖を加えるものがよく知られる。
- 澄ましバター
- バターから水分や乳固形分を除いた油脂。
- 直法
- 中種を別に発酵させず、生地を仕込む方法。
- 中種
- 粉、酵母、水の一部を先に合わせて発酵させた生地。
- イェレヴァン
- アルメニアの首都。1960年の料理書に地域名を冠するガタが載る。
- レニナカン
- 1960年の料理書で、砂糖を入れない餡のガタに付く地域名。
- ステパナヴァン
- 中種の生地を折り重ねて餡を包む形式が料理書に載る地域。
- キロヴァカン
- 餡を広げた生地を巻いてから丸く整える形式が料理書に載る地域名。
- アルツァフ
- 中種を用い、丸く延ばした生地で餡を包むガタの地域名。
- トニール(tonir)
- アルメニアの土の窯。
- ガタナフシチ(gatanakhshich)
- ガタの表面へ模様を押す型。
- テル・ガタ(t‘el-gat‘a)
- 新ナヒチェヴァンで婚礼の招待にも配られた、薄い層を持つガタ。
- 新ナヒチェヴァン
- テル・ガタを作る婚礼習慣が記録されたアルメニア人の居住地。
- ジャヴァフク
- ガタを共同で焼く婚礼儀礼が民族誌に記録された地域。
- ミジンク
- アルメニアの四旬節の中ほどに当たる日。
- バラルジュ
- アルメニアの儀礼に用いられるパンの名。
- 四旬節
- キリスト教で復活祭を前に過ごす節制の期間。
- ハチク
- アルメニアのヴァヨツ・ゾル地方の村。ガタの催しが開かれる。
- ガルニ/ゲガルド
- 大きな丸形のガタでも知られるアルメニアの土地。
- ハスミク・フマイキャン
- ガタの名称と儀礼を研究した研究者。
- ヴァルダン・アイゲクツィ
- 中世アルメニアの説教師・寓話作家。
- ゲヴォルグ・ジャフキャン
- アルメニアの言語学者。
- ヒッタイト語
- 古代アナトリアで使われた言語。ガタの語源研究で比較対象となる。
- アヌシュカ・ザルガリャン
- オーストラリアでガタの作り方を紹介するアルメニア系料理人。
- ルセット
- 材料の配合と作り方の一式。







