Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

カノム・ラー
Khanom La
祖先の衣服を表す、タイ南部の細い線の菓子
焼き菓子 / タイ・ナコーンシータンマラート

カノム・ラー(Khanom La、ขนมลา)は、米粉を主とする甘い生地を細い線に流し、熱した鍋の上で網のように重ねて作るタイ南部の菓子だ。ナコーンシータンマラートの名物として知られ、ソンクラーなどでも受け継がれている。大きく薄い1枚にしたもの、折りたたんだもの、棒へ巻いて細い筒にしたものがあり、食感にもやわらかな形式と、ぱりっとした形式がある。
細い穴から、網状に生地を落とす
カノム・ラーの生地は、丸い1枚へ一度に流し広げるのではない。底に小さな穴を開けた容器へ入れ、容器を鍋の上で動かして、細い線が交差するように落とす。線と線の間には隙間が残るものの、重なった場所でつながり、1枚として持ち上げられる形になる。
材料の一例には、うるち米の粉、ヤシ砂糖や褐色の砂糖、卵がある。もち米の粉を混ぜる形式もあり、同じ名前でも配合は一つではない。タイの地域製品規格では、生地を細い線として加熱し、折ったり巻いたりして成形する菓子として整理されている。
細い線を作るには、粉の量だけでなく、容器の穴を通る生地の状態と、動かし方が関わる。穴を開けた缶などの道具を用いるため、菓子の網目は、型へ押しつけた模様ではなく、流した線そのものだ。
米を挽く前にも、土地ごとの仕込みがある
ナコーンシータンマラートのターサーラーで作るラー・ワットテー(La Wat The)は、テーワダーラーム寺院の周辺に伝わるラー・チェットだ。この形式では、土地の新米に少量のもち米を加え、水に浸してから水を切り、乾かし、一晩おいてから挽く。粉を濾し、水を絞って塊にし、液状の糖と合わせて生地へ整える。
糖にも土地の材料が現れる。海沿いのココヤシから取った糖を煮詰め、濾し、必要な粘りへ調整して使う。袋入りの米粉と砂糖を合わせるだけの作り方とは、粉になる前の工程も異なる。同じ細い線の菓子でも、米を扱う段階から地域の作り方が始まっている。
やわらかなラーと、歯切れのよいラー
カノム・ラーには、ラー・チェット(la chet)とラー・クロープ(la krop)という区別がある。ラー・チェットは比較的油が少なく、生地を厚めに重ね、焼き上がったものを半円や四角へ折る形式だ。大きな網状の薄皮としてまとめられる。
ラー・クロープは、歯切れのよさを求める形式だ。ラー・チェットへさらに砂糖を加えて日光で乾かす作り方のほか、米粉や油を増やし、加熱した生地を棒へ巻き、冷めてから棒を抜く形式もある。単に一方を長く焼いた違いではなく、配合や乾燥、巻く工程の違いが食感と形に現れる。
旧暦10月の祭りで「衣服」になる
カノム・ラーは、サート・ドゥアン・シップ(Sat Duean Sip)と呼ばれる旧暦10月の祭りに欠かせない菓子の一つだ。祖先の霊が地上の親族のもとへ戻り、子孫からの供物や功徳を受け取ると信じられている。菓子は生きている人のためのおやつであると同時に、亡くなった人へ届ける品になる。
ナコーンシータンマラートでは、数種類の菓子をムラップ(mrap)という供物の盛り合わせへ納める。それぞれの形には役割があり、網のような大きな1枚になるカノム・ラーは、祖先が身につける衣服を表す。ほかの菓子には川を渡るいかだ、装身具、使う金銭などが割り当てられる。カノム・ラーは食べ物であると同時に、あの世で使う衣服を象徴する一品として、供物の一式へ入る。
別の信仰では、プレート(pret)と呼ぶ飢えた霊の口は針の穴ほど小さいため、細いカノム・ラーなら食べられるという。同じ細さが、衣服の糸のような見立てと、霊が食べられる食物という2つの意味を帯びる。
供物を用意する家族と、祭りの外の商い
タイ南部の伝承では、旧暦10月の満月の翌日に祖先の霊を迎え、月末に送り出す。大きな供物を用意するのは後の時期で、家や親族ごとに食べ物や日用品をムラップへ納め、寺院へ運ぶ。カノム・ラーを作る時期は、帰省する親族が集まり、供物を分担して整える時期とも重なる。家族は菓子をほかの供物とともに盛り、寺院へ運んで僧に食べ物を捧げ、祖先へ功徳を回す。
現在は祭りの時期だけでなく、年間を通して販売されるカノム・ラーもある。巻いて歯切れよく仕上げた形式は、市場の商品としても作られる。家族が供物として寺院へ運ぶ大きな1枚の菓子と、手に取りやすい筒状の菓子は、同じ線を落とす技法から生まれている。
用語解説
- ラー・チェット(la chet)
- 油を比較的少なく用い、生地を厚めに重ねて折る形式。
- ラー・クロープ(la krop)
- 乾燥や配合、巻く工程などで歯切れよく仕上げる形式。
- サート・ドゥアン・シップ(Sat Duean Sip)
- タイ南部で行われる、祖先への功徳や供物と関わる旧暦10月の祭り。
- ムラップ(mrap)
- 祭りのために菓子などを盛った供物の一式。
- プレート(pret)
- 南タイの祭祀で語られる飢えた霊。日本語では餓鬼とも訳される。
- ラー・ワットテー(La Wat The)
- ターサーラーのテーワダーラーム寺院周辺に伝わるカノム・ラーの地域形式。







