Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ムラヴェイニク
Muraveinik
かけらを積み上げる
ケーキ / ロシアなど旧ソ連圏

ムラヴェイニクは、焼き菓子のかけらを積み上げた、不揃いな小山のような家庭のケーキです。名はロシア語で「アリ塚」を意味します。薄く平らに焼いた生地を割り、濃い練乳のクリームでつないで盛り上げます。切り分けると、整った層の代わりに、大小のかけらが寄り集まった断面が現れます。
かけらを積み上げる
バターを使ったほろりと崩れる生地を焼き、冷めたら砕きます。生地を冷やして粗くすりおろしたり、肉ひき器に通したりしてから焼く方法もあります。焼いた生地を粗く砕くと、大きなかけらの間に細かい粒が入り、クリームとともに山をまとめます。
クリームの一例は、煮詰めた加糖練乳とバターを合わせたものです。濃いクリームがかけらをつなぎ、皿の上に山形に盛って冷やすと形が落ち着きます。砕片を強く押し固めすぎずに積むと、かけらの間に空間が残ります。時間を置く間に生地とクリームがなじみ、外側の歯ざわりと内側のしっとり感が重なります。クルミやレーズンを混ぜたり、表面にケシの実を散らしたりする家もあります。
焼き菓子を手作りする代わりに、市販のビスケットやシリアルを使う作り方もあります。かけらをクリームでつなぎ、山形に組み立てます。型や複雑な飾りがなくても、切り分けるケーキになります。
砕片を表に見せた山もあれば、表面をなめらかに覆った山もあります。仕上げ方が違うと、同じアリ塚の形でも見た目の印象が変わります。
家庭で受け継ぐ形
1993年刊の家庭製菓書には、スメタナを加えた固い生地を冷やし、粗くすりおろして天板に広げる作り方が載っています。焼いて冷ました生地を砕き、煮た加糖練乳とバターのクリーム、クルミを合わせて盛る一例です。
ある家庭の料理集には、ウラジオストク出身の女性が友人の誕生日にもらったケーキをきっかけに、この菓子を家の料理帳に加えた話が載っています。その家の作り方では、冷やした生地をおろして焼き、砕いたところへクルミとレーズンを混ぜ、練乳とバターのクリームで山にします。祝いの贈り物として出会った味が、別の家庭でも繰り返し作られるようになった一例です。
カレリアの料理を紹介する資料には、同じ名で、メレンゲ菓子をコーヒー風味のバタークリームにつけて山に積む作り方も載っています。別の例では砕いた焼き生地を練乳入りのクリームでまとめます。同じ「アリ塚」の形でも、土台になる菓子やつなぎ方は一通りではありません。
ウクライナ語では同じくアリ塚を意味するムラシュニクとも呼ばれます。この菓子はソ連時代の家庭で広まり、それぞれの家の配合や飾り方が伝わってきました。アリ塚に見立てた山に、ケシの実を小さなアリのように散らす飾りもその一つです。起源をアメリカの揚げ菓子に結びつける説もありますが、似た形からそのまま成立の道筋を決めることはできません。
小さな生地を山に積む菓子には、タタールのチャクチャクもあります。こちらは短く切った生地を油で揚げ、蜂蜜のシロップでつなぐのが特徴です。焼き菓子のかけらをクリームでまとめるムラヴェイニクとは、火の通し方もつなぐ材料も異なります。
同じように焼き菓子のかけらを生かすカルトーシュカは、小さな芋形にまとめる菓子です。ムラヴェイニクは、かけらを残したまま大きな山形に盛り、切り分けるケーキです。
用語解説
- スメタナ
- 東ヨーロッパで使われる酸味のある発酵クリーム。
- 加糖練乳
- 牛乳を濃縮して砂糖を加えたもの。煮詰めると色と風味が濃くなる。
- ケシの実
- ケシの種子。菓子の表面に散らして香りや粒の食感を添える。
- チャクチャク
- 小さく切った生地を油で揚げ、蜂蜜のシロップでまとめたタタールの菓子。







