Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

アンザック・ビスケット
Anzac biscuit
オーツ麦とシロップがつなぐ追悼のビスケット
焼き菓子 / オーストラリア・ニュージーランド

ロールドオーツの薄片をバターとシロップでつないだ甘い菓子が、四月二十五日の追悼の食卓に並びます。オーストラリアとニュージーランドで焼かれるアンザック・ビスケットです。「アンザック」の名には第一次世界大戦の記憶が重なりますが、兵士に支給された硬い軍用食とは別のものです。家庭の配合と追悼の名が結びつくまでには、募金料理書を通じた変化がありました。
オーツ麦をつなぐ温かい糖液
よく作られる型では、ロールドオーツ、小麦粉、糖、必要なら乾燥ココナッツを混ぜ、溶かしたバターとゴールデンシロップを加えます。重曹を湯に溶いて温かい糖液へ合わせ、泡立つうちに粉へ混ぜます。卵を泡立てる生地とは違い、糖液と油脂が薄いオーツ麦の片を結びます。
小さく置いた生地は天板で広がるため、間を空けます。焼きたては柔らかく、冷めてから扱いやすくなります。焼き時間と厚さで、縁がぱりっとして中心に粘りが残るものも、全体が薄く乾いたものも作れます。軍用のハードタックの「硬さ」は長期保存を目的とする乾パンのものですが、家庭の甘い菓子の硬軟は配合と焼成の選択です。
兵士の乾パン、家庭の甘い菓子
ガリポリで兵士に支給された「アンザック・タイル」「アンザック・ウエハース」は、保存しやすい非常に硬い乾パン状の軍用食でした。水に浸したり砕いて粥にしたりして食べ、文字や絵を書いて家族に送った実物も戦争記念館に残ります。
戦時中の甘い菓子にも、すでに「アンザック」の名が現れます。一九一六年のパースの新聞の「アンザック・ジンジャー・ビスケット」は、糖蜜と生姜を使い、生地を延ばして抜く型。一九一七年、募金用料理書へアリス・アンダーソンが寄せた同名のルセット(材料の配合と作り方)は、卵、小麦粉、米粉、香辛料で焼いた二枚をジャムで合わせ、糖衣をかけます。いずれも、今日の卵を使わないオーツ麦の一枚菓子とは異なる姿でした。
募金料理書で名前と配合が出会う
ニュージーランドのダニーデンで女性たちが募金のために刊行した『St Andrew’s Cookery Book』には、現代の菓子に近い「Anzac Crispies」が登場します。一九一〇年代末から一九二〇年代初頭の版には、オーツ麦を使う「Anzac Crispies」の名が見えます。戦時募金の料理書で、初期のジャム合わせとは違う一枚焼きの菓子へ名前が結びつきました。どの版に最初に載ったかは確定していません。
オークランド博物館所蔵の『Edmonds Cookery Book』一九二三年第四版は、粉、糖、ココナッツ、ロールドオーツへ、溶かしたバター、ゴールデンシロップ、湯に溶いた重曹を合わせます。一方、オーストラリアの一九二六年の新聞掲載のルセットにはココナッツがなく、一九三三年の女性団体の料理暦には有無の二種があります。ココナッツ入りの最初の年は定め難く、一九二〇〜三〇年代にも配合は一種類に固定されていませんでした。
焼いて分ける追悼と、名の扱い
アンザック・デーには、家庭や学校でこの菓子を焼く行為も従軍者を考える機会になります。豪州退役軍人省が紹介する活動には、生徒が数千枚を焼いて地域の施設へ届けた例があります。兵士の携帯食を再現するのではなく、甘い菓子を焼いて分けることが現在の追悼を担います。ニュージーランドでは市販品も支援につながります。退役軍人と家族を支援する王立ニュージーランドRSAによれば、AFMグループのアンザック・ビスケットは袋や缶が売れるたびに同団体へ寄付され、二〇二四年には五万ニュージーランドドルを超える寄付がありました。学校での配布、商品を通じた寄付という別々の形で、菓子が記憶を人への支援に結びつけています。
「Anzac」の商業利用には両国の公的な条件があります。豪州退役軍人省の案内では、商業販売での名称使用には許可が必要です。ニュージーランド文化遺産省は、伝統的な一般の配合と形に沿うビスケットを通常許容する例に挙げますが、クッキー、スライス状の菓子、ローフ、ミューズリーバーには広げていません。追悼の言葉を商品に冠する際の運用には、国ごとの差もあります。
用語解説
- ANZAC
- 第一次世界大戦のオーストラリア・ニュージーランド軍団の略称。菓子や追悼日では一般に *Anzac* とも書く。
- ガリポリ
- 現在のトルコにある半島。第一次世界大戦でANZACの部隊も戦った。
- ハードタック
- 長期保存用の非常に硬い乾パン状の食品。
- ロールドオーツ
- オーツ麦を蒸して薄く押したもの。
- ゴールデンシロップ
- 糖を原料とする粘りのある琥珀色のシロップ。
- 王立ニュージーランドRSA
- ニュージーランドの退役軍人と家族を支える団体。菓子の販売収益から寄付を受ける。
- アリス・アンダーソン
- 一九一七年の募金料理書へ、卵と米粉を使う別型のルセットを寄せた人物。
- アンザック・デー
- 四月二十五日。豪州とニュージーランドなどで従軍者・戦没者を記憶する日。







