Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

バスブーサ
Basbousa
セモリナの粒に、シロップを含ませる
ケーキ / エジプト・レバントなど

バスブーサ(Basbousa、بسبوسة)は、セモリナの生地を平たい型で焼き、砂糖のシロップを含ませた菓子です。四角や菱形に切り、ナッツを1粒ずつ飾る姿でも知られます。しっとりしていますが、滑らかなスポンジケーキとは違い、細かな小麦の粒が感じられます。エジプトをはじめ中東から北アフリカに広く親しまれ、地域によってナムーラやハリーサと呼ばれる近縁の菓子もあります。ラマダンや祝いの席では、大皿から人数に合わせて切り分けられます。
粥状の甘味と、焼き菓子の間
セモリナを油脂、甘い液体と合わせる菓子は、中世のアラビア語料理書にも登場します。鍋で煮る粥状の甘味と、型に入れて焼いてからシロップを吸わせる菓子では、工程が異なります。古いセモリナ料理があるからといって、現在のバスブーサがそのまま同じ姿で1000年以上続いたとはいえません。
中東料理の歴史研究では、粥状のセモリナ菓子や、油脂を擦り込む古い菓子が近縁のものとして検討されています。13世紀のシリアと14世紀のエジプトの料理書には、スミードという濃いセモリナの甘い粥が記されています。14世紀のエジプトの料理書にあるフストゥキーヤ・ナーブルスィーヤは、ナブルスの名を持ち、ピスタチオを使う焼いたセモリナ菓子で、現在の一群に近いものとして検討されています。これらの料理書を読む食文化史家リモール・ユングマンは、煮る甘味から焼く菓子への工程の変化を指摘しています。
生地を作る段階と、甘く潤す段階
セモリナは主にデュラム小麦の胚乳を粒状に挽いたものです。バスブーサでは、この粒を残しながら柔らかく仕上げます。焼く前の生地に砂糖が入るだけでなく、焼いた後にもシロップを加えるため、甘味と水分を2段階で調整する構造です。生地だけを食べたときの固さが、そのまま完成品の固さにはなりません。
エジプト風の一例では、まずセモリナを、溶かしたギーとよく合わせます。ギーは乳の水分と乳固形分を取り除いた脂肪です。粉と液体を1度に練るのでなく、先に粒へ脂肪をまぶし、そのあと砂糖を溶かした牛乳などを加えます。液体を加えてからは練り過ぎず、生地を休ませます。粒を潤ませることと、パンのような粘りを引き出すことを分けているのです。
セモリナの挽き方も、配合の一部です。中挽きなら細かな粒の存在を残しやすく、細挽きの生地とは口当たりが変わります。ココナツを少量加える作り方もありますが、白い繊維を長く残すか、細かくして混ぜるかでも食感が違います。卵やヨーグルトを使うもの、使わないものがあり、1つの家庭向けルセット(材料の配合と作り方)の材料を、すべてのバスブーサの必須条件にすることはできません。
シロップは、焼けた粒と隙間へ入る
表面が色づくまで焼き、シロップを加えます。液体を含ませる工程があるため、焼きが浅いままでは生地の食感を整えにくくなります。焼成で作った香ばしさと、あとから加える水分を組み合わせる菓子です。シロップの濃度や温度、注いでから休ませる時間は、使う型や生地によって調整します。「熱い菓子には必ず冷たいシロップ」といった1つの決まりで全地域の作り方を説明できるものではありません。
エジプトのタスビフが紹介する菓子店風の作り方では、卵を使わず、ギーの風味と密度のある柔らかさを目指します。一方、レバントのナムーラでは花水やタヒニを使う例もあり、卵を泡立てたレヴァニにはケーキらしい軽さが現れます。共通するのはセモリナと吸わせるシロップですが、同じ完成形の別名というより、重なる材料と技法を持つ一群として見ると違いが分かります。
擦り合わせる言葉と、口づけの話
バスブーサの名は、粉やセモリナを油脂と手で擦り合わせる動作、バス(bas)に結び付けて説明されます。粒を油脂で包む工程と、名前の説明がつながるわけです。ほかに、夫が妻へ「口づけを一つだけ」とねだった言葉に由来するという民間の話もあります。
その話では、レバントからセモリナを持ち帰った商人の妻が菓子を作り、焼ける香りに喜んだ夫が口づけを求めます。妻はまず菓子を仕上げようとし、2人のやりとりが名になったとされます。人々が呼び名を楽しむための物語であり、発明者や成立年代を示す記録ではありません。

四角に切り、くるみを飾ったバスブーサ。 写真:stu_spivack/色調整Hohum、CC BY-SA 2.0、原画像。当作業での加工なし。
用語解説
- スミード
- 中世の料理書に見える、シロップを使った濃いセモリナの粥の名。
- フストゥキーヤ・ナーブルスィーヤ
- 14世紀エジプトの料理書に記される、ナブルスの名を持つセモリナの菓子。
- リモール・ユングマン
- アラブ料理を専門とする食文化史家。中世のセモリナ料理と現在の焼き菓子を比較しています。
- セモリナ
- 主にデュラム小麦の胚乳を粒状に挽いた素材。
- ギー
- 乳から水分と乳固形分を除いた脂肪。生地の風味と食感に関わります。
- ナムーラ
- レバントで親しまれる、シロップを含ませるセモリナの焼き菓子。
- ハリーサ
- 地域によってセモリナの甘い焼き菓子を指す名。辛い調味料の同名語とは区別します。
- レヴァニ
- オスマン料理の圏内に広まったシロップ入りの菓子。卵を使うものもあります。
- タスビフ
- エジプトの菓子作りを紹介するCleobutteraの作り手。
- バス(bas)
- 粉やセモリナを油脂と擦り合わせる動作に結び付く語。







