Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ベビンカ
Bebinca
ココナッツと卵黄を、一層ずつ焼き重ねる
ケーキ / インド・ゴア

ベビンカ(Bebinca)は、インド西岸のゴアに伝わる、卵黄とココナッツミルクの層状菓子です。切り口には淡い生地と褐色の焼き面が交互に現れます。1つの型へ生地を少量ずつ流し、その都度表面を焼き、新しい生地を重ねることで層を作ります。ビビク(bibik)とも呼ばれ、bebinkaと綴ることもあります。
別々の焼き面が、縞模様になる
卵黄、砂糖、ココナッツミルク、小麦粉を混ぜた生地が基本です。ギーを塗った型に薄く流し、表面が色付いたら、再びギーと生地を加えます。1層を焼き、その上へ次を流すことを、望む層数まで繰り返します。ギーは水分や乳固形分を除いた乳脂肪です。生地そのものの油脂とは別に、層の間にも加えられます。
ゴアの料理人ヴァルン・イナムダルが祖母から受け継いだ作り方では、卵黄をクリーム状にほぐしながらも、泡立てて膨らませることは避けます。生地を薄く流し、上火のグリルで表面が黄金色になるまで焼きます。次の生地を入れる前に焼き面ができているため、完成した断面には、それまで何度も焼いてきた境目が残ります。
このルセット(材料の配合と作り方)では、約0.5センチの薄い層を目安とします。家庭によって、層の厚みや火加減には違いがあります。層数も7層から16層など幅があり、イナムダルの家では16層が受け継がれていました。層を増やすには、生地を流す回数だけでなく、表面の焼け具合を見て待つ回数も増えます。
伝統的には、最初の層を鍋の下から加熱し、次の層からは蓋の上でココナッツの殻などを燃やして焼く方法があります。2008年のゴアの家庭料理の記録にも、底をまず固め、以後は上火を生かす順序が記されています。現在は上火を使えるオーブンやサラマンダーでも作られます。何度も新しい表面を焼く製法には、上からの熱が深く関わっています。ナツメグやカルダモンを添える作り方もあり、ココナッツミルク、卵黄、糖、ギーの濃い風味に、家庭ごとの香りが加わります。
修道女ベビアナの名とともに伝わる物語
ベビンカの由来には、オールド・ゴアのサンタ・モニカ修道院が登場します。修道女ベビアナが、衣服を整えるのに卵白を使った後、残る卵黄を無駄にせず菓子へ利用し、ココナッツミルクとギーを加えた層状のプディングを考えた、という伝承です。ベビンカの名も、彼女の名前に結び付けて語られます。
別の語りには、最初の7層が、リスボンとオールド・ゴアの7つの丘を表したという話があります。修道女が司祭へ供したところ、小さすぎると言われて層を増やした、と続きます。7層からさらに層を重ねる菓子について、層数の由来を説明する口承です。
サンタ・モニカにあるキリスト教美術館は、菓子を学ぶ催しでもこの話を口承として伝えています。修道院の歴史と、修道女に帰される菓子の物語が、今も同じ場所で受け継がれているのです。
同じ名でも、層を持たないベビンカ
ベビンカの名は、ゴア以外にも異なる形で伝わっています。マカオのベビンカ・デ・レイテ(bebinca de leite)は、乳を使って焼くカスタードです。ベビンカ・デ・イニャーミ(bebinca de inhame)と呼ばれるタロイモのケーキもあり、どちらも層を重ねません。ゴアにも、マッシュポテトを使って1層に焼くものが知られています。また、乳と米粉、ココナッツミルクをいったん加熱し、冷まして卵黄を合わせ、1層で焼く乳を使ったものもあります。穀粉や芋、乳の使い方、重ね焼きの有無によって、同じ名の下に異なる菓子があります。
東ティモールにもベビンカが伝わりますが、ゴアとどちらが先か、どちらから伝わったかは明らかではありません。フィリピンのビビンカなども近い名を持ちます。こうした菓子の関連は、植民地期の人々の往来を背景に論じられています。
ゴアの祝いを支える手間
ベビンカは、卵黄を多く使うポルトガル系の製菓文化と、ココナッツを使うゴアの食材が結び付いた菓子として知られています。クリスマスや婚礼などの祝いに並び、家ごとに作り方が受け継がれます。切り分けた1片には、卵黄を混ぜ、薄く流し、焼けるまで待ち、また流すという作業が繰り返されています。焼き面の縞模様は、飾りで加えた線ではなく、その製法が残した形です。
用語解説
- ビビク(bibik)
- ゴアで使われるベビンカの別名。
- ギー
- 水分や乳固形分を除いた乳脂肪。ベビンカでは型や各層の間にも使います。
- ヴァルン・イナムダル
- 祖母から受け継いだ16層のベビンカの作り方を公表している料理人。
- サラマンダー
- 上からの強い熱で表面を焼く調理機器。
- ベビアナ
- サンタ・モニカ修道院でベビンカを作ったと語られる修道女。人物と菓子の結び付きは口承として伝わります。
- サンタ・モニカ修道院
- オールド・ゴアの修道院。ベビンカの起源伝承に登場し、現在のキリスト教美術館の活動とも関わります。
- ベビンカ・デ・レイテ(bebinca de leite)
- マカオで作られる、層を重ねない焼き乳カスタード。
- ベビンカ・デ・イニャーミ(bebinca de inhame)
- マカオでベビンカの名を持つ、層を重ねないタロイモのケーキ。







