Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

マアムール
Maamoul
模様のある生地にデーツやナッツを包む祝いの菓子
焼き菓子 / 中東

彫り模様のある丸やドーム、楕円を割ると、デーツや木の実の中身が現れます。中東のマアムールは、皮と詰め物を別々に作り、一個ずつ包んで焼く菓子です。ほろりと崩れる皮の中に、ねっとりした果実、または刻んだナッツを閉じ込めます。まとまった数を家族で作り分ける手仕事は、断食明けや復活祭の来客を迎える準備でもあります。
油脂を含む粒と、模様を付ける型
皮の粉はセモリナだけ、または小麦粉との併用で、バターやギーを使います。セモリナ、小麦粉、バター、膨張剤をそぼろ状に合わせて12時間以上置き、後から乳を加えるルセット(材料の配合と作り方)も、セモリナと油脂を4時間休ませてから、ローズウォーター、オレンジ花水、ギーを加える型もあります。先に粉と油脂をなじませることが、皮を作る独立した工程になっています。
まとまりのあるデーツペーストと、糖や香辛料を混ぜた刻みナッツでは、包むときの中身の状態が違います。粒の角で皮を破らない厚みを保ち、口を閉じてから木型へ押せば、外側に彫り模様が移ります。フォークで線を付けることもあり、形を変えれば詰めた中身の目印にもなります。どの形へ何を包むかは、作り手ごとの取り決めです。
花の水は皮の香りを担い、デーツ、クルミ、ピスタチオの持ち味へ重なります。甘さも皮だけで完結せず、詰め物と焼成後の粉糖へ分かれています。
同じ皮を、天板の三層へ広げる
マアムール・マッドは一個ずつ包まず、下の生地、デーツやピスタチオなどの中身、上の生地を天板へ重ねます。焼く前に切り込みとフォーク模様を付け、焼いて十分に冷ましてから四角く分けます。型を押して一個を外す仕事から、上下の皮で大きな層を囲む仕事へ変わります。
パレスチナのヘブロンでマナル・イスマイルが伝えるダフダフも、家ではこの仲間として作られる天板菓子です。セモリナと小麦粉の皮の間に、セモリナ、クルミ、ココナツ、シナモンを入れ、焼いた後に糖液を注ぎます。切り分ける形は近くても、ナッツだけでなく穀物も中身に入れ、最後に蜜を含ませる点で違います。
卵入りの小麦粉の皮、チーズを包む皮
サウジアラビア西部には、セモリナを使わず、小麦粉、バター、トウモロコシ油、全卵、粉乳で作る型があります。バターと油を攪拌し、卵を一個ずつ加えてから粉類を混ぜ、デーツにカルダモン、フェンネル、アニスを合わせます。先に穀物の粒へ油脂を吸わせる型とは、粉も、卵も、混ぜる順序も異なります。
シリアのラタキアやスレンフェに結び付くチーズ入りでは、セモリナと小麦粉へ油脂を含ませて冷蔵し、乳とオレンジ花水でまとめます。無塩モッツァレッラや塩抜きアッカウィを包み、成形後も冷やしてから焼き、粉糖やピスタチオを添えます。二度冷やす皮の中に、炉で柔らかくなる乳製品を置く家庭の型です。
焼いた後に泡の甘味を合わせるのが、レバノン系家庭のカラビージです。ニナ・ドベシュのルセットでは、ピスタチオ入りの菓子にローズウォーターのメレンゲを添えます。油脂を含む皮と木の実の中身に、別に作った軽い泡を組み合わせます。
1883年の菓子と、1895年の名前
1883年刊、カルロ・ランドベルクのシドン地方の言葉と暮らしの記録には、معمول の名の菓子が載ります。セモリナとバターを使い、木の実と糖、またはデーツのペーストを詰め、表面へ模様を付けるものです。家庭で作る機会として、復活祭、謝肉祭、イスラムの大祭が挙げられています。皮、中身、飾り、作る日の組合せが、19世紀の記述にも見えます。
Maʿmūl は、アラビア語の「する・作る」を表す عمل に関わり、「作られたもの」という意味の語形です。ソクラテス・スピロの1895年のエジプト口語アラビア語辞典も、同じ項目へ「作られた、製造された」と「シリアのケーキの一種」を並べます。シドンの具体的な作り方に続き、エジプトの辞書にも地方を越えた菓子の名として残りました。
より古い詰め菓子の仲間には、カハクがあります。食文化研究者ナワル・ナスラッラーが説明する中世のカハクは、馬やラクダの旅人が持ち運び、何週間も保存する食べ物でした。現在のエジプトのカハクにはセモリナを使わない違いもあります。彼女が古代メソポタミアのデーツ菓子との間に見るのは、祝いへ詰め菓子を作る機能のつながりです。名や配合が同じまま続いた一本道とは区別されます。
親族で作り、異なる祝祭へ分ける
イードや復活祭の前には、生地、餡、成形、焼成を家族で分担します。料理人サミ・タミミは、親族が輪になり、それぞれの仕事を担ったと回想しています。来客のためだけでなく、親類や友人へ分けるためにも数をそろえるので、菓子を成形する時間そのものが家族の集まる機会になります。店では年中作られ、中東にルーツを持つ国外のベーカリーにも受け継がれています。
ユダヤ系の家庭にも、別の祝いの暦があります。ナスラッラーが挙げるプリム、ANUユダヤ民族博物館に残るモロッコ系家庭のミムーナと仮庵祭の来客用、カライ派家庭のデーツ入り。親しい人を迎える詰め菓子が、それぞれの家で作られます。
サマリア人も仮庵祭にマアムールを食べます。共同体の料理書に描かれるのは、聖なる山から下り、家族の仮庵のそばで食卓を囲む場面です。焼き菓子にはマアムールのほか、胡麻とアニスの菓子、バクラヴァも並びます。共通する一個はあっても、家族の集まり方と祝日の意味は、異なる共同体の暮らしの中にあります。
用語解説
- カルロ・ランドベルク
- シリア・レバノン地域などの方言を研究したスウェーデンの東洋学者。1883年刊のシドン地方の言葉と暮らしの記録にマアムールを記した。
- マナル・イスマイル
- ヘブロンの家庭のダフダフを食文化機関Asifへ伝えた作り手。
- サマリア人
- 古代イスラエルに起源を持つ独自の宗教共同体。カライ派とは別で、仮庵祭にも固有の食卓を持つ。
- ソクラテス・スピロ
- 19世紀末にエジプト口語アラビア語の辞書を編纂した著者。 カハク:エジプトなどの菓子。マアムールと近い詰め菓子の歴史を持つ。
- セモリナ
- 小麦などを粗く挽いた穀粉。マアムールでは外皮を作る粉の一つ。
- ギー
- バターから水分や乳固形分を除いた油脂。
- デーツ
- ナツメヤシの果実。マアムールではペーストにした詰め物がよく使われる。
- イード
- イスラムの祝祭。断食月明けなど、祝いに向けて菓子を作る習慣がある。
- マアムール・マッド
- 生地と詰め物を大きな型の中で層にして焼き、切り分ける形式。
- ダフダフ
- ヘブロンなどに伝わるセモリナの層状菓子。Asifに掲載された家庭ルセットは焼き上げ後に糖液を含ませる。
- カラビージ
- 木の実を包む近縁の菓子。泡状の甘い仕上げを添える地域・家庭の型がある。
- サミ・タミミ
- 料理書『Falastin』の共著者。親族でマアムールを作る共同作業の回想を伝えた料理人。
- カルダモン/フェンネル/アニス
- それぞれ異なる甘く爽やかな香りを持つ香辛料。サウジのデーツ入り型では併用される。
- アッカウィ
- 東地中海地域の白いチーズ。塩漬け品は塩抜きして菓子に使う型がある。
- ナワル・ナスラッラー
- イラクの食文化研究者。詰め菓子の語源と歴史についてSmithsonianの取材に答えた。
- カライ派
- ユダヤ教の一派。ANU博物館の資料には、この共同体の家庭に伝わるマアムールのルセットがある。
- ニナ・ドベシュ
- ANU博物館の食文化資料に家庭のカラビージを伝えた作り手。







