Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

メルヴェイユ
Merveilleux
乾いたメレンゲを、泡立てたクリームとチョコで包む
ケーキ / ベルギー・フランス北部

乾いたメレンゲをクリームでつなぎ、外にも塗って、削ったチョコレートの薄片をまとわせる。ベルギーと北フランスのメルヴェイユは、卵白の泡と乳やバターのクリームを重ねる菓子です。一人分から大きな切り分け型まであり、乾いた芯が崩れ、クリームがほどけ、薄片が割れて溶けるという、三つの感触を一つにします。
芯と外側へ、クリームを置く
円盤や半球のメレンゲ二枚をつなぎ、上と側面も覆うと、白い芯は不規則なチョコレートの層へ隠れます。接した部分には乳から水分が移り、柔らかな境目と、芯の歯切れが残ります。乾いたメレンゲの保存と、生クリームをまとった完成品の保存は分かれます。ヴォーカンの専門店はミニ型を各店で手作りし、購入後は冷蔵して24時間以内に食べるよう勧めています。組んでから食べるまでの時間も、菓子の仕上がりの一部です。
ベルギーには、糖やバニラで泡立てた乳のクリームを使い、砂糖漬けチェリーを飾る型があります。ショコラティエのピエール・マルコリーニは、母の日曜の菓子として、二つのメレンゲ、バニラの泡立てクリーム、たっぷりの削りチョコレートを回想します。
北フランスには、チョコレートのバタークリームで球や半球へ組む「ブール・ショコ」などの近い菓子もあり、乳の泡よりこくのある口どけになります。今も両方のクリームを選ぶ職人がいます。
アストリッド王妃に贈った名という伝承
メヘレン周辺では、メレンゲと泡立てクリームの菓子をアストリッチェ(Astridje)とも呼びます。地元のエリック・クレーヴは、織物工房を訪れたアストリッド王妃が気に入り、製菓店ヴァン・アイトヴェンがその名を付ける許しを求めたと伝えます。
これは地元に残る献名の伝承です。現在もベルギーの菓子店にアストリッチェの名が並び、王妃を思わせる呼び名が受け継がれています。
ヴォーカンが替えた、泡と焼き方
フレデリック・ヴォーカンは、1980年代に地域の菓子を作り直しました。バタークリームをシャンティイへ替え、泡立てた卵白へ熱い糖液を注ぐイタリアンメレンゲと、二段階の焼成で、歯触りと口どけを調整します。軽い材料へ替えるだけでなく、泡を作る段階からの改作です。
1990年代後半にはリールの店を「オ・メルヴェイユ・ドゥ・フレッド」と名付け、海外へも広がりました。本人は発明者を名乗らず、以前からの菓子を自分のルセット(材料の配合と作り方)で広めたとしています。アズブルックにも、メゾン・ムイユからパティスリー・プリュムへつながる店の伝統があります。
味と層を替える、現代の仕立て
コーヒーやスペキュロスのクリーム、白いチョコレートの薄片、果実やナッツを合わせる型があります。マルコリーニの現代の一型は、メレンゲ上へチョコレートの円盤を置き、クリームの内側に果実やプラリネを隠します。二枚を貼る形から変わっても、乾いた芯、滑らかな中身、チョコレートの対比が残ります。
Merveilleux は「すばらしい」の意です。アストリッチェ、ブール・ショコのように、土地や仕立てによっても呼び名が変わります。ヴォーカンの店が「アンコワイヤーブル」などの名や装飾へ取り入れるのは、18世紀末の総裁政府時代の流行です。店が選ぶ意匠であって、菓子全体の誕生年代ではありません。
ベルギーで育った職人が、子供時代の日曜の味をニューヨークで作った例もあります。祝いだけでなく、食後や午後に選ぶ一個として、土地の記憶と泡の菓子は国境を越えています。
用語解説
- アストリッド王妃
- 20世紀前半のベルギー王妃。メヘレンの菓子の献名伝承に登場する。
- エリック・クレーヴ
- メヘレン周辺の地域の菓子とアストリッド王妃の伝承を紹介した地元の語り手。
- メレンゲ
- 卵白と砂糖で作る泡。この菓子では焼いたものを芯に使います。
- シャンティイ
- 砂糖を加えて泡立てた乳のクリーム。
- イタリアンメレンゲ
- 卵白の泡へ煮詰めた熱い糖液を注ぐ方式。
- フレデリック・ヴォーカン
- 北フランスの菓子職人。地域のメルヴェイユを改作し、専門店を展開しました。
- ピエール・マルコリーニ
- ベルギーの菓子職人・ショコラティエ。メルヴェイユの独自の型も作っています。
- スペキュロス
- 香辛料を使う薄い焼き菓子。砕いたものやペーストがクリームの風味付けにも使われます。
- プラリネ
- 砂糖とナッツを合わせて作る菓子材料。ペーストなどにして使います。
- 総裁政府
- フランス革命後、1795〜1799年のフランスの政治体制。
- アストリッチェ
- ベルギー・メヘレン周辺でメルヴェイユに用いる呼称。アストリッド王妃への献名の話は伝わるが、許可状は未確認。







