Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

モーンツェルテン
Mohnzelten
じゃがいもの皮に、けしの実をぎっしり
焼き菓子 / オーストリア・ヴァルトフィアテル

じゃがいもを練った皮の中に、挽いたけしの濃い餡。オーストリア北部ヴァルトフィアテルのモーンツェルテンは、包んでから平たくし、両面へ焼き色を付ける菓子です。小麦粉とバターだけの皮とは違う柔らかな縁が、密な中身を囲みます。農家の働く日の携帯食でも、クリスマス・イヴなどの祝いの品でもありました。
じゃがいもは具でなく、皮になる
ゆでて冷ましたじゃがいもを細かくおろし、粉とバターをなじませたものへ、卵やクリームなどと合わせます。サワークリームと卵黄の型も、全卵の型もあり、ベーキングパウダーを使う配合もあります。大きな角切りを残さず皮へ混ぜることで、薄く広げて餡を包めます。
Mohn はけしの実。粉に挽いた実へ糖や溶かしバターを合わせ、ラム、シナモン、バニラを香らせ、蜂蜜やジャムを加える型もあります。種を少し表面へ散らすのでなく、餡そのものの量感をけしが担います。温バターに種と糖を混ぜ、冷まして使う方法もあります。
丸く広げた皮へ餡を置き、寄せて閉じ、押して円盤へします。フォークで穴や模様を付け、焼く途中で返します。厚い餡を受ける両側へ、香ばしい面を作る工程です。
平たい形の名と、底の印
ツェルテン(Zelten)は平たい菓子に由来し、オーストリアでは果実や種を混ぜるもの、それらを包むものへ使われ、果実パンを指す場合もあります。「モーン」が加わると、その中のけしの菓子になります。
一部の作り手は、底にキリストを表す「IHS」を押します。この菓子に特有の儀礼を示すというより、古くからの作り方を思わせる印として用います。
1280年に記されたのは、畑のけし
ヴァルトフィアテルのけしは、13世紀の地代や十分の一税の記録にも見え、1280年のツヴェットル修道院の土地台帳も挙げられます。油にも使われ、地域は灰色のけしの産地として知られました。ただしこれは栽培の記録で、じゃがいも皮のルセット(材料の配合と作り方)ではありません。
南米から渡ったじゃがいもの当地での歴史は、別です。農林省の解説には、現在のニーダーエスターライヒの17世紀の修道院栽培と、18世紀ヴァルトフィアテルの栽培奨励があります。けしが中世の畑にあったのに対し、じゃがいもを皮に使う現在の形は、その伝来と栽培の広がりより後のものです。皮に使い始めた正確な年は伝わっていません。
農家から、市場と冬のパン店へ
土地のけしとじゃがいもを合わせる一個は、森の伐採や畑仕事へ持っていく食べ物にもなりました。祝日の卓に焼く一方で、持ち運んで働く日の食事にする、二つの居場所があります。
第二次大戦後には、手間の掛かるけし栽培が減りますが、1980年ごろから地域の取組みで見直されました。現在は市場やパン店でも作り、特にクリスマス期に店頭へ並びます。
用語解説
- ヴァルトフィアテル
- オーストリア北部、ニーダーエスターライヒ州の地方。
- けしの実
- 食品に使う小さな種子。製菓では挽いて餡にすることも多くあります。
- サワークリーム
- 乳を発酵させた、酸味のあるクリーム。
- IHS
- キリストを表す文字の組み合わせ。一部のモーンツェルテンでは底へ刻印します。
- 土地台帳
- 土地と、その所有や負担すべき地代などを記した記録。







