Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ナーネ・ベレンジ
Nan-e Berenji
ケルマーンシャーから、別の町の新年へ
焼き菓子 / イラン・ケルマーンシャー

ナーネ・ベレンジ(Nan-e Berenji、نان برنجی)は、米粉を使ったイランのクッキーである。小さな円盤の表面に模様を押し、黒い種や細かいピスタチオをあしらう。持つと崩れやすく、噛むとほろほろとほどける生地に、バラ水やカルダモンの香りが重なる。イラン西部のケルマーンシャーを代表する土産として知られ、ノウルーズの菓子にも数えられる。
名前を直訳すると「米のパン」に当たるが、日々の食事に添えるパンを想像すると、この菓子の性格を捉えにくい。ここでの「ナーン」は菓子の名称の一部として使われている。生地を作るのは炊いた米粒ではなく、細かく挽いた米粉である。
ケルマーンシャーから、別の町の新年へ

ケルマーンシャーのバザールにある菓子店。焼き菓子が形や大きさごとに箱へ並び、手前には花模様を押した小さな菓子が見える。
写真・図版:mehdi hosseini/CC BY 3.0/原図。Commonsの縮小配信。切り抜き・色調整なし。
ケルマーンシャーの名物である一方、カズヴィーンやシーラーズにも名高いナーネ・ベレンジがある。白っぽく仕上げるものだけでなく、サフランを加えて黄色くするものもある。学術的なイランの食品解説には、サフラン入りの生地にアーモンドと砂糖を詰め、指ぬきで模様を押す「太陽のクッキー」、コルセ・ホルシードという変種も記されている。米粉のクッキーという共通の骨格から、色、餡、形を変える幅が生まれている。
土産の箱に詰めるものと、新年に小さく焼いて客へ供するものでは、大きさや飾り方も変わる。名産地の菓子を持ち帰る旅の習慣と、家庭の新年のもてなしの両方の中で、米粉のクッキーが受け継がれている。
細かな粉と、崩れやすい生地

ケルマーンシャーの菓子店で扱うナーネ・ベレンジの生地。店の作業台には、成形前の大きな塊と小さく分けた生地が並ぶ。
写真・図版:mehdi hosseini/CC BY 3.0/原図。Commonsの縮小配信。切り抜き・色調整なし。
基本となる材料は米粉、砂糖、油脂、卵、香りの材料である。小麦粉のクッキーのような弾力のある生地にはならず、細かな粉と油脂が、短く崩れる食感を作る。生地の口当たりには、粉の細かさとふるう工程が関わる。イランのクッキー作りでは、米粉やひよこ豆粉を細かなふるいや布でふるう方法が記録されている。
現代の家庭向けルセット(材料の配合と作り方)には、生地を冷蔵で休ませ、米粉に水分を行き渡らせるものもある。ただし、すべての菓子で冷蔵が必要というわけではない。
油脂には、ケルマーンシャーの乳由来の油脂やギーを使うものがある。一方、固形油脂などを使う家庭の作り方もある。米粉だけを使うものに加え、小麦粉を併用するものもある。2020年に発表されたイランの伝統菓子の調査では、ヤズドとケルマーンシャーのナーネ・ベレンジの材料に、米粉と小麦粉の両方が挙げられている。
指ぬきから木のスタンプへ
表面の小さな模様は、焼いた後に彫るのではなく、生地を成形した時に押して付ける。伝統的には、小さく取った生地を手のひらで平たくし、指ぬきで跡を付ける方法があった。木製の専用道具を使う方法や、生地を伸ばして型で抜く方法も記録されている。店で売る品は、家庭の小さなものより大きい場合もある。
仕上げにはピスタチオの粉や黒い種を散らす。黒い粒については、ケシの実と記す資料と、シヤーダーネすなわちニゲラを使うとする資料があり、同じ材料とみなすことはできない。模様と種の散らし方は、淡い焼き色の表面を見分ける小さな手掛かりになる。
焼き上がった生地はもろいため、土産としての包装にも工夫が要る。紙を間に挟み、木箱に入れる方法が記録されている。日持ちする土産であることと、衝撃に強いことは別であり、薄い紙で層を分ける扱いは、繊細な生地の性質に対応している。
左は円盤の表面に模様を押す段階、右は焼いた生地の割れやすさを抽象化した断面。道具の寸法や米粉・小麦粉の配合は示さない。 模式図であり実寸ではない。 図:Sweetlore独自作図。
用語解説
- ノウルーズ
- 春分に迎えるイランなどの新年。ナーネ・ベレンジなどの菓子を用意する。
- ギー
- バターから水分と乳固形分を除いた油脂。
- シヤーダーネ
- ペルシャ語でニゲラの種を指す呼称。ケシの実とは別のもの。
- ニゲラ
- キンポウゲ科の植物。黒い種子を食品の香味付けに使う。
- コルセ・ホルシード
- 「太陽のクッキー」の名を持つ米粉菓子の変種。サフラン入り生地にアーモンドと砂糖を包むものが記録される。







