Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

ポンプ・ア・リュイル
Pompe à l’huile
ポンプ・ア・リュイルの材料と製法
発酵菓子 / フランス・プロヴァンス

ポンプ・ア・リュイル(Pompe à l’huile)は、オリーブオイルを練り込んだプロヴァンスの甘い発酵菓子です。平たく延ばした生地に切れ目を入れて焼き、オレンジの花や柑橘の皮などで香りを付けます。クリスマスの食卓に並ぶ「13のデザート」の一つとして知られます。
オリーブオイルで仕込む生地
ヴァール地方の農家の女性たちがまとめた作り方では、小麦粉、パン酵母、オリーブオイル、砂糖に、アニスの粒、オレンジの花の水、オレンジの皮を合わせます。生地をこね、布をかけて暖かいところで休ませます。大きくふくらんだら平たく延ばし、もう一度休ませ、焼く前に切れ目を入れます。油脂にはバターではなくオリーブオイルを使い、その香りを生地に含ませます。
エクス=アン=プロヴァンスの観光局が紹介する作り方は、酵母と小麦粉の一部をぬるま湯で合わせ、先に発酵させてから、残りの粉と油、レモンとオレンジの皮を加えます。焼き上がりにもオリーブオイルを塗ります。オレンジの花やアニスを使うものだけでなく、柑橘の皮を使うものもあり、香りは一つに決まりません。
生地を休ませてふくらませる工程が、焼き上がった内側の柔らかさにつながります。同じオリーブオイル、小麦粉、砂糖を使っても、カリッと砕ける焼き菓子とは違う、パンに近い食べ心地になります。
ジバシエと呼ばれる菓子
プロヴァンスには、ジバシエ(gibassier、gibassié)というオリーブオイルの菓子もあります。オーバーニュ地方の紹介では、ポンプは柔らかな発酵生地、ジバシエはより乾いて、ほろりと崩れる生地として区別されています。ジバシエにはアニス、フェンネル、砂糖漬けのオレンジの皮で香りを付けるものもあります。
ただし、呼び名の境界は土地や店によって一定ではありません。国の観光案内では、エクスの菓子職人ピエール・ピアンティーノの、酵母を使わないジバシエも、ポンプ・ア・リュイルに結び付けて紹介されています。どちらも油を含む平たい菓子ですが、名前だけではなく、発酵の有無や生地の食感にも、土地や作り手による違いがあります。
クリスマスの食卓で分ける
プロヴァンスのクリスマス前夜には、「グロ・スープェ」と呼ぶ食事が用意され、その食卓に菓子や果物が並びます。ポンプのほか、乾燥果実、ナッツ、冬の果物、ヌガーなどを取り合わせます。13という数は、キリストと12人の使徒に結び付けられます。すべての家庭が、同じ13品を選ぶわけではありません。
オーバーニュ地方のクリスマスの紹介では、ポンプはヴァン・キュイと呼ぶ甘いワインとともに食べられます。オーバーニュには、ナイフで切らず、手でちぎって分ける習わしも伝わります。クリスマスの夜に分けた菓子を、翌朝の朝食でも食べる家があります。大きく焼く平たい形は、食卓の人たちで分ける食べ方にも合っています。
古い食卓と「13」という数
多くの甘味をクリスマスに並べる習慣と、品数を13と決める習慣の歴史は同じではありません。フランスの無形文化遺産調査は、13を重んじる記述が現れるのは1920年代ごろとし、1925年に医師で郷土文芸の書き手でもあったジョゼフ・ファランが、新聞『ラ・ピニャト』で13品をそろえるよう述べた例を挙げています。
詩人フレデリック・ミストラルの時代にも、ポンプやヌガーはクリスマスの大切な食べ物でした。一方、13という数と品目の取り合わせは、20世紀の間に地域や家庭の違いを伴いながら広まったものです。古くから作られてきた菓子に、後に広まった「13品をそろえる」という祝い方が加わり、今の食卓へ受け継がれています。
用語解説
- ピエール・ピアンティーノ
- エクスの菓子職人。酵母を使わないジバシエを作る。
- 13のデザート
- プロヴァンスのクリスマスに並べる菓子や果物の取り合わせ。品目には地域や家庭による違いがある。
- ジバシエ
- プロヴァンスのオリーブオイルを使う菓子。乾いてほろりとした生地のものがあるが、呼び名や製法には幅がある。
- グロ・スープェ
- プロヴァンスのクリスマス前夜の食事を指す呼び名。
- ヴァン・キュイ
- ポンプなどの甘味に添える、プロヴァンスの甘いワイン。
- ジョゼフ・ファラン
- オーバーニュの医師・郷土文芸の書き手。1925年のクリスマス記事で13の甘味に言及した。
- フレデリック・ミストラル
- プロヴァンスの詩人。クリスマスの食卓の記憶を残した。







