Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

プディング・ショムール
Pouding chômeur
甘いソースと一緒に焼く、ケベックの温かな菓子
ケーキ / カナダ・ケベック

同じ器の中で、生地は上へ膨らみ、甘い液は底に残ります。ケベックのプディング・ショムールは、焼けた部分とソースを吸った部分を一緒にすくう菓子です。「ショムール」は失業者の意。大恐慌期の女性たちの工夫として語られますが、現在は褐色糖、メープル、濃いクリームを選ぶ多くの型があります。
生地とソースは別々に用意する
生地は、小麦粉、バター、砂糖、卵、牛乳、ベーキングパウダーなどを合わせる簡潔なケーキです。柔らかいバターと砂糖をすり混ぜ、卵を加え、粉類と牛乳を合わせます。粉を入れてからは混ぜすぎず、滑らかにまとまるところで止めます。
ソースは別に用意します。褐色の砂糖であるカソナードと水を中心にする型、クリームを加える型、メープルシロップを使う型などがあります。初めから生地へ均一に練り込まず、焼く器の中で二つの部分を重ねることが、この菓子の構成です。
液体の上へ生地を落とす
褐色糖の配合例では、深さのある型の中でカソナード、水、クリームを混ぜ、その上へスプーンで生地を少しずつ置きます。焼くと生地が膨らんでつながり、上はケーキ、下は甘いソースの層になります。
メープルとクリームの型では、ソースを鍋で一度沸かし、深い耐熱の器へ注いでから生地を落とします。35%クリームをたっぷり使う配合は、カエデの香りに乳脂肪の厚みが重なる、濃厚な仕上がりです。
順序を逆に、糖液を上から注ぐ
順序を逆にして、型へ生地を敷き、その上からソースを注ぐ方法もあります。ソースにクリームを使わないルセット(材料の配合と作り方)では、メープルシロップと水を煮て少し濃くし、火から下ろしてバターを溶かすものです。先に広げたケーキ生地へ、スプーンの背を使って静かにソースを注ぎます。
メープルと水、バターだけでも、ケーキへ添う流れる層を作れます。上から注いだ糖液は焼成中に生地の周囲や下へ回り、表面には焼けた生地が残ります。入れる順序が違っても、焼いたケーキと器の底のソースを一緒に取り分ける仕立ては共通します。
全卵に卵黄も加えた生地へ、メープル、褐色糖、水の熱いソースを注ぐ型もあります。総督府リドー・ホールの厨房に伝わる配合で、二つの糖を合わせ、卵黄を増やして生地も豊かにしています。
サワークリームと、糖の香りの作り分け
甘さの材料が変わると、ソースの香りも変わります。カソナードの型は糖蜜を含む褐色糖の風味、メープルの型は煮詰めた樹液の香りが中心です。焼いた後にシロップをかけるだけでなく、加熱中から生地と糖液が触れ合い、底に近い部分ほどしっとりします。
サワークリームとカソナードを混ぜ、生地へかぶせて焼く型もあります。ジェハーヌ・ブノワの名で伝わるルセットでは、生地を甘くするのにコーンシロップを使い、乳の酸味を持つソースと組み合わせます。同じ名称の中で、糖の種類だけでなく、乳をどう使うかにも家庭の違いがあります。
底の蜜は流れるまま、生地だけを焼き上げる
焼成中はソースが泡立つため、ある程度深い器を使い、必要に応じて下に天板を置きます。中央の生地へ串を刺し、生の生地が付かなくなるところまで焼きます。底の糖液まで乾かすのではなく、流れるソースを残します。
焼いた後は少し休ませ、熱い糖液を落ち着かせてからすくいます。褐色糖のルセットには15分、博物館のルセットには5分の休ませ時間があります。温かく供すほか、冷まして食べる型もあり、アイスクリームや追加のクリームを添える食べ方もあります。
家計を支える女性たちと、市長の妻の物語
「失業者」という名は、仕事を失う世帯が増えた大恐慌期の暮らしに結びつきます。1929年を背景に、女性たちが粉、油脂、乳、褐色糖で簡潔な甘味を作った工夫として語り継がれました。最初の一台を焼いた人物や日は定まっていません。
別の伝承では、モントリオール市長カミリアン・ウードの妻ジョルジアナ・ファラルドーが、失職した労働者を家族が元気づけられるよう、安価な材料で考えたといいます。地域史家ジャン=マルク・アガトールはこの話を紹介しながら、一人の発明とするより、労働者の妻たちの工夫も考えるべきではないかと問い直しています。
春の製糖小屋の甘い締めくくり
褐色糖を水へ溶かす簡潔な型から、メープルと濃いクリームを選ぶ型まで、今の菓子には材料を選ぶ幅があります。春の製糖小屋では、豆料理、ハム、肉のパイに続く甘味としても登場します。底の蜜を生地と一緒にすくう一皿が、家の食卓にも季節の集まりにも受け継がれています。
用語解説
- ジャン=マルク・アガトール
- フランス語圏の北米の歴史を紹介する著者。市長夫人の発明伝承を留保付きで論じた。
- カミリアン・ウード/ジョルジアナ・ファラルドー
- モントリオール市長とその妻。夫人はこの菓子の創作伝承に登場する。
- リドー・ホール
- オタワにあるカナダ総督の公邸。厨房のメープル型のルセットが公開されている。
- ショムール
- フランス語で失業者。
- カソナード
- ケベックの料理で使われる褐色の砂糖。
- メープルシロップ
- カエデの樹液を煮詰めた糖液。
- ベーキングパウダー
- 生地の中で気体を発生させ、膨らませる膨張剤。
- サワークリーム
- 乳酸発酵による酸味を持つクリーム。
- ジェハーヌ・ブノワ
- 20世紀に料理書や放送を通じてカナダの家庭料理を伝えた料理家。
- カバーヌ・ア・シュクル
- カエデ樹液を煮詰める製糖小屋。採取期には伝統料理を提供する場にもなる。







