Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

プティチエ・モロコ
Ptichye moloko
チョコレートの殻と軽い中身
ケーキ / ロシアなど旧ソ連圏

薄いチョコレートの殻を割ると、白く軽い泡の層が現れます。プティチエ・モロコは、ロシア語で「鳥のミルク」を意味する菓子です。一粒ずつチョコレートで包んだものと、泡の層を厚く重ねたケーキがあります。どちらも濃い外側と淡い中身の対比が持ち味です。
泡立てた生地を冷やし固める
ケーキの一例では、バターと練乳を合わせたクリームに、泡立てた卵白と、砂糖・寒天を煮たシロップを組み合わせます。卵白に抱き込まれた空気が軽さを作り、寒天が冷えた層に形を与え、バターと練乳が豊かなミルクの風味を添えます。焼いた生地と重ねてチョコレートをかけると、切り口には厚い白い層が見えます。
この層はスフレと呼ばれますが、オーブンで膨らませて熱いうちに食べるスフレとは異なります。泡立てたものを冷やし固める作り方です。家庭ではゼラチンや生クリームを使う例もあり、配合によって口当たりは変わります。ある家庭の作り方では、サワークリームとホイップをゼラチンで固め、薄いココアの層を重ねます。焼いた生地も卵白も使わず、器の中で冷やして作る例です。寒天とゼラチンは、どちらも液体を冷やして固めますが、固まる温度や溶ける温度が異なります。寒天のゲルは口の温度では溶けにくく、ゼラチンのゲルはそれに近い温度で溶けます。実際のスフレの食感は、ゲル化剤だけでなく、泡や脂肪、砂糖の量にも左右されます。
ポーランドとウラジオストクの一粒菓子
ポーランドには、同じ意味の名を持つプタシェ・ムレチコ(Ptasie Mleczko)があります。ワルシャワのE. Wedel社は1936年に、柔らかな泡状の中心をチョコレートで覆った菓子を発売しました。同社の沿革では、経営者ヤン・ヴェデルがフランスへの旅に着想を得たと伝えています。はじめはバニラ味で、後にレモンやチョコレートなどの味も加わります。現在のウェデル社のバニラ味には、ミルクと寒天が使われています。
ウラジオストクの製菓工場では、1967年の年次報告に「鳥のミルク」の菓子が記されています。沿海地方の公文書館は、そのルセット(材料の配合と作り方)の考案を製菓技術者アンナ・チュルコワに帰しています。同工場には1930年代から寒天を製造してきた歴史があり、海藻から得る寒天は泡菓子やゼリーなどに用いられていました。工場の沿革によると、チュルコワは地元の海藻から得た寒天を使い、泡立て方や温度を試しました。現在「プリモルスキエ」の名で売られる同工場の一例には、バター、加糖練乳、卵白、寒天が使われ、バニラやレモンなどの香りがつけられています。一粒の菓子にも、ケーキの泡層と共通する材料がありますが、商品ごとの配合は異なります。
モスクワのレストランでケーキに仕立てる
モスクワのレストラン「プラガ」では、製菓責任者ウラジーミル・グラリニクと仲間たちが、一粒の菓子から着想を得て大きなケーキを試作しました。グラリニクは後年、スフレの固さを調整するまで半年かかったと語っています。グラリニクの回想では、初めは20〜30台ずつ試作し、購入券を持つ客が早朝から店頭に並びました。一年ほどで一日500〜600台を作るようになり、ほかのレストランにも広がったといいます。
着想の時期を本人は1975年と語っていますが、1974年末の試作や1978年の登場を挙げる説明もあり、時期は定まっていません。1980年にはグラリニク、マルガリータ・ゴロヴァ、ニコライ・パンフィロフの名でケーキの製法が出願され、1982年に公開されました。泡立てた卵白に寒天入りの糖液を混ぜ、練乳とバターのクリームと合わせて生地に重ねる方法が記されています。
珍しいものを表す「鳥のミルク」
「鳥のミルク」は、手に入らないほど珍しいものを表す言い回しでもあります。古代ギリシアの喜劇作家アリストパネスの『鳥』にも、幸福や平和と並ぶ、めったに得られないものとして登場します。ロシアの民話集に収められた「呪われた王子」では、商人の娘が不思議な宮殿で食事を望むと、料理や菓子がたちまち並びます。物語は、その食卓には鳥のミルク以外のすべてがあったと描きます。ただし、こうした古い表現と菓子の命名とを、直接つなぐ経緯ははっきりしていません。軽い泡をチョコレートの内側に収めた一粒と、切り分けて食べる厚いケーキには、同じ不思議な名前が残りました。
用語解説
- 寒天
- 海藻由来の成分から作るゲル化剤。加熱して溶かし、冷やすと固まる。
- 練乳
- 牛乳の水分を減らして濃縮したもの。加糖のものは甘さと乳の風味を加える。
- スフレ
- ここでは空気を含ませて軽くした菓子の層を指す。
- アンナ・チュルコワ
- ウラジオストクの製菓技術者。沿海地方の公文書館は同工場の「鳥のミルク」のルセットを彼女の考案としている。
- ウラジーミル・グラリニク
- モスクワのレストラン「プラガ」の製菓責任者。仲間とともに同名のケーキを試作した。
- ルセット
- 材料の配合と作り方。
- マルガリータ・ゴロヴァ、ニコライ・パンフィロフ
- グラリニクとともに1980年出願のケーキ製法に名前を連ねる製菓関係者。
- アリストパネス
- 古代ギリシアの喜劇作家。『鳥』に「鳥のミルク」という表現が登場する。
- ヤン・ヴェデル
- ワルシャワのE. Wedel社の経営者。1930年代のプタシェ・ムレチコの製造と結びつく。







