Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

レッドベルベット・ケーキ
Red velvet cake
赤い柔らかな生地に、白いクリームの帯
ケーキ / 米国

赤い切り口を白いクリームが区切ります。レッドベルベット・ケーキは、少量のココアと酸味のある乳を使う型が代表的な北米の菓子です。鮮紅色の印象が強い一方、ベルベットという名が表すのは、布のように柔らかな細かいきめ。色材の使い方、酸乳と油脂の選択、白い上掛けの組み立てが、その一台の味を変えます。
油脂と卵へ、粉と酸乳を交互に混ぜる
バターを使う生地では、室温へ戻したバターと砂糖を混ぜ、卵を一個ずつ加えます。ココア、色素、塩、重曹、酢などを合わせた後、小麦粉とバターミルクを交互に加えます。粉で始めて粉で終える順序にすると、硬さの違う材料を少しずつ、滑らかになじませられます。バターミルクの代わりに、低脂肪のプレーンヨーグルトを用いる型もあります。
重曹は、乳や酢の酸と反応してガスを生じ、生地の膨らみを助けます。少量のココアは、赤い色だけでは分からない穏やかなカカオの香りを与えます。バター、ショートニング、植物油のどれを使うかでも、口当たりや混合の順序が変わります。
丸型で焼いた生地は、しばらく型の中で落ち着かせてから外し、完全に冷まします。二枚をそのまま重ねるほか、それぞれを横に切って四層にする仕立てもあります。白い上掛けを挟み、上面にも塗ると、切り口に赤と白の帯が現れます。側面を覆い隠すか、層を見せるかによって、赤が現れる場面も変わります。
炊く粉、甘い油脂、酸味のチーズという三つの白
アーミン・フロスティングは、粉と乳などを炊いたものにバターを合わせる、軽い上掛けです。一つの作り方では、砂糖と粉を混ぜてから牛乳を加え、かき混ぜながらプリン状まで炊きます。冷ましてから柔らかなバターを少しずつ加え、バニラを合わせて泡立てます。炊いた粉の生地と、後から泡立てるバターが、白いクリームを作ります。
バタークリームには、柔らかなバターとショートニングへ粉砂糖、少量の牛乳、バニラなどを加え、塗り広げやすい状態へ整える型があります。白く甘い油脂の層が、赤い生地を区切ります。
現在広く使われるクリームチーズの上掛けは、乳の酸味と濃さを加えます。クリームチーズにマスカルポーネを合わせ、別に泡立てた生クリームを折り込むと、チーズの味を残しながら軽いクリームになります。上掛けは、見た目の白さだけでなく、ケーキ全体の甘さや酸味を決める部分です。
ビーツと色素を両方使うホテルの型
ニューヨークのウォルドルフ・アストリアが現在公開している型は、植物油と卵、砂糖を合わせ、粉、溶かしたチョコレート、ピューレにしたビーツ、赤い色素を加えるものです。バターミルク入りのバター生地とは、材料の組み立てが異なります。
生地を三枚焼き、冷まして上面を平らに整え、チーズとクリームの白い層を重ねます。ココアと酸乳の組合せとは別に、根菜のピューレと溶かしたチョコレートを取り込む構成です。
鮮明な赤より古い、ベルベットのきめ
19世紀の米国では、柔らかな口当たりをうたう「ベルベット」の名が、さまざまなケーキに使われていました。一方、濃いチョコレートのデビルズ・フードや、赤褐色のマホガニー・ケーキなども作られています。20世紀初めには、こうしたチョコレートの菓子と柔らかな生地の考え方が重なり、ココアと酸味を含む乳を使うケーキが広がりました。
古い生地の赤みは、現代の鮮明な赤とは異なる、茶色を帯びたものでした。ココアの種類や加工、配合によって見え方が変わる色に、赤い着色料を加えるルセット(材料の配合と作り方)が広まり、切ったときの対照が強くなりました。
テキサスの着色料・香料メーカー、アダムズは、赤い色素を使うケーキの配合を、売場で持ち帰れるルセットカードにして配りました。ショートニングと砂糖を混ぜ、ココアと赤い色素をペースト状にして合わせ、粉とバターミルクを交互に加える配合です。色材と家庭で焼けるルセットが、一緒に広まったケーキでもあります。
一九七六年の色材規制、一九八九年の映画
米国では一九七六年、食品用赤色二号が認可リストから外れました。歴史家久野愛は、赤い食品の販売を控えたり別色材へ替えたりした企業の対応を記します。
一九八九年『マグノリアの花たち』には、アルマジロ形の赤い花婿のケーキが現れます。スミソニアン協会の食文化記事も、後の関心の高まりに際して同作を挙げます。赤い切り口は、結婚を祝う場面の忘れがたい造形にもなりました。
百貨店から、ジューンティーンスの赤い食卓へ
レッドベルベットは、米国南部だけでなく、ニューヨークのホテルや、カナダのイートンズ百貨店の食文化にも結び付いています。イートンズのレストランを調べ、家庭向けに配合を再構成した料理書でも、名物の一つとして取り上げられています。
米国では、アフリカ系の食文化の中にも取り入れられました。ハーレムのソウルフード店Amy Ruth’sでは一九九八年に提供が始まり、二〇〇〇年にはCake Man Ravenがブルックリンに、このケーキを看板にする菓子店を開きました。家庭や宴席で焼く一台が、街で一切れを買う名物にもなっていきます。メリーランド大学のアフリカ系米国文化研究者サイキ・ウィリアムズ=フォーソンは、ジューンティーンスの食卓の赤を、奴隷制下の流血と現在まで続く暴力を思い起こす色と説明します。赤い飲み物や果物などと並び、このケーキも一つの選択肢です。この祝祭に結びついたのは、赤い菓子としての後の歩みです。国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館は、ジューンティーンスに紹介する料理の一つとして、その配合を公開しています。切り落とした赤い生地を細かなクラムにし、ピーカンナッツと合わせて側面に付ける仕上げです。白い上面を残し、側面には生地そのものの色を飾ります。
一台のケーキから、「レッドベルベット味」へ
大きな段ケーキだけでなく、カップケーキにも作られます。二〇一〇年代には、この名が朝食や袋入りの菓子へも渡ります。IHOPが二〇一二年夏の期間商品にしたパンケーキは、チョコレート風味の赤い生地に、クリームチーズのアイシングと粉砂糖、泡立てたトッピングを合わせる仕立てでした。焼き上げた段ケーキの形を離れても、赤い生地と白い乳の甘味という対照が残ります。
オレオも、二〇一六年一月にレッドベルベット味を米国の定番商品へ加えると発表しました。ここでの名前は、古い一つのルセットだけでなく、新しい商品の風味を伝える言葉でもあります。ケーキへ戻れば、その華やかさの内側にあるのは、乳の酸味、控えめなカカオ、細かな生地、白い上掛けの組合せです。
用語解説
- フロスティング
- ケーキの表面や間へ塗る、砂糖と油脂などを使う上掛け。
- バターミルク
- 製菓では、発酵させた酸味のある乳を用いることが多い。生地へ水分と酸を加える。
- 重曹
- 炭酸水素ナトリウム。酸などとの反応でガスを生じる膨張剤。
- アーミン・フロスティング
- 粉と乳などを炊いてからバターと合わせる、軽い口当たりの上掛け。
- デビルズ・フード
- 米国のチョコレートケーキの一系統。
- アダムズ
- 着色料や香料を製造し、レッドベルベットの配合カードを配った米国のメーカー。
- Amy Ruth’s/Cake Man Raven
- それぞれハーレムのソウルフード店と、ブルックリンでレッドベルベットを看板にした菓子店。
- IHOP
- 米国を中心に展開する、パンケーキなどを提供する外食チェーン。
- イートンズ
- カナダにかつてあった百貨店チェーン。店舗のレストランも食文化の一部を担った。
- 久野愛
- 食品の色と企業・制度の関係を研究する歴史家。赤色二号の規制と食品業界への影響を論じる。
- サイキ・ウィリアムズ=フォーソン
- アフリカ系米国の食文化を研究する学者。ジューンティーンスの赤い食卓について説明する。
- ジューンティーンス
- 米国で6月19日に祝われる、奴隷解放を記念する日。
- クラム
- ケーキの細かい破片。レッドベルベットの赤い飾りにも使う。







