Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

ソバオ・パシエゴ
Sobao pasiego
紙の角を広げると現れる、濃いバターの黄色
焼き菓子 / スペイン・カンタブリア

紙の羽を開くと、褐色の上面の下に黄色い、密で柔らかな生地が現れます。カンタブリアのソバオ・パシエゴは、バターを豊かに使う長方形の焼き菓子です。ところが「ソバオ」という名に残るのは、生地を揉むという古いパン作りの動作。今日のケーキに至るまでに、パン生地に砂糖とバターを揉み込む菓子から、粉を直接混ぜる菓子への変化がありました。
パンを揉む名に残る三段階
地名のパシエゴに対し、ソバオはスペイン語の動詞 sobar、生地を手で揉み、こねる操作に結びつく名です。ベガ・デ・パスの自治体は、初期の菓子をパン生地に砂糖とバターを練り込んで焼いたものと説明し、繰り返し「揉む」操作から名を説明します。地域の食文化研究では、パン用の生地をまず強くこね、分けた後に軽く揉み直す工程も記録します。この名は現在の柔らかいケーキの見た目より、古い作業をよく伝えています。
自治体の整理では、最初のパン生地・砂糖・バターの型、卵やレモン、アニス酒やラムを加えた「古い」型、パン生地を使わず小麦粉から合わせる「現代」型の三段階があります。現在の密で柔らかい中身は、この最後の型に当たります。
エウセビアと療養施設の厨房
パン生地を粉へ替える改良は、料理人エウセビア・エルナンデス・マルティンに帰されています。息子が後年に書いた手紙によると、母は古いパン生地のソバオに着想を得て、一八九六年ごろ、ホアキン・ラソと結婚したころに粉で作り始めました。ベガ・デ・パスの自治体の来歴説明は、その舞台を医師マドラソの療養施設の厨房としています。発酵したパン生地を揉む仕事から、バターと卵へ粉を合わせる仕事へ、厨房での組み立て方が変わったのです。
谷の酪農をバターと卵の生地へ
パシエゴは、カンタブリアのパス地方に関わる言葉です。牧草地と農家が作ってきた谷の景観は、酪農の食文化とも結びつきます。同じ地方にはケサーダもあり、ソバオのバターと卵、ケサーダの凝乳という、乳を別の形へ変える二つの菓子が並びます。
基本のルセット(材料の配合と作り方)では、主な材料はバター、小麦粉、砂糖、卵です。バター、粉、砂糖はほぼ同程度の割合で、乳由来のバターが油脂の中心です。卵を多く使う黄色い生地に、乳脂肪の香りが重なります。少量の糖類や塩などを合わせる余地もあります。
混ぜる時には、まずバターと砂糖を軟膏のようになじませ、その後に卵、最後に粉と膨張剤を合わせます。空気を入れすぎないように扱うため、大きな穴の軽いスポンジではなく、密度と柔らかさを両方持つ中身になります。配合だけでなく、混ぜ方にも地方の菓子の目標が表れます。
「帽子」の紙で支えて焼く
生地は長方形の紙ケースへ分け、天板に並べて焼きます。紙が横の広がりを支えるので、金属の型を一個ずつ外さなくても、そのまま持ち運べる一人分になります。
大きさには、小型から大きなものまで幅があります。焼く温度と時間も、分量と炉の種類に応じて変えます。焼成後は十分に冷まし、温かいまま包装して中に水滴が生じるのを防ぎます。紙に入った簡潔な姿の裏で、混合、焼成、冷却を順にそろえる必要がある菓子です。
一九四六年の地方語の記録には、ソバオを、粉、卵、砂糖、バターから作り、特別に折った紙へ入れて焼く菓子とし、花嫁が婚礼の日に友人へ贈る品とする説明があります。紙は焼成を支えるだけでなく、一個を手渡すための包みでもありました。
このケースは伝統的にゴロ、つまり「帽子」と呼ばれ、両側へ張り出す折り目が特徴です。表面の焼き色と黄色い生地に加え、開く紙の羽も、この菓子を見分ける姿の一部になっています。
パス地方の名を受け継ぐ長方形
ソバオ・パシエゴは地理的表示で守られる名称でもあり、長方形、黄色い中身、バターの香りといった特徴が規定されています。単に四角いケーキというだけでなく、土地と製法を組にして受け継ぐ仕組みです。
朝食や休憩に食べる一個は、クリームを添えずとも乳と卵のコクを備えています。パスの谷で育った酪農の味が、持ち運びやすい一人分に収まっています。
用語解説
- カンタブリア
- スペイン北岸の自治州。
- 地理的表示
- 土地と結びつく品質や評判などを持つ食品の名称を保護する制度。
- 膨張剤
- 加熱などで気体を生じ、生地をふくらませる材料。
- エウセビア・エルナンデス・マルティン
- 十九世紀末にパン生地から粉へ変えるソバオの改良をしたと、家族の回想から紹介される料理人。
- マドラソ
- ソバオの改良譚に登場する療養施設に結び付く医師。
- ガルシア・ロマス
- カンタブリアの言葉や生活文化を記録した研究者。
- ソバール(sobar)
- パン生地などを揉み、こねること。菓子名「ソバオ」の説明に使われる動詞。
- ホアキン・ラソ
- エウセビアの夫。二人の結婚時期が息子の手紙に記された改良年代の手掛かりになった。







