Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

トルタ・パラディーゾ
Torta paradiso
バターと卵のきめを味わう、パヴィアの白い一台
ケーキ / イタリア・ロンバルディア

白い粉砂糖の下に、淡い黄色のきめがあります。トルタ・パラディーゾは、ロンバルディアの大学都市パヴィアを代表するバターケーキです。小麦粉と馬鈴薯でんぷんを合わせ、バターと卵へ空気を含ませて、ほろりと柔らかな生地を作ります。「天国」の名には、菓子店の依頼話と、修道院の伝説という二つの来歴が語られます。
侯爵の依頼と、修道士が教わったケーキ
パヴィアのヴィゴーニは、エンリコ・ヴィゴーニが大学の正面に開店した1878年を、このケーキの創作年としています。クザーニ・ヴィスコンティ侯爵に、何日もおいしさを保つ菓子を求められて作り、食べた貴婦人の「天国のよう」という言葉が名になった、という店の物語です。
1931年の『Guida Gastronomica d’Italia』に伝わる話は、侯爵がスイスで食べたジュネーヴのガトー・フォンダンを手掛かりに、1878年にヴィゴーニが考案したとします。初めの名はトルタ・イングレーゼだったともいいます。現在の店の説明と共通する人物と年を持ちながら、別の菓子に着想を得た筋を残します。
チェルトーザ修道院の伝説では、薬草を探しに出た修道士が、近くに住む若い花嫁から柔らかいケーキの作り方を教わります。修道院へ戻り、兄弟たちへ焼くと、あまりのおいしさに「天国のケーキ」と呼ばれたという話です。若い花嫁から修道院の兄弟たちへ、柔らかなケーキが渡る物語です。
店は1906年の国際博覧会の金賞も伝えています。商工会議所がトルタ・デル・パラディーゾをパヴィアの伝統食品として取り上げる今日には、一軒の店の歴史と、土地の菓子という位置付けが重なっています。
二種類の粉を、バターと卵へ混ぜる
主材料は卵、バター、砂糖、小麦粉、馬鈴薯でんぷんで、ヴィゴーニの製品にもこの組合せがあります。でんぷんは小麦のたんぱく質を増やさずに粉の量を補い、パンのような弾力より、細かくほどけるきめへ向かわせます。
ロンバルディア州の農林業機関ERSAFの料理集のルセット(材料の配合と作り方)では、小麦粉と馬鈴薯でんぷんを同量ずつ使います。まずバターを長く練り、砂糖、卵黄を加え、別に泡立てた卵白を合わせます。ふるった二種類の粉とレモンの皮を混ぜ、型の三分の二を超えないよう流して、膨らむ余地を残します。卵黄と卵白の二つの泡を生かすこの型に対し、現在のヴィゴーニの製品は重曹も補います。
『クッキアイオ・ダルジェント』の家庭向けの型は、バターと粉糖を泡立て、全卵に追加の卵黄、粉類と膨張剤を混ぜます。卵白を別に泡立てる型だけではありません。いずれも先に空気を含ませた材料へ粉を合わせますが、卵の分け方と膨らませ方は作り方ごとに違います。
乳脂肪と香りに、職人の選択がある
菓子職人イジーニオ・マッサーリの製品は、すましバターと、サクランボのリキュール、マラスキーノの香りを特徴とします。アカシア蜂蜜やレモンの皮の砂糖漬けも使います。バターを豊かにする骨格は共通でも、乳脂肪の扱い、糖と香りの重ね方には、別の選択があります。
大きなケーキを切るほか、ヴィゴーニには一人分の小型もあります。朝には牛乳と合わせ、食後にはデザートにします。ERSAFの料理集は焼きたてだけでなく、休ませてから食べることも勧めます。星形などの型紙へ粉砂糖を振り、型を外せば白と焼き色の模様ができます。果実や厚いクリームを積まずとも、粉砂糖の面、焼いた縁、黄色い中身の違いを、大小の一台に残す仕上げです。
用語解説
- 馬鈴薯でんぷん
- じゃがいもから取り出したでんぷん。小麦粉と合わせて使う。
- すましバター
- 水分や乳固形分を取り除き、脂肪分を主体にしたバター。
- マラスキーノ
- マラスカ種のサクランボをもとに作るリキュール。
- パヴィア
- イタリア北部ロンバルディア州の大学都市。
- エンリコ・ヴィゴーニ
- 一八七八年にパヴィアに店を開いた菓子職人。店は同年をこのケーキの創作年とする。
- クザーニ・ヴィスコンティ侯爵
- ヴィゴーニにケーキを求めた人物として店や地域資料に登場する侯爵。
- ERSAF
- ロンバルディア州の農林業に関する機関。地域料理集を公開する。
- チェルトーザ
- パヴィア近郊の修道院。薬草探しに出た修道士が若い花嫁から作り方を聞いたという伝説の舞台。
- イジーニオ・マッサーリ
- イタリアの菓子職人。自身の店でトルタ・パラディーゾも販売する。







