Sweetlore世界のお菓子図鑑(234)

トルタス・デ・アセイテ
Tortas de aceite
手で薄く広げる、オリーブ油とアニスの円盤
焼き菓子 / スペイン・アンダルシア

手のひらで薄く広げた生地を砂糖へ当て、糖の面を上にして焼きます。セビリア近郊カスティジェハ・デ・ラ・クエスタのトルタス・デ・アセイテは、オリーブ油、ごま、アニスの香る丸い焼き菓子です。少し不揃いな縁と軽く砕ける面には、一枚ずつ延ばす手の動きが残ります。薄い姿の内側では酵母も働き、混ぜる温度と分割の速さが発酵の進み方を左右します。
等量に分け、一枚ずつ手で延ばす
小麦粉とオリーブ油などを合わせた生地を取り分け、手で薄く丸く広げます。生地の中心から外へ均等にのばすことで、焼いた時に厚い塊を残さず、薄い円盤になります。手で作るため、大きさや縁の波には少しずつ違いがあります。
製造元イネス・ロサーレスのルセット(材料の配合と作り方)も、一枚ずつの手仕事を現在まで受け継いでいます。油はエキストラ・ヴァージン・オリーブ油を使い、ごま、アニス、砂糖の組み合わせを保ちます。薄い面には焼成による小さなふくらみができ、砂糖の粒が表面へ留まります。
二〇一二年に公示された登録申請の仕様書は、生地を等量に分割する機械と、一枚ずつ手で広げる成形を分けて記しています。手のひらへ生地玉を載せ、反対の手の縁で中央から押し広げ、砂糖の容器へ手を打つように当てて薄く付着させます。丸く広げた生地を焼成のベルトへ移す際にも、糖の面を上にする手の動きが定められています。
生地には酵母も加えます。仕様書は混捏後の温度を二五〜二八度とし、分割機に入っている間に過度に発酵することや、発酵が進まないことの両方を避けます。焼いた姿が薄くても、単に粉と油を混ぜて乾かすだけの生地ではありません。
登録対象の直径は一三センチに対して前後二センチの幅があり、厚さも薄い部分の一ミリから厚い部分の七ミリまで変わります。均一な板にしない手延ばしが、縁と中央の焼き色の違いにも表れます。短時間で焼き、冷ましてから一枚ずつパラフィン紙で包みます。形を崩さず届けるまでが一続きの仕事です。
外側の砂糖から、油と種の香りへ
オリーブ油は、粉をまとめる材料であると同時に、菓子全体の風味の軸です。ごまは小さな香ばしい粒として残り、アニスは少量でも甘い芳香を加えます。砂糖が外側にあるため、噛み始めの甘さの後へ、薄い焼き生地と種の香りが続きます。
折り込みで多くの層を作るパイとは異なり、一枚の薄い生地に、油と種を散らして焼く構成です。割った時には大きな中空の中心より、薄い面の破片が現れます。
家の復活祭菓子が、外へ売り出される
登録申請書は、復活祭のころ家で作った薄い菓子が二十世紀初めに売り物として広がった、と説明します。イネス・ロサーレス社の来歴では、一九一〇年、イネス・ロサーレス・カベージョがセビリア郊外アルハラフェの家庭の配合を家の外へ売り広げました。地域の女性たちが一枚ずつ生地を延ばす仕事も、この販売と結びついたと会社は語ります。
地名を冠したカスティジェハ・デ・ラ・クエスタの型は二〇一三年、EUの伝統保証特産品として登録されました。一枚ずつの成形と包装を含む、伝統の仕事を保つ名称になっています。
アセイテという名を持つパンと菓子
スペイン語のアセイテは油を指します。この名を持つものすべてが、セビリアの薄い甘い菓子ではありません。製パン技術者フランシスコ・テヘーロが公開するトルタ・デ・アランダは、油を表面に回しかけ、指でくぼみをつけて焼くパンです。羊のローストなど、料理と合わせて食べます。アニス、ごま、砂糖を香らせるセビリアの薄い型とは、用途も中身も異なります。
チーズや果物にも添える一枚
現在は甘い型だけでなく、塩やごまを前に出す型も作られます。一枚をそのまま食べるほか、チーズや果物を添える用法は製造元も紹介します。甘い一枚の香りをチーズの塩味と合わせる食べ方にも、塩味の新しい型にも、オリーブ油を生かす生地が働きます。
用語解説
- アニス
- 甘い香りを持つセリ科植物。種を製菓にも使う。
- エキストラ・ヴァージン・オリーブ油
- オリーブ果実から機械的に得られる油のうち、規定の品質に適合するもの。
- アルハラフェ
- セビリア西方の地域。
- イネス・ロサーレス・カベージョ
- 1910年に家庭のトルタスを売り広げたと伝わる、イネス・ロサーレス社の創業者。
- フランシスコ・テヘーロ
- スペインの製パン技術者。製法と技術解説を自身のサイトで公開する。
- トルタ・デ・アランダ
- アランダ・デ・ドゥエロなどで作られる、油を生かした平たいパン。
- 混捏
- 粉や水分などを混ぜ、練って生地にする工程。
- パラフィン紙
- 薄い菓子を個包装するため仕様書に記される加工紙。
- 伝統保証特産品
- EUの制度上、伝統的な配合や製法などの特性を示す食品の区分。







