Sweetlore世界のお菓子図鑑(534)

クレイジャ
Kleija
家庭の仕事を支える祭り
焼き菓子 / サウジアラビア・カスィーム、ブライダ

クレイジャ(Kleija、كليجا)は、サウジアラビア中部のカスィーム、とりわけブライダで知られる、餡を包んだ円盤形の焼き菓子である。小麦粉の皮の内側に、デーツの蜜や砂糖、香辛料を合わせた甘い中身が入る。表面には網や道具を押し当てた模様が付き、焼き上がると、褐色の皮の中に甘い餡を閉じ込めた形になる。
デーツの果肉をそのまま練った餡だけが、この菓子の中身ではない。デーツ蜜、砂糖、カルダモン、シナモン、乾燥ライム、ショウガなどを合わせるものがあり、香辛料の香りを含んだ濃い甘味が特徴になる。家庭や店によって中身は違い、デーツ餡、ナッツ、ココナッツを使うものや、トフィーなどを取り入れた製品もある。
家庭の仕事を支える祭り
ブライダでは2009年にクレイジャ祭りが始まった。祭りの目的には、菓子そのものを紹介するだけでなく、家庭で食品や手工芸品を作る人々に販売の機会を広げることも含まれる。家庭の配合や技を守る場であると同時に、それを商品として売り、仕事へつなげる場でもある。
2024年の第15回には家庭で食品などを生産する217世帯が参加したと記録されている。1軒の有名店だけが土地の味を代表するのではなく、多数の家庭がそれぞれの作り方で参加するところが、この祭りの特徴である。同年、クレイジャはサウジアラビアの料理文化を地域ごとに紹介する取り組みで、カスィームの代表料理に選ばれた。
ブライダは2021年にユネスコ創造都市ネットワークの食文化分野へ加わっている。ただし、これはクレイジャの作り方そのものを世界遺産として認定したという意味ではない。菓子をめぐる製造、販売、家庭の仕事、地域文化を含めて食の町を捉える取り組みである。家庭の作り手が祭りで販売する現在の姿は、円盤の形や香辛料の配合だけでは説明できない。
餡の香りを皮の中へ収める
皮には全粒粉や白い小麦粉、油脂などを使う。粉と油脂を混ぜてから水を加え、柔らかな生地にし、分割して餡を包む。牛乳やギーを使うもの、動物性の脂を使うものがあり、発酵させる方法もある。すべての製品が1つの配合で作られるわけではない。
餡に使うデーツの蜜はディブスとも呼ばれる。デーツの果肉の塊ではなく、濃く煮詰めた蜜を砂糖や香辛料と合わせるため、切った中身の姿も、果肉を詰めるクッキーとは違う。乾燥ライムのルーミーは、柑橘の酸味だけでなく乾燥した香りを加える。カルダモンやシナモンの甘い香りとともに、焼き生地の中へ収める材料である。
餡を包んだ後は、上面に模様を付けて焼く。サウジアラビアの説明には、網に押し当てて表面へ模様を移す工程がある。模様は焼いた後の装飾ではなく、生地が柔らかい段階で作られる。丸く閉じた皮、表面の規則的な跡、香辛料を含む内側という3つの要素が、完成した姿を作る。
近い名の菓子と、カスィームのクレイジャ
イラクにもクレイチャと呼ばれる、デーツやナッツを包む焼き菓子がある。そちらには半月形や巻いた形などがあり、祭りに家庭でまとめて作る菓子として知られる。似た名を持ち、餡を生地で包む点を共有していても、カスィームの円盤形やデーツ蜜と香辛料の中身まで、すべて同一ではない。
また、マアムールのような型押しの詰め物菓子とも外観が近いが、形が似ていることだけでは生地の配合や餡を識別できない。クレイジャでは、地域で使う小麦粉、油脂、濃い蜜、乾燥ライムなどの組み合わせに目を向けると、型の模様だけでは分からない違いが見えてくる。
左は表面に跡を付けた円盤、右は焼き皮に包まれた甘い餡の概念断面。特定の工房の型やデーツ蜜の配合を再現していない。 模式図であり実寸ではない。 図:Sweetlore独自作図。







